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断罪

 

 村の外れにある古びた教会で、二人は久しぶりに対峙した。

「こんな所に現れるなんて、何を企んでいる?」

 教会に似つかわしくないその姿で、赤い液体の入ったグラスを傾けている悪魔に、神父は問うた。

「企む? ここで、おまえが来るのを待っていてやったんだ。ずっと、おまえがオレを呼ぶ声が、聴こえていたからな。昔も今も変わらずおまえの声は、オレの耳に心地好い」

 悪魔は、神父に口にしていたグラスを差し出した。

「飲むか? これは、おまえに心を奪われた女の血だ。女がおまえに恋焦がれていたのを知っているか?」

 

 口元に冷酷な笑みを浮かべ悪魔は続ける。

「厳格な神父さまは、知らないか。あまりにも女が可哀想だったので昨夜、変わりにオレが慰めてやった。いい女だったぞ。乳房を食い千切ったら好い声で悲鳴をあげた。首を刎ねる最期まで、おまえを呼んでいたぞ。女の声が聴こえなかったか?」

 悪魔は、楽し気に残酷な言葉を発する。

「おまえは、変わってしまった……」

 悪魔の赤い瞳を怒りのまま見返して、神父は呟いた。

 そんな神父を不思議そうに見やり、首を傾げて悪魔は答える。

 

「変わったのは、おまえのせいだ。おまえがまだ、神父になる前……オレは、狂った心でオレの神に祈っただけだ。そしてソレをオレの神は叶えてくれた。神が云うとおり、おまえの女房を犯して綺麗な身体を切り刻み、心臓を抉り出した時、オレは救われた」

「それは神ではない!」

 神父は悲鳴に近い声を上げた。

「以前のおまえは誰よりも美しく聡明であった筈なのに……。私には確かに、おまえの背に白い翼が見えていた」

 

 そう、目の前の悪魔が、まだ人間だった頃の話しだ。

 隣の家の歳の離れた少年が、自分に懐いて何処へ行くにも自分の後を追ってくる姿が可愛かった。可愛くて仕方なかった。

 この想いは、弟に対するソレだと思っていた。

 

 だが、その想いがソレとは違うものだと気づいたとき――

 少年の背に見えるその白く美しい翼をもぎ取りたいと……。

 その華奢な身体を思う存分、自分の意のままに貪り喰らいたいと……日夜、恐ろしい妄想に駆り立てられた。

 

 黙ったまま悪魔を見続ける神父に悪魔は、囁いた。

「今なら解るぞ。おまえは、女房からもオレからも……自分の想いからも逃げたのだ」

「そうだ……。私は、逃げた……」

 消しても消しても消えない想いから、家族に薦められるまま村一番の器量善しと結婚した。

 妻は、可愛かった。自分には、勿体無いほど、妻は自分を愛してくれた。

 なのに……その妻もその想いを消してはくれなかった。

 

「それは、私の罪だ。そして、その罪を償おうと神に自分の総てを捧げた。今、私は神と共にある」

 それを聞き悪魔は、カラカラと高笑いした。

「ならば、オレを殺すか?おまえに、オレが殺せるのか?」

 神父は、剣を抜いた。

「殺すのではない。おまえを救いたいだけだ」

「オレを救うというのであれば、オレのものになれ。そうすれば、オレは救われる。それをしない限り、オレは再び生まれ変わるぞ。おまえを誰かに取られるのは、真っ平だ。それがたとえ神であろうとな」

 

 言葉が終わる瞬間神父は、悪魔の胸に剣を突きたてた。が、一瞬悪魔が時空を超えるのが早かった。

 悪魔は、逃げた。次は、何処の世界に跳んでいったのか……。

「何処へ行こうと、何度生まれ変わろうとも、私はおまえを見つけてみせるさ。おまえを救う為に……」

 そして神父は、悪魔の気配を追う為、全神経を集中させた。


奥付


断罪


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著者 : 恵多
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