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浮気というアブナイ恋を運命の恋に変える?

 8月のある暑い日、ゆり子が帰郷しているという事で、今日は孝詞のマンションのドアの前に恭子は立っていた。暑い真夏の夜なのにサングラスをかけ、マスクをしている。風俗関係、探偵、それとも顔を外に出せないというような訳あり?の雰囲気を醸し出していたが、少なくとも人物は特定できないし、それほど目立つわけでもない。だから恭子の変装は、オーソドックスで成功している方かもしれない。502号室のドアが開くと、地味な紺色のスカートと、ノースリーブのポロシャツの恭子は、一瞬で孝詞の部屋に吸い込まれていった。

 ドアを閉めると、恭子はサングラスとマスクをシューズボックスの上に無造作に置いて、孝詞と唇を合わせた。こんな風にして抱き合う事が出来ない時間の経過していくじれったさや、表だって付き合う事の出来ない現実やさまざまな不安の要素が、2人のハートに勢いよく火をつける。抱き合い、ディープキスをして、お互いが相手の体のお尻や背中や肩や腕など、まるで愛おしい本物の恋人なのかを確認するかのように、体をまさぐっている。そして、数分経っただろうか、二人とも目一杯まさぐっていた腕の力などを、やっと抜いて体を引き離した。一旦脱力しないと、二人の体は何時までもくっついていただろう。今日は恭子の方が初めに引き離した。それは、廊下の壁に飾ってあったピンク色のハートのオブジェのようなものが、恭子を少しだけ不機嫌にしたからかもしれない。通い妻のように時々ゆり子はここに来て、孝詞と会っているようだが、ドアや壁にゆり子好みの痕跡を残すかのように、そのオブジェ達は自己主張している。ゆり子様いらっしゃいとでも言っているようで、やはり恭子には敵のセンスの無いオブジェに、良い気はしなかった。

 恭子はシャワーを借りて汗を流すと、テレビを見ていた孝詞の横に座り、缶ビールを飲んだ。缶ビールを飲み、テーブルの上に置くと、孝詞の手は恭子の若鮎のようなすべすべした体に手を伸ばした。最初から孝詞の手は秘所に直行していた。右手がそこに触れると恭子の喘ぎ声が聞こえた。恭子は恭子で孝詞のショートパンツのジッパーの部分に左手を被せている。序曲が奏でられると、もう止まらない。お互いに脱がせ合い、お互いに愛撫しあい、お互いに舌を這わせる。視覚が生み出す強烈な愛欲と、体の内部から出てくる快感が、二人の行為の中で溶け合っていく。この部屋で、孝詞とゆり子が交わっていようと、もう恭子には関係なくなった。今、目の前にいる孝詞を愛せれば幸せなのである。さまざまな方法で相手を翻弄し、貪り、快感を与え、やがて結合と言う神が生んだ最高の儀式に向かっていく。この行為は場合によっては世間でいう猥褻や姦淫となるが、今の二人には関係なかった。ただ、本当の恋人に出逢うタイミングが遅かっただけなのである。荒々しく、猛々しく、時にはリズム正しく、時には恍惚の光に溺れ、やがて、終焉のステージに降りていく。どんな行為も常に終わりがある。始めと終わり、その豊潤な波は二人の心の不安を十分に満たすのである。

 

二人は2回目の結合を終え、服を着始めた。ソファーに背を付けてフローリングに直に座ると、冷たい木の感触が心地良いと恭子は思った。

「ねえ、孝詞さん、別れさせ屋のこと知っている?」

 孝詞は聞いたことがなかったその職業のような名前に反応してしまった。

「初耳、そんな仕事があるの?」

「私たちの状況はまだそこまで行っていないけれど、今後の事もあるからこの間図書館で調べてみたの。自分は別れたいのに、相手がどうしても同意しない。離婚したいけど、状況が複雑で自分と相手だけの問題ではない時など、いろんな状況に対して探偵社の人たちが、工作のシナリオを作るらしいわ」

「何でも商売になるんだね?」

「暴力を振るう男と別れたい。ヒモになってきた彼と別れたい。浮気ばかりする旦那と別れたい。相手と別れたいけど、お金を貸しているとか、世間体があるから波風を立てずに円満に別れたい。いくら別れ話・離婚話をしても、全く納得してくれない。別れ話をしたら、ストーカーになった。別れるなら死ぬなどと脅される。怪文書を撒かれそうだとか、そんな困った事でも対処してくれるみたい」

 孝詞は恭子の話を聞きながら缶ビールを飲んでいる。恭子も飲みながら話している。時折孝詞は恭子の体にスキンシップをする。触れる部分によっては、恭子は声を出したりするが、自分の話に今は夢中だった。

「たとえば、孝詞さんがゆり子さんと別れ話をしたら、ゆり子さんは絶対に感情的になると思うの。私だってそうだわ。相手が別れたくない、離婚したくない本当の理由が判らなければ、感情が優先して何も進まないと思うの。だから、そこに探偵社の人間が工作を行うことによって、出口を見つけることが可能になるみたい。そうすれば、怒りが孝詞さんに向けられないで、工作を担当する人間に向かうから、かなり孝詞さんは楽になるっていう事です」

「そんなに上手く行くかな?」

「まあ、そんな人を雇わなくても、頭を使えば上手く行くこともあるらしい。あり得ないと思うけど、もし万が一孝詞さんがゆり子と結婚することになって、不倫という形になった場合でも、私を愛し続けてくれるかしら?」

「そんな馬鹿な。ゆり子とは結婚する気などないよ。いずれは別れるのは間違いない。ただ、上手く別れるために、タイミングを図っているのさ。お互いに求め合い必要としているから、必ず一緒になりたい。相思相愛の恋愛なんだから、僕はゆり子には後ろめたさを感じていないよ」

「そう言ってくれると嬉しい。孝詞さんがすっきりと別れられたら問題は解決するでしょうし、私もあの重徳君を上手く納得させれば済む話なんだわ。だけど、どちらも別れを拒まれることで、問題が大きく悪化することが絶対に無いなんてことはありえないかもしれないね。まあ、二人に本物の愛があれば乗り越えられる障害と考えて対処していきましょうよ」

「二人とも綺麗さっぱり別れて、言わば略奪愛みたいなものだけど、それを叶えるためには、本当に出来る限り、揉めることなくスムーズに進めたいね」

「そうね、それが私たちの理想です。略奪愛って孝詞さんは今言ったけど、悪いことをして奪うつもりはありません。相手を愛する気持ちが無いカップルが、別れる前に最愛の人に出逢ってしまって、不倫のような形式になってしまっただけのことです。私たちは、お互いに愛し合っているのですから、ちゃんと別れて、新しい人と再出発する方向に向かっている立派な恋愛なのです。だから略奪愛と言うのは何か違和感があるの。まあ、取られる方からしたら略奪愛なのでしょうけど。いずれにしても、その後、未来永劫幸せなカップルになれれば、略奪愛は真の恋愛になるのでしょう。実際、人間というのは、完璧なものではありませんから、間違った選択をしてしまう場合や、結婚して相性が悪いと気付くことだってあるはずです。それなら恥じることなく責任を果たして、もっと発展した関係を築けば良いのよ」

「恭子さん、随分力が入るじゃないか?そうだね、略奪愛を叶えるには、お互いの気持ちが同じであること、お互いを必要として求め合っている場合に成功すると僕も思う。僕たち二人もきっと成功するよ」

「そうね、誰かが言っていたけど、危険な恋を運命の恋に変える!みたいな人生って面白いと思うの。まあ、恭子の願望ですけど。いずれにしても、私は孝詞さんを愛したことについて何の後悔もありません」

「僕もだよ。後悔なんかしていない。恭子が大好きだ。だから今後の事も考えて、スムーズに未来を育みたいと本当に思っている」

「純粋な恋でも悪い方向に行くことが多いけど、あらゆることを考えて、素晴らしい未来予想図にしたいの。もう最悪の場合は探偵社を本当に使ってもいいと思っているわ」

「そうだね。場合によっては考えよう。ゆり子はおっとりしていて気性も穏やかなイメージがあるが、ところがどっこいで、昔はヤンキーだったみたいだよ。犯罪というほどではないけど、結構両親に反発して、金髪だったそうだし、煙草吸ったり、万引きしたりと、一通りの悪はやったそうだ」

「へー、それは初耳。そうね、私よりおとなしそうに見えるけど、何かの拍子に切れることがあると、凄い強い言葉を吐くのを見たことがあるわ。やっぱりそうだったの・・・・・・

「中学2年の時、学校の物置を燃やしたことがあるらしい。なんでも事務員のおじさんに服装の事で注意されたので、逆恨みして燃やしたと言っていた。高校の時には、江戸川で渡し船のオヤジと何かトラブルがあって、仲間と一緒に夜中に小さな船を燃やしたことで、補導されたとも言っていた。本人は淡い過去みたいに喋っていたが、ちょっと火にかかわる過去だからやばい気もした」

「ゆり子さんを擁護するわけではないけど、何かしら脛の傷を持っているのが人間だから、気にしない方が良いよ・・・・・・

 と恭子は言いながら、それでも寒気がするような気がした。

 

 孝詞は恭子のTシャツの隙間から見える乳首のところまで、右手を入れて弄んでいる。孝詞のショートパンツのジッパーの中のものはすでにいきり立ち、また果てしない欲望の渦に巻き込まれていった。恭子も再び若い肉体から発散してくる生命力漲る情欲に身を任せた。三回目に突入していたのである。


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孝詞を絶対にゆり子から奪って見せる

 9月のある日、管理部の部屋に入ってきた孝詞は、恭子に一瞬だけ眼差しを向けたが、その笑顔は仮面の恋人であるゆり子に直ぐ向けられた。これほど孝詞は演技がうまいのかと恭子は思ったが、今日は何故か体内の奥で、憎しみめいた嫉妬心が湧きあがるのを感じた。いつもだと簡単にゆり子への嫉妬心はセーブできていたが、自分ではどうもしがたいバイオリズムの不調からか、今日は爆発的に起きてくるような気がした。座っている自分の体が、ガタガタ震えるような錯覚を感じた。それでも顔は、いつもの美人らしい人を寄せ付けない気高さを何とか保っていた。

 星野部長や他の同僚が席を外していて、ゆり子は割と恭子は親友だと思っているせいか、平気で内輪の話をしている。

「西船橋駅で電車に乗って帰るとき、本当に怖かった。降りたら孝詞さんに電話しようと思ったくらい。でも、睨みつけてやったら、すごすごとどっかに消えてしまったの・・・・・・。変なオヤジだったの

「大丈夫?その後尾行されなかったの?」

「うん、大丈夫でした。家に着くまで後ろを振り返ったりして、警戒していたから・・・・・・

「良かった、何もなくて。やっぱり葛西の家まで送った方が安心かな?」

「いいの、いいの。そんなことしたら仕事に差し障るから、これでも腕っぷしは強いから、いざとなったらぶっとばしてやる、なんてね。本当はか弱い乙女なの・・・・・・

二人は本当に仲の良い恋人のように振る舞っていた。

『嬉しそうなゆり子、仲良くして見せつけてくれるじゃないの。孝詞さんの本当に愛している人は私なのに。ゆり子がどんなに愛しても、私に勝てるはずがない。それなのに、さも自分が彼の心を独占していると思い込んでいるのだから可哀想。でも、人の前でいちゃいちゃするのはやめて欲しいものだわ。ずっと見ていると頭にくるわ。早くこの部屋から孝詞さん立ち去って。お願い』

 恭子は心の中で、煮えたぎるような嫉妬心に翻弄されていることが癪に障っているが、自分も女だという気持が、さらに怒りを生むような思いだった。恭子はほんの数秒間だけ、孝詞を睨むような目つきをしたが、孝詞は気づかないような振りをしている。相変わらずゆり子の前で愉快そうに笑って話している。

『私といる時は、あんなに優しそうには喋らない気がするけど、気のせいかしら。いくら芝居とはいえ、私のことなどまったく眼中にないような素振り。大声出して、孝詞は私のものよ!と叫びたいくらいだわ。ちょっと孝詞さん、どさくさに紛れてゆり子の肩なんかに触らないの。ここは会社。しかも自分が一番好きだと言った私の目の前よ。演技とはいえちょっと自粛してよ。本当は私をからかって楽しんでいるの、孝詞さん!私ってそんなに存在が貴方にとって軽いのかしら。逢う時はいつも一番一番と言っているけど、本当の所はゆり子の方が本命じゃないの?私って魅力がないのかしら?美人も台無しね?駄目な女かしら?こんなことを考えるようでは?自信を持たないと。恭子!』

 恭子は珍しくイライラしているのか、ボールペンをノックし始めた。カチ、カチと言う音が部屋の中に小さく響いている。ゆり子は全く気付かない。それほど孝詞と話しているのが楽しいのだろうか。

 しかし、孝詞は気付いたようだ。恭子の孝詞に判る小さな不機嫌さを見抜いたのか、しばらくするとまた3階に登って行った。その出ていく姿にやっと安心したのか、恭子は胸を撫で下ろした。だけど、いつも目の前で二人が話していても平静でいられるのに、今日は変だと恭子は思った。そして自分の額を軽く手で叩いている。

「恭子さん、どうしたの?頭痛いの?」

 憎い敵であるゆり子に声を掛けられて吃驚した恭子であるが、直ぐに自分を取り戻してにこやかに笑って言った。

「お二人さんがあまりに仲が良いので、頭痛がしたの・・・・・・

 その言葉が、ゆり子の笑いのツボに嵌ったのか、大きな声で笑い出した。その声は星野部長が部屋に入ってくるまで、続いていたような気がする。恭子は顔は笑っていたが、心の中ではうんざりしていた。

 

 お昼休み、恭子が3階の女性用のお弁当を食べる部屋から一人出てくると、エレベーターホールで孝詞とバッタリ出逢った。孝詞も偶然1人きりだった。すると、恭子は突然何を思ったのか、エレベーターホールの横にある倉庫の部屋に、孝詞の手を引っ張って入って行った。入ると孝詞に鍵を掛けてと言う。幸い誰も見ていなかったようだが、恭子は心臓が飛び出そうなほど、自分の行為に動揺していた。会社でこんなことをするのは、万が一見つかったら大変なことになるのは十分に判っていたが、バイオリズムの狂いだろうか、狂気じみた突飛な行為だった。孝詞も急激な恭子の行動に、ドキドキしているようだ。

「私のこと好き?愛している?」

「勿論だ、恭子さん。決まっているじゃないか」

「嘘!本当はゆり子の方が好きなんでしょう?」

「そんなことあるわけないじゃないか。恭子さんだけだよ」

「今日のわざと見せつけるような態度は何?」

「しょうがないじゃないか。タイミングが悪くて、まだ別れていないと言うだけの話じゃないか。でも気に障ったようなら謝る。今後は君の前ではゆり子と今日みたいになれなれしくしないから」

「いいえ、きっと貴方は私の心を嫉妬心で燃え上がらせて、楽しんでいるに違いないわ。悔しい!!」

「違うよ。今日は話のなりゆきで、あんなくだらないたわいのないことを言って、ゆり子を安心させていたけど、視線を向けていない君の事が、好きでたまらないんだ。本当は。ゆり子の側にいるから嬉しいんではなくて、管理の部屋で、くだらないことをゆり子と話しながら、恭子さんの側にいたいだけなんだよ。この気持ちに嘘はない。ゆり子は唯のお喋り相手にしか過ぎないんだよ。君を見ていないようで見ているんだよ。君の近くにいると、君の暖かいオーラを感じることができるんだ・・・・・・

・・・・・・

「本当だよ。神に誓って僕には君しかいない。いずれは綺麗さっぱりとゆり子とは別れるから。時間がかかるけど待っていて」

「どのくらい待てばいいの・・・・・・。重徳は何とでもなると思うから、貴方次第なの。いつまで?

「今年中には、何とかしたい」

「本当?」

「機嫌を直してくれよ。恭子さん」

 この倉庫には断熱材のようなものが内側の壁全てに張ってあり、防音効果がある。だから二人の声は外には聞こえない。

 孝詞は目の前に立っている、拗ねているが美しい恭子が愛おしくなって抱きしめてキスをした。会社であることなど忘れてしまっている。誰かが、鍵を掛けて二人が入っていることに気づいたら、全てが終わりかもしれない恐怖感に、二人は逆に燃え上がるようだった。キスをして舌を絡めると、痺れるような快感が二人の体に巻き起こった。やってはいけない危険なこの場所であるからこそ、瞬時にして情欲は増幅されていった。

 孝詞の右手は、恭子の紺色のスカートの臀部の部分をまさぐっていた。弾力のある肉感的な臀部は、孝詞の心に火をつけた。恭子は両手を孝詞の体の背中に回して、きつくきつく抱きしめた。まるでこの良人を失いたくない、誰にも取られたくない、特にあのゆり子には、というような意志表示をしているかのようだった。情欲が高まった孝詞はついに爆発した。恭子のブラウスのボタンを外すと、真っ白なブラジャーに包まれた胸が出てきた。そのブラジャーを下にずらすと、ピンク色をした固くなった乳首を唇で吸い始めた。敏感な恭子は思わず声をあげてしまった。あげながら孝詞の股をさすり始めた。天狗の鼻である恭子にとって大切なものは、鉄筋のように固くなっている。恭子は孝詞のズボンのジッパーを下に引いて、トランクスのわきから彼のその部分をつかんで、手を上下に動かした。孝詞も押し寄せてきた快感に、大きな声が出そうであった。

 孝詞は恭子を後ろ向きにして、両手をストックしてあった茶色の机の天板に置かせると、紺色のスカートを捲りあげた。黒いストッキングの下には白いパンティーが透けて見えた。ストッキングを無理やり膝まで下げ、その次に白いパンティーを下げた。白くて美しい造形の恭子の尻が、見事に実を結んだ果実のように孝詞には見えた。そのお尻の割れ目の部分はすでに潤っているのか、体液で濡れそぼっている。孝詞は興奮ぎみにその濡れた秘所に指を入れ、ゆっくりと抜き差しをした。恭子の声は段々と高くなっていく。孝詞は恭子に声を出すのを抑えるように、手を彼女の口に当てる素振りをした。少しトーンは下がったが、快楽に満ちた卑猥じみた声の質は、いよいよ淫乱に染まっていく。

 指だけでも逝きそうなほど恭子は乱れている。孝詞も我慢できないところまで来ているのが判ったので、勢いよく革バンドを外して、ズボンとトランクスを膝まで下ろした。いきり立った天狗の鼻は大きくなり、固くなって血管が浮き出ているようだ。

「来て!孝詞さん!とてもスリルがあって、気持ち良くて持たないわ」

 孝詞は恭子の濡れたその部分に、いつの間にか用意していたコンドームを被せて挿入すると、力強くピストン運動を始めた。突き立てて奥にあたる度に、恭子は喘ぎの声を上げる。恭子のお尻は肌が白くて美しい。その丸みを持った柔らかいお尻が、突くたびに変形したり戻ったりするのを、孝詞は王様のような気分で見とれている。時々、露出している均整のとれた乳房に手を回して揉んだ。そのあまりにも柔らかい胸の感触に、孝詞は言いつくせないほどの幸福感に満たされた。

 何回ぐらいピストン運動をしたのだろうか。いつもの半分ぐらいの時間で、もう孝詞は逝きそうだった。会社の中で愛し合うというタブーを犯している罪悪感や不安感が、情欲を煽り立てているのであろう。

「逝きそうだよ、恭子!」

「私も逝きそう。来て、最後は一緒よ!」

 昇り詰める二人の呼吸と喘ぎ声のリズムは、ぴったりと合致していた。

「あ、逝っちゃう」

 孝詞もそれに合わせて声をあげながら、自分のものを出した。白濁の体液がコンドームの先に溜まっている。そのまましばらく二人は茫然としていた。

 呼吸が整い、孝詞が恭子の秘所の部分を持っていたテッシュで拭き、自分のものもコンドームを抜いて拭き、ズボンをはいた。恭子はスカートを元のように戻し、ブラウスのボタンをしっかりと嵌めて、孝詞を愛おしそうに見つめている。

「孝詞さん、さっき私の我儘で傷つけてごめんなさい。今の貴方と私の関係の中で、貴方が心から私を大切にしているということは、よく判っているつもりなの。だけど現実はまだ中途半端だから、貴方と将来本当に一緒になれないような気持ちになることも時々あるの。その負の感情が沸き起こると、一つの事が十個ぐらいの大変なことに見えて来てしまうの。そんなことを考えていると、疲れ果てた旅人みたいに孤独で寂しい気持ちになるの。だから、そんな未来が見えない疲れた私は、貴方に対して変なプレッシャーを、知らないうちにかけているのかもしれない。嫌な女ですよね。私って?」

「大丈夫だよ。謝らなくたって良いよ。僕はそんな君を含めても全部愛しているんだから。何も心配することはないよ。だから、いつも僕を信じてください。僕の一番愛している人は恭子さんだけだから・・・・・・

「冷静なはずの私が今日は変でした。本当にごめんなさい。バイオリズムがおかしいみたいなの。て言うか、そんなことを理由にしている自分が嫌ですが・・・・・・。こういうのを小さな自暴自棄というのかしら。孝詞さんと一緒に過ごした素敵な時間を、見事に踏みにじってしまうような事を選んでしまう心理、これって間違いなく悪魔に魅入られている恭子ですよね?本当にごめんなさい」

「もういいよ、恭子さん」

 孝詞は恭子を抱き寄せて優しくキスをした。すると恭子は少し涙ぐんでこう言った。

「本当の愛を確かめるためにも、これからもいっぱい私の事を愛してください」

「判っているよ。こちらこそよろしく」 

恭子は孝詞の顔をまじまじと見て、キスを返し抱きしめた。心の中で『孝詞は一生でたった一人の男だと思う。だから孝詞を絶対にゆり子から奪って見せる』と深く強く決意していた。


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浮気の痕跡に遭遇したゆり子の動揺

9月下旬のある日、ゆり子は孝詞のマンションに遊びに来ていた。お客さんの接待が終わった孝詞と、西船橋の駅で待ち合わせをしてマンションにやって来たのだ。孝詞がシャワーを先に浴びていた時、ゆり子は彼のYシャツの肩あたりに、ファンデーションが薄く付いているのを目ざとく見つけた。ファンデーションの赤、橙、黄系の色素が付いているのである。普通なら見逃してしまうのに、今日は孝詞が無造作に脱ぎ捨てたズボンやYシャツが何故か気になって、折り畳んでおこうとしたら、明らかに女性のファンデーションの色素が、ゆり子の目に疑念の色として飛び込んできたのである。

予期せず浮気の痕跡?に遭遇したゆり子は、心臓がドキドキした。どうしようもないほどのショックの嵐がやって来た。

ユニットバスルームからは、鼻歌交じりで体に水を当てている音が、テレビのお笑い芸能人の司会の声と混ざって聞こえる。ゆり子は最初、相手の女は誰だろうと詮索した。頭の中に怪しい人が次々と浮かんできた。しかし、きっと接待のあとだから、スナックの女?とも思った。そういえば、接待で孝詞の上司の部長があげてくる伝票には、多分飲み屋なのに訳の判らない会社名が入れてあって、同伴者として孝詞の名前が載っていることも多い。多分そうだ。それ以外考えられない。でも、酔った勢いとはいえ、他の女といちゃいちゃしていた姿を想像しては、憤りが湧きあがってくるのを抑えることができなかった。

 

(本当は良く知った女性と密会していたのだが・・・・・・。)

 

憤りを抑えるために深呼吸をすると、結婚している先輩女子に、孝詞のことを相談した時に、言ってくれた言葉を思い出した。かなり男に苦労して来た言葉には、人を納得させるような力強さがあったが、その内容はこんな場面にぴったしであるような気がした。

『全ての男は浮気性である』

つまり、どんなにゆり子を孝詞が愛していようと、情熱家であろうと、たまに浮気をしたくなるのが男というものだというのである。まったく浮気をしない方が、去勢された犬のようで不健全かもしれないとその先輩は言っていた。

先輩は続けて『浮気は個人の責任というより、全ての男に組み込まれた遺伝子のようなもの。しかし、愛する人が他の女性に一瞬でも心を奪われていると思うと、怒り狂うのが、ごく自然な感情。そんな時どう対処したらいいのか?最も賢い方法とは、彼の浮気がバレても、決して追い詰めないことよ。普通の女性は、こんな事件が起きると、見境なく問い詰めてしまう。これは何?説明して?女性がいるの?私をなんだと思っているの?と深く愛しているから、自分の感情を抑えることが出来なくて、物凄い勢いで相手を責める言葉が飛び出てくる。そうすると男なんて、悪いことをしたと判っていても、あまりの激しさに耐え切れず、鬼のように反撃してくるでしょう。そうすれば戦場のような喧嘩が繰り広げられ、怒りの炎は燃え盛るの。そして言っちゃいけない最後のセリフをぶつけてしまう。別れるわ!ということになるの。自分の持っている感情を全て露わにして喧嘩をすると、それこそ地獄、餓鬼、畜生の命が出てくるから、今迄見えなかった相手の最悪な性格を初めて知ることになり、本当にうんざりして別れたくなるもの。確かに相手の本性が早く判って良かったという事もあるけど、じっくり愛を深めたいと思うのがカップルの願いであるのに、浮気の追及で一瞬にして全てを破壊してしまう。

そうじゃなくて、浮気の証拠を見つけた時はね、穏やかに微笑んでこう言った方が良いわ。貴方、これは何ですか?と。すると最初は恍けて、平気で嘘を言うかもしれない。でも、そこからが勝負よ。ああ、そうだったのねと優しく言ってあげるのよ。自信たっぷりに。それ以上は聞かない。浮気は浮気だから。そうすれば、きっと彼は心の中で深く反省するわ。こんなに僕のことを信じている天使のような彼女を裏切るなんて、僕は本当に最低の男だと。いずれにしても、まず浮気の証拠を見つけたと相手にしっかりと伝える。そして、その弁解を余裕たっぷりに信じる演技をする。これが賢い対処法なの。

でもね、最初から開き直った場合は、もうそんな男はあきらめて構わないわ。本気で愛してなんかいないもの。別れた方が利口。そんな男は病気持ちのようなもの。真剣に付き合うべき対象ではありません。

まあ、許してあげられるタイプもいるけど。多少浮気の癖はあっても、本気であなたを愛する態度が見えるタイプ。例えばあなたが深刻に悩んでいる時、あなたの側に居てくれる相手であれば、二股をかけるようなことはしないと思うわ。あなたがいつも一番で大切な人。でも、僕の中に組み込まれた遺伝子が、時々暴れるんだ――こんな姿勢が見えた時は、許してあげなさい!だから、浮気には、許せる浮気と、許せない浮気があることを良く理解して、賢く見分けて対処することね。それが、二人の愛を長続きさせる方法よ』

と力説していた。ゆり子は思い出すと、気持ちの余裕ができるのが判った。それでも、自分のハートはかなりの勢いで傷つけられたことも間違いないと、胸が痛むのか手で押さえてしまった。相変わらずドキドキしている。

 ユニットバスルームから、シャワーを浴びてすっきりとしてご機嫌になっている孝詞を見ると、壊れそうなくらいにドキドキする自分の心臓の鼓動を感じながら、その教えられた言葉通りに実践した。

「孝詞さん、ちょっと聞いていい?」

「何だい?」

静かに微笑んでゆり子はこう言った。

「孝詞さん、これは何?」

ファンデーションの色素が、蛍光灯の光を浴びてキラキラしている。孝詞の風呂上がりの気分上々の顔は、少し曇ったように見えたが、直ぐにまたいつものように優しい笑った顔になった。しかし、ゆり子は孝詞の心の動揺を、見逃すことはなかった。それでも、癒し系のゆり子の表情には陰険さや、挑戦的なものはなかった。昔ヤンキーだったとは誰も気づかないような温厚さが滲み出ているようだ。孝詞はそのゆり子の表情に安心したのか、さっきまで逢っていた恭子のファンデーションが付いたことに、迂闊だったとは思いながら、このピンチをどうやって切り抜けるか、急速度で頭の中の思考が回転した。顔はかすかにだが、引き攣るようにも見えた。

「接待でカラオケを歌う時、マイクを渡してくれた女性とぶつかった覚えがあるが、それじゃないかな?」

 孝詞の顔には、答えを絞り出せた安堵感が浮かんでいる。それを見て取ったゆり子は、余裕たっぷりに笑って言った。その演技は女優並みだ。

「そうだったの?ごめん疑って」

 執拗な問い詰めが起こらず、孝詞は拍子抜けしたような気がした。今ここで恭子の事がもしバレたら、そのショックの大きさに、ゆり子は怒り狂って恐ろしい暴言を吐く可能性だってあるのに、危機はあっという間に霞んでしまったようだ。

 それでもゆり子の中の大きな動揺や、猜疑心が消滅したわけではない。ただ必死に堪えて目を瞑っただけである。ゆり子は心の中で強く言い聞かせていた。

『もし本当だとしても、浮気は浮気に過ぎない。私がいつも一番なはず!』

しかし、ゆり子の期待に反して、孝詞は猛烈に反省しなかった。ただ、この場を取り繕うために、さらなる疑念を抱かれないために、しおらしくしてしのごうと思った。浮気を疑われているのだから、理由付けがうまくできてかわすことができても、どこからか襤褸が出てしまう。だから、ゆり子を愛しているから浮気するわけはないというスタンスで、孝詞はこの危機を脱出しようと演技をした。それは恭子と一緒になるために、スムーズな縁切、スムーズな安着が必要だと、二人で話し合っていたからである。

「良かった、僕のことを信じてくれるの?ゆり子はやっぱり天使のような女性だ。そんな素晴らしい女性を裏切るなんて・・・・・・。しないから安心して」

 ゆり子は孝詞のそんな言葉を聞いた時、先輩が言っていた許してあげられるタイプに入ると思った。もし、偶然付いた全く関係ないファンデーションだったらベストだが、最悪出来心の浮気だったとしても、ゆり子は許してあげようと思った。いつも、愛してくれる素振りには、嘘がないように思えるからだ。数日前にこんなことがあったと、ゆり子は思い出した。

 可愛い可愛いと、ちょうどスッピンのどうみても可愛くはない時に、孝詞が自分に言ってくれて、キスをしてくれたことがあった。小さなことで、幾分ごますりのようにも思えたけど本気と信じた。だからゆり子はその時その言葉にドキドキして嬉しかったのである。

孝詞の中に組み込まれた抜きがたい遺伝子が、たまたま悪さをしているだけで、私をいつも愛していてくれていると、ゆり子は自分に言い聞かせた。許してあげて良かったと思った。これからも孝詞を愛し、孝詞からも愛してもらう日々が続くことをゆり子は祈った。

「ゆり子がこの世で一番大事だし、愛しているよ」

と孝詞は呟いた。ゆり子は先輩の言う事が、間違いなかったことを確信したのである。

 だから、もしかして本当に浮気で、何処かの女性が孝詞にファンデーションを付けたとしても、詮索することを止めた。孝詞の言うように、スナックの女性と偶発的にぶつかったのだと信じるようにしたのである。

 孝詞は心の中でゆり子をなだめることに一応成功したと思い、ほっと胸を撫で下ろしたが、ゆり子の先輩のおかげであることは知らない。ゆり子も孝詞の本心を知らない。浮気は男に組み込まれた性という遺伝子の問題ではなく、今の孝詞は本当に恭子との愛の成就のために動き出していた。スムーズに波風立てなく進むためにも、つまらない争いは起こしてはならないと思っていたのであった。

 孝詞はまるで何もなかったように、ゆり子にシャワーを浴びるように促した。ゆり子は心の中に大きなわだかまりを残しながらも、その言葉に従ってユニットバスルームに入った。シャワーの温かい水は、ゆり子のわだかまりを、少しだけ流し落としていくようにも思えた。すっかり体の汚れを落として、髪も洗うと、気持ちはやっと落ち着いた。

 

 ユニットバスルームを出ると、孝詞は缶ビールを飲んでテレビを見ていた。接待があったのにまた飲んでいるのだとゆり子は思いながら、バスタオルを体に巻いたまま、自分もテーブルに置いてあった缶ビールで喉を潤した。飲んでいくうちに酔いが回り、大胆になったゆり子はバスタオルを脱ぎ捨てると、孝詞に抱きついた。孝詞はその動きに応じているうちに、恭子とは違った体に対しての性欲が立ち上ってくるのが判った。ゆり子の股を開くと、舌が勝手に動き出していた。


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恭子は三つの目を持ってゆり子を観察

浮気の件で動揺した日から数日たって、気分的に持ち直したゆり子は、孝詞とのやりとりについて恭子に話した。管理部の部屋に二人しかいない時だった。ゆり子の声は少し震えていた。

「恭子さん、私の彼、誰だか判らないけど、浮気しているかもしれないんだ・・・・・・。ちょっとショック。先輩から男の性についていろんなことを聞いていたから、何とか喧嘩しなくて済んだけど・・・・・・。本当は誰にも言わないつもりで心の中にしまっておこうと思っていたけど、やっぱり誰かに話さずにはいられなくて・・・・・・」

その愚痴めいた話を聞いた恭子は、孝詞から聞いていたことなので、まったく関係の無い第3者のような顔で、大げさに驚いた振りをした。

「嘘!あの孝詞さんが?大丈夫?」

「うん、なんとか。先輩が言うには、男は浮気をするように作られているから、愛されているなら、そんな時、追及しない方が良いって言っていたの。だから、孝詞さんの前で良い子ぶってしまったわ。本当は怒り狂って、殴ってでも聞き出そうと思ったんだけど・・・・・・

「良かったら詳しく話してくれる?」

「孝詞さんのYシャツにファンデーションが付いていて、それもどう見てもハグしなければ付かないようなところにあったの」

 恭子は、ゆり子はいつもぼんやりしていて、そんな細かいことに気が付くような性格ではないのに、あの薄いファンデーションを目ざとく見つけたのは、かなり不思議でもあったが、自分の心の中の振幅の片鱗を見せることもなく、そのことについて褒めた。

「凄いね!ゆり子さん。ファンデーションに気付くなんて」

「そうなのよ。いつもの私なら、絶対に気付かないようなぐらいの痕跡なの。でも見つけたその瞬間、心臓が早鐘のように打って、酷いショックの波が起こったの。私のショックをまだ知らない孝詞さんは、鼻歌を歌っていて陽気なの。憎たらしかったわ。私は、孝詞さんの相手の女は誰だろうと一生懸命考えたの。怪しいと思う人が次々に浮かんできたけど、最終的にはスナックのホステスかな?と考えたの。伝票を見ていると判るけど、うちの会社も接待にはスナックを良く使っているし、同伴者として孝詞さんの名前も記載されていることが多いの。その日は接待だって言っていたから、それしかないと思ったの。でも、ホステスもれっきとした一人の女、接客がうまいと、男なんて単純だから自分の事が好きなんだと勘違いするでしょう?それで好きになってしまうこともあるじゃない?きっといちゃいちゃしていて、抱き合ったりなんかして付いたファンデーションに違いないわ。ムカついて憤りが湧きあがってくるのを抑えることができなかった。孝詞さんとそのホステスを、すぐにでもぼこぼこにしたいくらいの気持ちだったの・・・・・・」

恭子は、本当はゆり子の憎むべき相手であることから、そのヤンキーのような言葉使いに恐怖感を持ったが、顔色は変えない。

「ゆり子さん、大変だったね。で、孝詞さんに実際どう対処したの?」

恭子は孝詞とゆり子のやり取りの全てを知っていたが、まったくそんな気配を感じさせないで聞いている。

「でもね、ここで怒ったら私の負けだと思った。憤りを抑えるために、まず深呼吸して、結婚している先輩の言葉を思い出したの。かなり男に苦労して来た言葉には、全部が正しいとは思わないけれど、私を納得させるような部分があったの。男にとっては、随分都合の良い言葉だけど、『全ての男は浮気性である』という言葉なの。どんなに私を孝詞さんが好いていてくれても、たまによそ見をしたくなるのが男というものだという意味。逆に言えば、まったくよそ見をしない方が、虚勢された犬みたいで、不健全かもしれないと、その先輩は言っていたわ。それに『浮気は個人の責任というより、全ての男に組み込まれた遺伝子のようなものだ』って。恭子さんはどう思う?」

「うーん、やっぱり男に都合の良いように考えられているから、そう言うんだとは思う。人間としてみたら、男でも女でもそんな傾向があるようで、人それぞれという気もするんだけど。まあ、でも冷静に考えれば男の方がやっぱり狩人、女の方が受け身というのが一般的だから、そうなんだろうな・・・・・・

「でしょう?だから、私もほぼその意見に賛成なのは賛成なの。でも、大好きな孝詞さんが、私の事をないがしろにして、他の女に一瞬でも心を奪われていたかと思うと、その女が憎いし、心奪われている孝詞さんが憎かった」

「孝詞さんを怒ったの?」

と恭子はわざとらしく合いの手を入れる。

「いいえ怒りませんでした。自分がそんな良い人のように振る舞えるとは思わなかったのだけど、お釈迦様のように振る舞ったの。偉い私?」

「偉いよ偉いよ、ゆり子さん凄いじゃないの。なんて言ったの?」

「これは何?って、冷静に穏やかに聞いたの」

「へー。大したものね。浮気している男性への怒りを、コントロールできるなんて、私にはとてもできないと思う。孝詞さんはそれでどうしたの?」

 恭子はあくまでもゆり子の絶大な味方の振りをし続ける。まるで狐か狸か悪魔のようでもある。

「孝詞さんの言い訳が何となく信憑性が薄いので、『嘘つくんじゃないよ』って言いそうだったけど、我慢したわ。『カラオケを歌う時、ホステスとぶつかった覚えがあるって』言うの、恭子さん嘘っぽくない?」

「その場にいないから何とも言えないわ。でも、私から見ると孝詞さんて正直者のイメージがあるけど?」

恭子はそう言いながら、二人が激しく抱き合った時に、自分のファンデーションが孝詞のYシャツに付くような危機感のない行為をしたことを後悔しながらも、あの時の激情的な絡み合いの事を瞬時に頭の中で描いて、子宮が熱くなるような気がした。

「恭子さんにそう言ってもらえると、少しはほっとするけど、あの時の怒りは猜疑心いっぱいだったと言うのが本当です。でもね、孝詞さんの優しい顔を見ていると、確かに信じていいかなっていう気持ちもないことはなかったの。だから私は女優のように言ったわ。『そうだったの?ごめん疑って』って。そして心の中で『もし本当だとしても、浮気は浮気に過ぎない。私がいつも一番なはず!』って言い聞かせていたわ。それでも孝詞さんを信ずることと、疑うことは頭の中で拮抗していて、まるで嵐の中を行く船のように揺れていたわ」

「孝詞さん他に何か言ってくれた?」

「うん、『僕のことを信じてくれるの?ゆり子はやっぱり天使だ。そんな素晴らしい女性を裏切らないから、安心して』って言ってくれた。その言葉で少しはショックと傷が癒えたわ」

「今はどうなの?孝詞さんを本当に許してあげられたの?」

「うん、私って優柔不断なところもあるから、完全には吹っ切れてはいないけど、浮気だったとしても、私のところに必ず戻ってくる浮気だったら、許してあげようと今は思っているの。だっていつも、私の事を愛してくれているから信じたいと思うの。孝詞さんの中に組み込まれた遺伝子が、たまたま悪さをしているだけで、私をいつも愛してくれている。許してあげて良かったと思う。これからも孝詞さんを愛し、孝詞さんからも愛してもらう日々が続くことを祈っているの。だって『この世で一番大事なゆり子、愛しているよ』と言ってくれるの。恭子さんから見たらこんな私は甘いかしら?どう思う?」

「まあ、昼間から愛しているのなんのとご馳走様です。そうね、私はゆり子さんが甘いとはけっして思わないわ。そのやり方で正解だと思う。やっぱり孝詞さんは、ゆり子さんが大好きなんでしょうね。許してあげて良かったのよ。許せる浮気なのでしょう、多分。良く見分けて対処したわね。賢いわね。結局それが、二人の愛を長続きさせる方法だと私も思います」

ゆり子はその言葉に安心したのか、顔が綻んだ。

しかし、恭子は二人の関係を、いつかどんでん返しする時まで、用意周到に耐えて見せると心に誓っていた。

ゆり子は恭子に粗方隠さずに話してしまうと、気持ちが随分楽になったような気がした。狭い部屋に閉じ込められたような圧迫感が無くなった。心の余裕ができて、いつもの日常に戻ったようだ。それでも、しばらくして何かに触ったり、向かい側にいる恭子と言葉を交わしたりすると、スイッチが入ったようにハートがずきずきする。それは胸全体に広がる痛みのようだ。思わず手で押さえたりするのだ。

そんな様子を恭子は観察しながら、孝詞の本命は自分であることに優越感を持った。現実はまだゆり子が付き合ったままでいるから、本来ならくだらない優越感だが、自分は鳥の目、虫の目、魚の目を持ってゆり子を観察しているような気がした。まるで孝詞とゆり子のやり取りなど全く関係ない素振りを演じて、ゆり子に先輩女子と同じようなトーンで忠告した自分のふてぶてしさに、笑える気がした。しかし、これが罪と言うものであろうか。恭子が孝詞を深く愛しているが故の、戦いのための戦略と言えるかもしれない。ゆり子に貴女が賢くなれば上手くいくと言いながら、実は孝詞と恭子の絆が強固なものになるための時間稼ぎなのであった。恭子は孝詞を愛し続けるために、図々しく振る舞える自分に驚いていた。自分に驚くというのも変な話だが、潜在している力が表面に出てくる時は、誰かを愛している時なのであろう。

 

それでも、人間の心は複雑である。そんな強気の恭子の心の裏側では、『ゆり子、本当にだましていてごめん』と手を合わせて謝っていた。恭子は、ジギル博士とハイド氏のような自分の存在に、一種の快感を味わっていた。不安定な自分の今の状況が作り出す異様な快楽に、酔いしれていたのであろうか。


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孝詞と結婚するために悪魔になるゆり子

ゆり子は恭子に孝詞の目に見えない浮気相手の存在について打ち明けてからも、やはり孝詞に対する疑心暗鬼、浮気相手への嫉妬心は消えるはずもなかった。孝詞のマンションで会って、甘い言葉を掛けられ合体しても、彼の体も精神も完全に自分のものではなく、どこかの変な女に騙され密会を続けているのではないかという疑いは、逝った時でさえ忘れる事はなかった。この大好きな彼の体を誰かが抱きしめているかと思うと、自分のしている行為で彼を喜ばせていることも唯一ではなく、常に孝詞に比較されているのではないかと思うと、心の中は平穏ではいられなかった。それでも、この前良い子を演じて許してしまった以上、また汚い嫉妬心で彼を罵るには、プライドが許さなかった。どうしたら、この黒雲のような意地悪な存在を、孝詞からはぎ取れるだろうかとゆり子はいつも考えていた。表面的にはおとなしいゆり子ではあるが、切れた時の怖さや、執念深さは尋常ではないようだ。

 

セックスが終わって服を着ていると、ゆり子の脳裏に、このウザったい問題を解決する一つの方法が見えてきた。

それは、実に単純で世間一般に良く行われている事であった。ゆり子は自分だけを見てもらうために、そしてゆくゆくは楽な生活をさせてもらうATMの役割も期待している魂胆からも、そのもやもやとした障害を排除するために決断したのである。その決断が間違いでないことを確認するために、ゆり子は孝詞の首に手を回してぶら下がるような恰好をして呟いた。

「孝詞さん、ゆり子の事好き?」

「勿論だよ」

「じゃあ、どのくらい好き?」

「世界一だよ」

と言って孝詞はゆり子に激しくディープキスをした。

ゆり子はまた、下半身が痺れていくような気がした。すると、ゆり子の手はまた孝詞の股間の方に伸びていく・・・・・・

 

2回目の行為の時には、ゆり子は自分の思いつきに手を叩きたくなるほど嬉しくなり、一回目の時とはまるで違う猥雑さで孝詞を責めた。そして孝詞とゆり子はあっけなく逝ってしまった。お互いが性器を綺麗にしていると、ゆり子は不敵な笑みを浮かべて、こう心の中で繰り返した。

『わざと妊娠してやる・・・・・・

そして孝詞にこう言った。

「今度、葛西の私の家に来る?今週末は両親が法事に出かけていて、誰もいないの。私の部屋を見せてあげるわ。どう?」

 孝詞は一瞬考える振りをした。そういえば今週末は恭子には逢えない。恭子にも用事が入っていたのである。

「じゃ、金曜日の夜に行くよ」

「ありがとう。嬉しい。楽しみだわ。あ、それにそんな時のためにコンドーム買っておくから、持って来なくて良いよ」

 孝詞は気の利くゆり子に礼を言うと、赤いトランクスを履いた。

 

 週末、孝詞はゆり子の実家を訪問した。駅から10分ほど歩くと、その建物が見えてきた。街灯の明かりを受けて、薄暗闇に真っ白な壁と赤い屋根が判別できる大きな家が、ゆり子の実家だった。先にゆり子が家の鍵を開けて中に入り、しばらくして玄関灯もつけないままでいるドアを静かに開けて、孝詞は家の中に入った。ゆり子の彼氏が泊まりに来ていることを、隣近所に見られたくなかったからである。見られれば、回りまわっていずれゆり子の両親の耳に入って、小言を言われるのが嫌だったのである。

 ゆり子の部屋は2階の南東向きの8畳の洋室である。窓際には可愛らしいピンクの花柄の掛けカバーが目立つベッドがあった。出窓には所狭しとぬいぐるみが置いてあった。孝詞の知らない動物のキャラクターも多く、何故かそのぬいぐるみたちから見られているような変な感覚があった。

 テーブルの上に缶ビールや焼酎の瓶を置いて、ゆり子と孝詞は飲み始めた。1時間ほど飲んで話し込んでいると、二人はすっかり赤い顔になった。

 孝詞とゆり子はふざけ合いながらシャワーを浴びると、また部屋に戻って飲み続けた。やがて、ディープキッスの応酬である。ディープキッスが終わると、二人とも獣のように相手の肉体のいろんなパーツを貪り始めている。

 ゆり子の喘ぎ声は恭子の声と違って、まるで子供の様なうめき声である。あるいは鳥の鳴き声にも似ているような気がする。孝詞はその声に心の中で苦笑したが、自分の下半身はそれに関係なく激しく勃起していることにも笑える気がした。だんだんと高揚してくる情欲が抑えきれないのか、もうゆり子の下半身にペニスをあてがおうとしている。

「コンドームある?」

 ゆり子は敏捷に白い衣装ダンスから、包装が薄紫色のコンドームを出してきた。このコンドームは、すでにゆり子が昨日針で穴を開けていたものである。しかも、今日、ゆり子は排卵日である。間違いなく命中する確率が高い。

 孝詞はいきり立ったペニスにそれを付けると、せっかちな子供のように快楽の園に突入した。ゴムを被った性器は、ゆり子の内部の襞の感触が全く感じられなかった。かなり酔っているせいもあるのだろうか。それでも、ゆり子の均整のとれた丸い臀部に手を当てていると、その柔らかさに情欲が高まっていくのが判る。ゆり子も挿入されると、子供の様なうめき声を孝詞のピストン運動に合わせて、断続的に部屋の中に響かせ始めた。

「ウッ、ウッ、ウッ・・・・・・

 しばらく、二人はまるで獣のように、鳥のように呻き合っていたが、ゆり子はもう我慢できないようだ。自分の膣の中に、コンドームの小さな穴から孝詞の精子が漏れ出て、見事に着床することを祈って、ゆり子はせがんだ。

「いっぱい出して、孝詞さん。私逝きそう」

「僕ももう駄目だ。逝くよ」

 二人はジャングルの中で叫ぶ獣のような声をあげて昇天した。昇天すると10秒ぐらい何も言葉を交わさなかった。やがて、現実の世界に意識が戻ったかのように、孝詞はジョークを言いながら、自分のまだ硬いままのものをゆっくりとゆり子の股の間から抜いた。抜くとコンドームの先の部分から、白い精子が漏れているのを孝詞は発見し声をあげた。

「あれ、このコンドームおかしいよ。穴が開いているのかな?」

 現実に引き戻されたことに、機嫌が悪くなったような振りをしてゆり子はこう言った。

「私が買ってきたコンドーム高かったのよ。漏れるはずがないでしょう?見せて。ああ、これくらいなら大丈夫よ。今日は排卵日でもないし・・・・・・

 その言葉は孝詞を安心させたようで、またジョークを連発している。行為後の白けたような雰囲気を、孝詞はいつもこうして笑い飛ばしている。ゆり子もそのジョークに屈託のない笑い声で応じている。心の中では、

『バレなかったようだわ。しめしめ。私が昨日のうちにゴムに穴を開けたなんて、夢にも思っていないようだわ。これで、着床OKになれば、浮気相手に勝利して夢の専業主婦になれるわ・・・・・・』

 ゆり子が自分の描くバラ色の未来に、ほくそ笑んでいるのを孝詞は気づかなかった。

ゆり子はそう思いながらも、本当はこんな事をしてはいけないし、孝詞が妊娠を望んでいないことは知っていた。しかし、浮気相手を排除して自分に繋ぎとめられる方法が、これしかないと考えたのである。実行するためには悪魔にならなければならないと思ったのである。ゆり子は子供が好きな方ではない。電車の中や、公園で悪戯をする子供や、やたらと歓声をあげている小学生等に対して、うるさく感じてたまらない方である。それでも孝詞の子供なら育ててもいいかなと考えている。孝詞と結婚するための道具にしようとしているが、一般的に言われている『子は夫婦のかすがい』ということわざに、ゆり子は単純に活路を見出していたのである。しかし、男を繋ぎとめる手段として妊娠するというのは、『諸刃の剣』でもある。ゆり子の願った方向の反対は、孝詞が決定的に離れるきっかけになる場合もあるという事。また、『中絶して欲しい』という事にもなりかねない。妊娠とは、この地球上に新たな命が誕生する事である。ゆり子はそこまで深くは考えていなかった。ただ孝詞が妊娠をきっかけに、結婚を考えてくれるという都合の良い未来予想図を描いているだけである。しかし、孝詞の本心としてはゆり子の妊娠を望んでいない。もしゆり子とデキ婚となってしまったら、孝詞にとっては不本意なのである。何故なら恭子と一緒になる事が、孝詞の本望であるからだ。ゆり子が本当に孝詞を繋ぎ止めておきたいのなら、得体のしれない浮気相手より魅力的であるために、一生懸命努力すべきなのである。だが、ゆり子は手段を選んだのである。

『孝詞さんも甘いわ。本当に妊娠させたくなかったら、私にピルを飲ませたりすればいいのに。女はどんな時に性交すれば妊娠するか判っているんだよ。孝詞さんは馬鹿とは思わないけど、本当に騙されやすいんだから。安全日なんて言えば信じるんだよね。まあ、デキ婚でも結果孝詞さんと私が幸せなら良いじゃないの。孝詞さんと私の子だったら、可愛い赤ん坊が産まれるはず。これで浮気相手も手を引くでしょうし、ハッピーになるわ』

 

ゆり子はそんなことを考えながら、また孝詞の股間をまさぐり始めた。そして、履いたばかりの赤いトランクスを脱がすと、タラコの様な唇で孝詞のペニスを吸い始めた。萎んだばかりのペニスは、また天狗の鼻のようにいきり立った。ゆり子はその姿勢のまま、吸引する力を高めていった。チュパチュパという吸って離す猥雑な音が響く。すっかり酔っている孝詞は、下半身への強烈な攻撃に、頭が朦朧とするような気がした。やがて、下半身が痺れるような快感に変わり、堪えていた精液があっという間にまた出てしまった。ゆり子はその精液を外に出すことなく、全て飲み干した。生臭い精液さえ今のゆり子には愛おしいものだった。まるで飲み干すことによって、着床が確実になるような気持ちでいた。孝詞を見つめながら、ペニスに付着していた精液を全て舐めて綺麗にすると、嬉しそうにエロテックに微笑んだ。孝詞はゆり子に襲われたような気分だが、酔って麻痺した頭の中では、いつもと違う満足感が支配した。やがて二人は疲れ切って、ピンクの花柄の布団の上で抱き合って眠りについた。



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