目次
コーラを買う
クラスター家族
種蒔き男
影法師S
富嶽残映
尺貫法の空言
ボラの日
友愛の育み方
プロセニアム
落ち着いた空
郭公が鳴く
星霜
ミトラの約束
今宵は月も出ぬさうな
虚仮と苔
号哭
一握じゃぱん
膝栗毛
さとり
一里塚
理の果て
代数学AK
麻の中の蓬、深き酒の香に酔う
鏡の国の乙女
写真
盲目月夜
カラス
なぞなぞ
Amour
焦点
ひとりあそび
Alice
拝啓、…様
餡ころ餅の犯罪学
玉手箱
ベテルギウス
第四世代
儚む者
形而上学的花嫁
君の言葉
無限の食卓
贋考察論
ランプの魔神
nostalgie
足跡
思い出論
空っぽ
不治の病
ねがい
道半ば
夏野菜
うさぎ
ひとつとひとつ
アネモネはまだ咲かない
忘れたいから忘れない
殺意の杜
陽炎
二人旅
あの頃
savon
無関心
渇望
本当の音
カレーライス
代えられるもの
自意識
白玉か
異界の人
色眼鏡
人知れず
いつまで
neuron
背中の匂い
日は遍く血を沸かし、和やかにして風を語る
歳月の不公平
泣き顔はショパン
想い出の代償
馴染み
偽りと思い遣り
縞縞の腕
白い真似事
てふてふ
寒風斯く語りて不眠を誘う
おはよう
ドナドナの街
撥条仕掛け
井中に沈む匣
赤子に抱かれて
招かれた宴
小指の思ひ出
ラブリュス
奥付
奥付

閉じる


コーラを買う

道端に黄色い花が咲く

小さな花弁

 

道中を黄色い人が行く

大きな話し声

 

中の一人が赤いと言う

なるほど

花は赤いのだ

 

別の一人が返す

どうやら花は青いらしい

 

揃えて口を開く

そこに花など無い

 

道端に黄色い花が咲く

道中には誰もいない

 

萼を掠め

花の根元に百円玉を埋める

親指と人差し指を伸ばして

百円玉を埋める

 

道端に黄色い花が咲く

コーラを買うのは諦めよう


1
最終更新日 : 2015-10-24 18:32:22

クラスター家族

分散に失敗したクラスター爆弾が落ちた音に近かった

僕は聞いた事無いけどね

 

中空で一家離散するはずだったのに

末の子が寂しがるから

家族揃って落ちてきたんだ

 

クラスター家族はよく燃える

僕は見た事無いけどね

 

もたもたしていたら

あっという間に火の海だ

急いでここから逃げ出さなくちゃ

 

でも裸足じゃ危ないな

それなら下駄だけ履いて行こう

紅い鼻緒のあなたの下駄と

天狗に貰った一本歯

右と左に履いて行こう

 

それなのに

それなのに

 

落ちてきたのは君なのか

野宿の季節には少し早いぞ

今すぐ起きて帰りなさい

 

そんな関節を失くしたみたいな動き方をして

まったく君は困った奴だ

 

僕はてっきり

道真様でも降りて来たのかと

慌ててお臍を隠したもんだから

薬指の爪でお臍を引っ掻いてしまったよ

 

見てみろ

お臍の穴がポッカリと口を開いている

 

もう少ししたら

外の明りに誘われて

奴等が次々出てくるぞ

愛くるしい仕草で出てくるぞ

 

見たいと言ってもそれは駄目だ

君は今すぐ帰りなさい

今度はもっと

静かに落ちてくるんだぞ

 

ほらほら早く

お臍の奥から聞こえ始めた

 

ニャーとか

ニーとか

ニアニアだとか

 

急がなければ出てくるぞ

 

違う違う

君が言うのは猫だろう

奴等は違うさ

いいから早く帰りなさい

 

ニャーの腹には南瓜が実る

ニーの南瓜は中身が空で

ニアニア詰め込む焼夷弾

 

クラスター家族はよく燃える

僕は見た事無いけどね


2
最終更新日 : 2015-10-24 18:36:40

種蒔き男

種を蒔く男の話しをしよう

 

あいつは物静かな奴だった

あいつは誰にでも優しい笑顔を見せていた

あいつは平均台を歩くのが上手かった

あいつは一人っ子だった

あいつは牛乳が苦手な事を隠していた

あいつは鎖骨の下の黒子に誇りを持っていた

あいつは左利きだ

あいつの出席番号は14番

あいつの目は誰の視線とも重ならなかった

あいつの母は赤土で

あいつの父は馬鍬の右から五番目の歯

あいつはいつでも素足で走る

 

あいつが種を蒔くと

あいつは気が触れたのだと

あいつの周りが噂した

 

あいつが種を蒔き続けると

あいつは放っておこうと

あいつの周りは静かになった

 

あいつが数年蒔いたなら

あいつは何だか恐ろしいと

あいつの周りは無人になった

 

あいつは無人の世界に種を蒔く

あいつの種が芽を吹いて

あいつの林が育ち出す

 

あいつは林を生み出した

あいつは立派な男だと

あいつの周りが騒ぎ出す

あいつに集まる賞賛に

あいつは静かに微笑んだ

 

種を蒔く男の話しをしよう

 

あいつの林の奥深く

あいつの体は揺れていた

あいつの腕は垂れ下がり

あいつの首は項垂れて

あいつの体は揺れていた

 

あいつが林を作ったかって

あいつは死に場を作っただけさ


3
最終更新日 : 2015-10-24 18:49:23

影法師S

中天を過ぎた太陽を背に

影よりも黒い顔でケラケラと笑いながら

Sが物干し台から私を招く

 

「ここへ上がってきなさいな」

「素敵なものが見えるから」

 

まるで骨が無いかのように

それは柔らかな手招きで

 

意を決して玄関へ踏み込むと

上がり框に蜘蛛が寝ている

起こしては可哀想だから

息を殺して跨ぎ越す

 

しかし蜘蛛よ

お前は八つの目のうち

左端の一つだけ薄目を開けて

私の動きを観察していたな

してやったりと思うなよ

気付かぬ振りはお互い様だ

 

廊下を進むと

やがて階段が現れた

見上げれば

遙かな先に光が見える

 

一足踏んだら日が落ちた

二足踏んだら夜が明けた

次を進めば豪雨が起こり

瀑布と化した階段を

百歳掛けて登り切る

 

物干し台には

ケラケラ聞こえる笑い声

取り込み忘れた

衣紋掛けが四つ

Sの真似してケラケラ笑う

 

「ここへ上がってきなさいな」

「素敵なものが見えるから」

 

私もSの真似をする


4
最終更新日 : 2015-10-24 18:50:02

富嶽残映

どこまでも続く晴天は

赤色と紫色が混じり合う時分になって

わずかな霞が息づいていた事を教えてくれた

 

遠景に望む山々の稜線はくっきりしている

しかしその上には赤を含んだ灰色がぼんやりと漂っていた

 

そしてさらに

その仄赤い霞の上方から

富士のシルエットが

頭だけを覗かせている

 

思わず踏み出す数歩

すると

足に冷たさが沁み込んだ

 

富士と私の間を海が隔てていた

初夏の潮はまだ冷える

それでも足元の砂が引く波に溶け出すと

冷たさも忘れて

足裏に伝わる感触を楽しんだ

 

而して時を費やす

赤色が紫色に凌駕され

富士の姿も見えなくなった

 

さて

見えなくなれば恋しいもので

私は再び富士が顔を出すまで

その場を離れる事が出来なくなった

 

まだまだ宵の口である

私は覚悟を決めねばならぬ

 

このまま砂上に在らねば

翌る富士と出会えはすまい

しかし足元の砂は

波が寄せ

波が引き

次第次第に崩れては

次第次第に私を埋める

 

私は覚悟を決めねばならぬ

 

悩む内にも波は仕事を繰り返す

夜陰に動き出す水際の何かが

見慣れぬ私に絡みついた

 

許りか

私を登ってくるものもある

細かな無数の足を蠕動させ

迷い無く登ってくる

くすぐったい感覚

そして薄気味悪い不安

 

私は覚悟を決めねばならぬ

 

ふむ

無理は良くない

そう思い体を這い上がるものを振り払おうとした

然るに腕が動かない

 

悩み迷う間

生真面目な波の仕事は

私を首まですっかり

砂の下へと埋めてしまったらしい

 

気づく途端に

体を這い回るものが

その数を増したように感じられた

 

朝日の訪れはまだ先である

私は覚悟を決めねばならぬ


5
最終更新日 : 2015-10-24 18:50:46


読者登録

深沢幸弘さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について