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川本の店へ

昨日は隆一が帰ったあとも一人で悶々としていた。
頭の中が整理つかない。
リッちゃんがオレと百合子の娘だとしてどうして百合子はオレに連絡しなかったのだ。
どうして産んだのだ。
一人っきりで。
でもオレは世界平和なんてこれっぽっちも仕事にしたことはない。
オレじゃ無いのか、父親は?
もう一度いろいろな事を確認したくて川本に電話をかけた。
「川本、リッちゃんの事をもう少し聞きたいのだが明日時間があるか?」
「2時過ぎならいいぞ。でも聞きたいことがあるなら本人に直接聞けばいいじゃないか」
「いや、直接聞くほどのことではないンだ」
店に2時に行くと伝え電話を切った。

バスを乗り継いで両国に着いた。電車で行く方が早いのは承知していたがバスで行った。
停車してからお立ちくださいとバスはアナウンスし、えっちらおっちら降りるのを運転手がミラーで確認してくれる。
電車は乗車口と降車口が別れていないので、すぐに降りないとすぐに人が乗ってくる。
慌ただしいし危険だ。

川本の店には2時少し前に着いた。
川本と待ち合わせだと店の従業員に告げてカウンターに座った。
しかし川本が現れたのは2時30分を過ぎた頃だった。
「何だよ?」と興味なさそうに川本は言いながら隣の席に腰を下ろした。
(来るなり言う言葉かよ。本当にこいつはイヤなやつだ)
「リッちゃんの事を聞きたいのだけれど」
「どんな?」
「なんでもいい」
「オッパイが大きい」
ぶっ飛ばしたくなった。こんなヤツにコージさんとか言うのだからリッちゃんは男を見る目がない。
「そんなんじゃない。リッちゃんの身の上話とか」
「身の上話?そんなのは忘れたよ」
「そんなことはないだろう。小さい時の話とか、そうだ、あのプレートをくれた時の話を聞かせてくれ」
「雄司、オレはこれから用事がある。3時までしか時間がない」
(お前は昨日2時過ぎならいつでもいいって言ってたじゃないか)
「そうか、忙しいところ悪いな。そこのところだけ教えてくれよ」
「あれはおふくろさんがお父さんからもらったものでした」
「それで」
「それだけ」
アタマに来た。
「川本、三年のダンパの時にオレが付き合っていた百合子って覚えているか?」
「いや」
「リッちゃんはその百合子の子供らしい。さらに父親はオレかもしれないのだ」
川本は体ごと雄司に向くと
「何を言ってるンだ」
「だからそれを確かめたいのだ。なあ、話してくれよ」
「あっ思い出した。看護師だろ。オレはその合コンの時に一緒だったじゃないか。ダンパの二次会もオレが連れて行ったわ」
「そうだ、それだ」
川本は黙り込んでしまった。
「どうした?」と雄司が聞くと
「いや、いい思い出では無いような気がするのだが何故なのだか思い出せない」
「気にするな、そんな昔のことを。それよりも話してくれよ」
「お父さんという人は世界を平和にすることばかり考えていつもお母さんにそのことを話していたンだって。あのプレートをもらったのはリッちゃんが初潮を迎えた時で自分を大事にしろって言われたらしい。
お母さんはお父さんとバージンで結ばれたってな。それで男の人はお父さんしか知らなかったとさ。尊敬できる人に初めて巡り会えてその人の子供を身ごもったのだから神の啓示に思えたンだって」
雄司は話の途中から震え出してしまった。
百合子に話した事を思い出したのだ。
あの頃バングラデシュの貧困やアメリカの武器ビジネスの事をさも良く知っているように批判とともにエラそうに話していた自分の事を。
「わかった。ありがとう」
「何でリッちゃんと百合子が親子だと思うのだ?」

 

「ああ、今度話す」

この本の内容は以上です。


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