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おせっかいの竜

 

 

 

 

 

 

 

 

小金井 充

 

 


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最終更新日 : 2018-04-12 15:44:54

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Copyright (C) Mituru Koganei 2018


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最終更新日 : 2018-04-12 15:46:08

    1、放課後

 

 グランドの角の、大きなドングリの木の下に、1人の女の子が立っている。木の葉の間を通って、8月のまぶしい日差しが、日焼けしたその女の子の顔を、かがやくように照らしている。

 「みーえーちゃーん。」

 はっとして、女の子はふり返る。だれかな。女の子は、少しの間じっとしていた。それからすっと、浅い小麦色の手をあげて、自分を呼んだその声の、半分くらいの大きさの声でこたえた。

 「まなちゃん!」

 小さな体に、大きなランドセルを背負って、がんばって走ってくるマナミ。さっと、片方の手を持ちあげた。それを見て、みえ子はアレだなと思った。急いで両手を出して、パチンと、マナミの手を受け止める。

 「ごめーん。みえちゃん待ったぁ。」

 残りの手を、みえ子の両手に合わせた。

 「ううん。」

 そう言って、みえ子は少し笑った。マナミがぐいっとみえ子の手を引っぱる。

 「あ、まなちゃん。ちょっと待って。」

 みえ子は急いで、ドングリの木の根元の、青いカバンを取りに行く。

 「はやく。はやく。」

 マナミはもう、行きたくてしょうがないというふうに、両足でピョンピョン飛びはねている。

 「お待たせ。行こ。」

 2人は手をつないで、学校の門を出た。マナミはみえ子の手を引いて、どんどん先へ行こうとする。その背中にゆれている、マナミの赤いランドセルに、ちらっと、みえ子は小さな竜を見た。

 「ああっ!まなちゃん。」

 みえ子はマナミのランドセルにしがみつく。

 「うぉっとっと。」

 しがみつかれて、急にブレーキがかかったマナミは、両手をぐるんとふり回して止まった。

 「すごーい。当たったんだ。」

 みえ子はドキドキしながら、その小さな竜を手の平に乗せた。マナミのランドセルの、片方の金具にぶらさがっている。

 「そぉ、当たったの。いいでしょ。」

 マナミはぐっと首を曲げて、みえ子の手の平を見た。親指の先くらいの、むらさき色の竜が、どてっとねころんでいる。

 「これ、なかなか出ないよね。」

 そう言って、めずらしそうに、みえ子は見つめている。はやりのゲームの、案内役の竜。ガチャガチャの景品だけど、なかなか出てこない。主役じゃないから、仕方ないんだけれど。

 「もぉ。みえちゃん、早く帰ってゲームしようよ。」

 じれったくなって、マナミはピョンピョンととびはねる。ランドセルがゆれて、みえ子の手の平から、竜の人形がコロンと転げ落ちた。

 「あ、」

 気持ちよさそうだったのに。みえ子はなぜだか、そんな気がした。


3
最終更新日 : 2018-04-12 15:52:35

 

    2、みえ子の家

 

 チーン。

 エレベーターのとびらが開く。みえ子は歩きながら、かたにかけたカバンをおろす。ドアの前で、それをどさっと床に置いた。首にかけたひもをたぐって、家のかぎを引っぱり出す。前は金属のカギだったけれど、近所にドロボウ団が入って、今はこんなカードになった。ピンポンの下に、それを差し込む。カチャッと、ドアが開く。

 「ただいまー。」

 いつものように、げんかんもろうかも、うす暗い。

 ギージジジジィ、カチャッ。

 ドアが自分でカギをかける。みえ子はその音がきらい。急いでげんかんを出る。テレビのある部屋を通り、台所に行きかけて。

 「あ、カバン忘れた。」

 あわてて、げんかんにもどる。ドアは内側からだと、さっきのカードが要らない。ぎゅっと押し開けようとして、みえ子はやめた。背のびをして、ドアの小さなのぞき窓から、外の様子を見る。それから、こっそりドアを開けて、青いカバンを引きこんだ。今度は忘れずに、ドアの防犯金具をかける。その時。

 ギージジジジィ。

 ドアが自分でカギをかけ始めた。みえ子は防犯金具から、びくっと両手を引き寄せて耳をふさぐ。どうにか、最後のカチャッまで聞かずに済んだ。カバンを持って、玄関を出る。テレビのある部屋を通って、台所へ。

 ごはんを食べるテーブルの、イスの上にカバンを置いて、中から三角布と前かけとを取り出した。台所の向こうはおふろで、服をぬぐ所に、洗たく機が大きな口を開けている。

 みえ子は三角布と前かけとをぐるぐる丸めて、その大きな口めがけて、えいっと投げる。どお。うまいもんでしょ。みえ子はにっこり笑った。くるんとふり返って、冷蔵庫に向かう。お母さんの帰りがおそいので、休みの日以外、おやつと夕ごはんは冷蔵庫の中。ぐいっとドアを引き開けて、のぞきこむ。

 「やった、デカプリンだ。」

 みえ子は戸だなから、お皿と、ギターみたいな形のスプーンを出して、テーブルに座る。プリンのふたをはがして、お皿の上に逆さまにする。おしりのツマミをプチッと折るのが、みえ子のちょっとした楽しみ。ひと口食べてから、ゲームのことを思い出した。

 「そうだ。まなちゃんとするんだった。」

 スプーンをほうり出して、ゲームのスイッチを入れに行く。デイスクが静かに回り始め、音楽が流れ出す。みえ子はプリンを持ってこようと、台所にもどった。もうすぐ、インターネットに接続したことを、ゲームがしゃべって教えてくれる。あとはマナミとの接続を、操作ボタンで選ぶだけ。

 ところが、ゲームは何も言わない。変だなと思って、みえ子がもどってみると、あの竜が、ゲームの画面いっぱいにねそべって、黄色い目でこちらを見ている。みえ子はドキッとした。

 「じゃま。どいてよ。」

 コントローラーをつかんで、操作メニューを出した。でも、メニューの下半分は、竜の体の向こう。ちらっとメニューを見ただけで、竜はちっとも動こうとしない。

 「そんな所にねたら、見えないよ」

 みえ子は困って、竜を見ていた。角が生えているから、男の竜だろう。じょうぶそうな、暗いむらさき色の体をしている。大きなはなと、とがった耳。首は短くて、つばさは背中に、ちょっぴり、かわいいのがついている。そんなつばさで、飛べるのかしら。

 「そうだ。」

 みえ子は、見えている上半分のメニューから、音声入力を選んだ。音声入力なら、見えなくてもだいじょうぶ。竜も目を閉じて、何かを聞いているみたい。

 「どいて!」

 みえ子は、きびしく言った。言ったあとで、ドキッとした。ところが、竜は動こうとしない。固いウロコでできた、じょうぶそうなその頭を少しかたむけて、ちょっと、笑ったようにも見える。

 「もー。じゃまだって言ってるのに。」

 みえ子はゲーム機のリセットボタンに手をのばす。すると、竜はプイッといなくなり、ゲームが始まった。テレビのスピーカーから、女の人の声がする。

 「お友達のまなちゃんが、接続を求めています。接続しますか。」

 「えっ、あ、はい。」

 画面の下の方に、送られてきていたメッセージが、順に表示されていく。

 「まなちゃんごめん。こんどはわたしがまたせちゃったね。」

 みえ子はそう返事を書いた。



4
最終更新日 : 2018-04-12 15:49:44

 

     3、その夜

 

 

 

 「ただいま。」

 

 夜の7時近くになって、みえ子のお母さんが帰ってきた。会社で、いろいろな調べものをしたり、手紙を書いたりする仕事をしている。毎日たくさ んの手紙を書くので、家に帰るのが、どうしてもおそくなる。みえ子は引っこしてきたころ、何となくさびしかった。でも何人か友達ができたし、ゲームもある ので、今はあまりさびしくない。

 

 「お帰りなさい。」

 

 テーブルの上にえんぴつをほうり出して、みえ子はろうかへ、お母さんをむかえに行く。

 

 「みえ子、夕ごはんは食べたの。」

 

 「うん。おいものサラダ、おいしかった。」

 

 会社へ行くと、お母さんの服はタバコくさくなる。みえ子はそのにおいも苦手だった。

 

 「イカはしょっぱくなかったかい。」

 

 みえ子がタバコのにおいをきらうので、お母さんはすぐ、自分の部屋に着がえをしに行く。

 

 「ちょっと、かな。あ、私、下の郵便受け見てなかった。」

 

 お母さんがさげてきた、近くのスーパーの買い物ぶくろを台所に置いて、みえ子はげんかんに向かった。

 

 「あら、私も見て来なかったわ。みえ子、見てきてくれない。」

 

 「うん。今行くとこ。」

 

 みえ子は急いでくつをはき、ドアの小さなのぞき窓から、外の様子を確かめる。だいじょうぶ。防犯金具を外して、ドアを開ける。

 

 お母さんは着がえをして、台所へ向かった。買い物ぶくろから野菜と魚とを出して、冷蔵庫にしまう。ヤカンに水を入れ、電気式のコンロにかけ る。食器だなからティーカップを2つ。冷蔵庫から牛乳を出して、テーブルの上に置いた。向こうのイスには、みえ子のノート。えんぴつがななめに転がってい る。お母さんはそっと、ノートをめくった。となりのイスに座って、両手を顔にあてる。あくびが1つ出たところで、みえ子がピンポーンを鳴らした。お母さん は立って、ドアのカギを開けるボタンを押す。

 

 「2つ来てた。電気屋さんと、これ。」

 

 お母さんに手紙をわたして、みえ子はテーブルに座った。

 

 「あーあ。宿題よりゲームがいいな。まなちゃんいないと、できないんだもん。」

 

 お母さんはとなりに座って、手紙を読んでいる。

 

 「お役所の手紙だわ。お金を納めてくださいって。」

 

 「見せて。」

 

 手紙には、いろいろな数字がならんでいる。みえ子はその中の、1番長い数を数えてみた。

 

 「1、十、百、千、万、十万、百万。だから、2百万。」

 

 「そうね。百万の次は何。」

 

 「えっと、千ずつだから、1千万。それから、1億。」

 

 コンロの上で、ヤカンが笛を鳴らしだす。お母さんは食器だなから、紅茶のティーバックを1つ出して、うすい紅茶を入れる。砂糖を少し。それから、牛乳をたっぷりと。

 

 「宿題、終わりそう?」

 

 うん。と、みえ子はうなずく。両手でティーカップを持って、1口飲んだ。

 

 「この前の参観日、先生がね、みえ子はがんばり屋さんだって、言っていたわ。」

 

 そう言って、お母さんはみえ子の手を見つめていた。みえ子が1つ、あくびをする。

 

 「ねよっか。あした、早起きすればいいじゃない。」

 

 お母さんもあくびをしている。

 

 「うん。」

 

 歯をみがいて、みえ子はろうかの奥の部屋にある、自分の布団にすべりこむ。

 

 そしてふと、目を覚ました。

 

 テレビのある部屋から、かすかに、男の人の話し声がする。でもこの家にはみえ子と、お母さんしか住んでいない。それに、こんな夜おそく。

 

 みえ子はこっそり布団からぬけ出して、げんかんの方、テレビのある部屋の入口を見た。電気はすっかり消えて、お母さんの部屋のドアも閉まって いる。何を言っているのかは、よく聞こえないけれど。でも確かに、男の人の声がする。みえ子はその部屋の中から、青い光がうっすらと、ろうかを照らしてい るのに気がついた。それはテレビの光だった。お母さんが、テレビを消し忘れたに違いない。

 

 「なーんだ。」

 

 すっかり目の覚めてしまったみえ子は、テレビを消しに、スタスタとろうかを歩いていく。部屋の入口にさしかかった、その時。

 

 「困ったもんだな。」

 

 男の人の声が、急にはっきりと聞こえた。ドキッとして、みえ子は立ち止まる。そっと中をのぞいてみて、おどろいた。

 

 「昔はどこでもさ。」

 

 あのゲームの竜が、いつの間にか出てきている。画面いっぱいにねそべって、だれかと話をしているらしい。

 

 「竜の置物やら、松の飾りなんかを置いてたもんさ。それが今じゃ、女の子のランドセルにぶらさがって、どうにか1服できるくらいだ。」

 

 どこから入って来たのだろう。白いガが1羽、テレビの上で羽根を休めている。

 

 「まだ起きてたのか。」

 

 急に呼びかけられて、みえ子はビクッとした。前に、そんな言われ方をしたことがある。テレビの上の白いガは、どこへ行ったのだろう。竜はゆっくりと立ち上がり、ノソノソ、画面の奥へと歩き出す。

 

 「待って。」

 

 ノソッと、竜は立ち止まった。大きなおしりをこっちに向けたまま、顔だけ、みえ子の方を向いている。

 

 「あ、あの。だれ?」

 

 「オレか。オレは、おせっかいの竜さ。知ってるだろ。ゲームの案内役だよ。」

 

 そう言い残して、竜の姿は消えてしまった。プツン、とテレビのスイッチが切れる。みえ子はテレビの前に行き、急いでスイッチを入れ直した。でも映ったのは、電波を受信できないときに出る、ただの黒い画面だった。



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最終更新日 : 2018-04-12 16:05:14


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