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     6、よいの宮

 

 「ただいま。」

 いつものように、近所のスーパーの買い物ぶくろをさげて、みえ子のお母さんが帰ってきた。いっしょに手紙も持っている。みえ子は今日も、郵便受けを見忘れてしまった。いろいろあったから、無理もない。

 「みえ子、いるの。」

 電気もつけずに、どうしたのかしら。お母さんは少し不安になって、げんかんに荷物を置いたまま、テレビのある部屋に入って行った。テレビの前に、理科のノートとえんぴつが転がっている。

 「みえ子。」

 みえ子は、ねむっていた。1人で宿題をやるうちに、きのうからのつかれが出たのだろう。リンゴのようなほっぺたをして、みえ子は静かにねむっていた。

 「みえ子。かぜをひくわよ。」

 お母さんが、やさしくみえ子の体をゆさぶる。

 「あ、お母さん。帰ってきたの。」

 みえ子は、ねむい目をこすりこすり、床の上に起きあがる。背のびをして、ノートと転がったえんぴつとを引き寄せた。

 「宿題、やっていたの。」

 うん。と、みえ子はうなずいた。

 「そう。えらいわ。夕ごはん食べたの。」

 「まだ。ねちゃったから。」

 「おにぎり食べない。あした食べようと思って、買ってきたんだけど。」

 みえ子は何だか、急におなかが減ってきた。

 「食べる。何のおにぎり。」

 「うめぼしと、しゃけと、みえ子の好きなツナマヨもあるわ。今、おみそしる作るから。みえ子、おにぎり4つ、チンしてくれる。」

 みえ子はげんかんに行って、買い物ぶくろをさげてきた。

 「お母さん、どれがいい。」

 「わたしは、しゃけにして。」

 「分かった。」

 テーブルに、おにぎりと、おみそしると、キャベツのつけものが並ぶ。おみそしるは、お湯を入れるだけ。

 「いただきまーす。」

 みえ子はおにぎりにかぶりつく。中から赤い、しゃけの切り身が出てきた。

 「お母さん、これ、しゃけだった。」

 「あら。じゃあ、わたしのがツナマヨかしら。」

 するとやっぱり、中から赤い、しゃけの切り身が出てきた。

 「あらら。店員さん、まちがったのね。」

 2人は笑って、おにぎりを食べおえた。

 「ねえ。みえ子、お祭りに行かない。」

 「どこのお祭り。」

 「私の育った町。電車で3つ先の駅よ。」

 「電車。電車乗るの、久しぶり。」

 みえ子はお皿を流しにさげて、食器だなからティーカップを2つ出してくる。

 「今度ね、新しいマンションが建つことになって。そこのお祭り、もうやる場所がないから、今年で終わりになるの。だから、行っておきたいの。」

 お母さんはヤカンをコンロにかけて、紅茶のティーバッグを取り出した。

 「いつ行くの?」

 「お祭はあしたからなの。でも、あしたは仕事があるから、あさって。土曜日に行きましょう。お弁当作って。」

 「お弁当!」

 みえ子はウキウキしながら、宿題の続きを始めた。お母さんはテーブルで、電車やバスの時間を調べている。仕事に追われて、もう長いこと訪ねていない。なつかしい思い出をたよりに、お母さんはその日の予定を立て終えた。


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最終更新日 : 2018-04-12 15:57:22

 

     7、拓也の家

 

 次の日の放課後、マナミとみえ子は、拓也の家へ遊びに行くことになった。家の人にそう伝えるからと、拓也は先に帰ってしまう。マナミはそうじ当番なので、みえ子は独り、得意の足かけ回りをグルグルやったり。ドングリの木の下で、その実を拾ったりしていた。

 「みえちゃーん!」

 学校のげんかんから、赤いランドセルを背負ったマナミが、すごい速さで走ってくる。

 「わっ。まなちゃんストップ、ストップ。」

 みえ子は両手を前につき出して、マナミにスピードダウンを呼びかけた。

 「まなちゃん、すっごく速いね。どうしたの。」

 マナミは得意そうに笑って、あーんと、大きな口を開けた。

 「きのう、お父さんと歯医者に行ったでしょ。奥歯、治ったの。ぎゅっとかんでも、痛くないよ。」

 「そっか。お父さんと。」

 「みえちゃん、早く行こ。」

 学校の門を、いつもとは逆の方向に曲がって、2人は拓也の家へ向かった。拓也の家は、昔からある大きな家で、おじいさんとおばあさん、お父さんとお母さんが、いっしょに住んでいる。拓也は3人兄弟の末っ子。家中がとてもにぎやかだ。

 「ねえ、拓也のとこも、あのゲームあるの。」

 みえ子はちょっと、聞いてみたかった。こんなに大きな家なのだから、きっとあるにちがいない。

 「うん。でも、今は兄ちゃんがやってら。だからできない。」

 拓也は押入れに頭をつっこんで、人生ゲームを探している。ほかにもいろいろなゲームや、ロボットの人形などが、沢山つまっているらしい。

 「マナミね、この前、お金無くなっちゃった。今度は大金持ちになりたいな。」

 「みえ、また銀行やってよ。」

 拓也が入れ物とお金をみえ子にわたす。

 うん。と、みえ子はうなずいて、銀行の準備をした。

 「じゃん、けん、ポン!」

 「あいこでショ!」

 めずらしく、みえ子が1番に勝った。

 「みえちゃん、ルーレット回して。」

 拓也がルーレットを持って、みえ子にわたす。みえ子は、えいっ。と、いきおいよく回した。

 「おーい、拓也。拓也よ。」

 「あ、兄ちゃんだ。」

 拓也は急いで立ち上がり、ピューンと、ろうかへ走っていく。

 「拓也、はやーい。マナミもビックリ。」

 ろうかでは、拓也がお兄さんから、みんなのおやつをもらうついでに、何かを聞かれている。どうやら、あのゲームのことらしい。

 「拓也、どっか、いじらなかったか。」

 「いじってないよ。兄ちゃんから、借りたまんまだよ。」

 「ならいいんだ。拾った道具の使い方が分からないから、竜に聞こうと思ったんだけど。何べん呼んでも出てこないんだ。いいわ。ジュースこぼすなよ。」

 そんな会話が、みえ子にも聞こえた。きっと、まだねてるんだ。

 「まなちゃん、あのね、私、あした旅行に行くんだ。」

 「えーっ。いいなー。マナミ、このごろ旅行したことない。」

 「電車で3つ先の駅。お祭りがあるんだけど、今年で終わりなんだって。」

 マナミは、みえ子からルーレットをもらって、えいっ。と、いきおいよく回した。拓也がおやつを持ってくる。

 「みえちゃん、そこどけて。」

 クッキーにポップコーン、オレンジジュースが1リットル、ドドーンと、みえ子の前に置かれた。

 「おー、すごーい。」

 マナミが手をたたく。拓也は得意になって、みんなにジュースをついであげた。

 「次、拓也だよ。」

 マナミがルーレットをわたすと、拓也は何だか、おまじないのように両手を回してから、えいっ。いきおいよくルーレットを回す。

 そんなふうにして、ゲームが1回半進んだところで、そろそろ帰る時間になった。今回はマナミが1番で、みえ子は2番。拓也はとてもくやしがって、あしたもやろうと、泣きながら2人に言う。家の人におかしのお礼を言って、マナミとみえ子は拓也の家を出た。9月になった空は、もうすっかり赤くなり、みえ子は自分の胸の中にも、何か、似たようなさびしさを感じていた。

 「まなちゃん。まなちゃんのお父さんって、どんな人。」

 みえ子はふと、そんなことを言った。

 「マナミのお父さんはねぇ。工場で働いてるの。」

 「優しいの。」

 「うん。マナミをいろんな所に連れてってくれる。」

 「そう。」

 みえ子はそれから、だまったままでいた。みえ子の様子がいつもと違うのに気がついて、マナミはいっしょに、だまって歩いてきた。

 「みえちゃん。」

 みえ子は、心配そうに自分を見つめているマナミに気がついた。

 「みえちゃん、だいじょうぶ。」

 うん。と、みえ子はうなずいた。

 「いっしょに来てくれたんだ。ごめんね。」

 みえ子は笑って、マナミと別れた。とぼとぼと歩いて、エレベーターに乗る。

 家の中は、だれもいない。

 「ただいま。」

 「おかえり。」

 えっ。と、みえ子は思った。男の人の声。とすればもう、あの竜しかいない。みえ子はカバンをげんかんに置いたまま、テレビのある部屋に行った。

 「やっぱり。」

 テレビがついていて、あの竜がねそべっている。ただ、今は前の半分くらいの大きさになって、ずいぶんつかれているようだ。

 みえ子はテレビの前に座って、しばらくの間、何も言わなかった。

 「おせっかいの竜さん。」

 みえ子がそう呼ぶと、竜はゆっくり頭をあげて、ねむそうな目を開いた。

 「やっと、オレの名前を呼んでくれたな。」

 「どうして、私にはお父さんがいないの?」

 今日まで、1度も言ったことのない、みえ子自身が1番ドキッとするようなことを、みえ子は言った。

 「どうして、お母さんは仕事に行っていないの?私は独りなの?」

 みえ子のほほを、いつしか、なみだが流れていた。

 「私だって、お父さんといろんな所に行ってみたい。お母さんといっしょにいたい。どうして、私には何もないの?」

 竜は目を閉じて、こう言った。

 「正直、分からないよ。今の人間は、オレたちとはちがう生き方をしているからな。みえちゃん、でもな、みえちゃんは何にもないって言うけど、オレから見れば、ほかのだれよりも、沢山持っていると思うよ。」

 「持ってない。何もないよ。」

 竜は、なるほど、という顔をして、頭を上下にゆらした。

 「そうだな。それは、言葉では伝えられないものさ。だから、勉強するんだろ。持っていることに、気がつくために。持っているものを、なくさないためにさ。」

 みえ子は何だか、初めてのことが沢山で、よく分からなかった。

 「みえちゃん、いつかの夜、ここにとまってたガのことを、覚えてるかい。」

 竜は、するどいつめのある前足で、テレビの上の方を指さした。

 「あいつはもう、ここへは来ないだろ。帰る所が無くなってしまうからな。でも、みえちゃんには、ここがある。なあ、もう泣くなよ。こっちまで悲しくなるじゃないか。」

 うん。と、みえ子はうなずいて、なみだをふいた。

 「いつか、みえちゃんが大人になったら、あいつのことを思い出してやってくれ。ま、できたら、オレのこともな。さあ、顔を洗っておいで。お母さんが帰ってくるころだ。」

 みえ子はうなずいて、台所へ行った。竜はみえ子を見送って、そして静かに、画面から消えていった。ワクワクするような、ゲームの音楽が聞こえてくる。


9
最終更新日 : 2018-04-12 15:58:33

 

     8、竜神祭

 

 よく晴れた、気持ちのいい朝だった。みえ子はお母さんといっしょにお弁当を作って、これから3つ先の駅まで、お祭りを見に行く。

 「みえ子、水とう持ったかしら。」

 「入れた。だいじょうぶ。」

 お母さんといっしょに出かけるのは、久しぶり。いつもより少し、いい着物を着た。かみは2つに分けて、小さなサクランボのついた、青いゴムでとめてある。

 「じゃあ、行きましょうか。」

 みえ子は先に行って、エレベーターのボタンを押す。お母さんは、ドアが自分でカギをかけるまで待ってから、エレベーターに向かった。

 「電車に乗るの、ほんとに久しぶり。」

 みえ子は駅までの道を、お母さんと手をつないで歩いた。何だか1年生にもどったみたいだけれど、今はそうしていたい気分。

 「普通のきっぷでいいわ。」

 「お母さん、どのボタン。」

 新しい路線が乗り入れて、きっぷの種類がずいぶん増えた。後ろに人が待っているので、行きだけ、お母さんがきっぷを買う。

 ホームに立つと、そよ風が気持ちいい。見上げればパンや、綿がしのような形の雲が、ゆっくりと流れていく。どこかでふみ切りが鳴りだした。緑と青にぬられた電車が、みえ子とお母さんの待つホームに入ってくる。

 「あの町で、みえ子は生まれたのよ。」お母さんは、目を閉じて、みえ子にそう言いました。その町は、300年以上も続く古い町。まんなかを小川が流れていて、その川の神様が、今日のお祭りの主役だった。でも、今年でおしまい。来年はもう、お祭りをする場所がないから。

 町に着くと、駅の前からずっと、いろいろな色の電球やら、花のかざりやらが、ずらっと並んでいた。神社の境内には、出店も沢山来ている。

 「昔のようね。最後のお祭りだから、みんな、はりきってるみたい。」

 お母さんはなつかしそうに、そこら、ここらを見て歩く。みえ子はせがんで、チョコバナナを買ってもらった。お母さんはヨーヨーつりをしたけど、残念。つれなかった。

 神社のとなりは、小さな公園になっている。ここに、大きなマンションが建つらしい。お母さんは、もう見おさめだからと、みえ子といっしよに公園の丘を登った。

 「1番上まで行くとね、とても景色がいいのよ。」

 息を切らせながら、2人は石段を登っていく。丘の上までくると、お母さんの言う通り、ぐるっと、辺りを見わたすことができた。

 「私ね、みえ子ぐらいの時、よくここへ登りにきたの。いやな時も、ここにくると気持ちが落ち着いたわ。」

 「お母さん、あれ。」

 みえ子の指さした方から、1羽の白いガが、林の中へと飛んでいく。

 「あら、ヤママユだわ。まだ生きているのね。」

 お母さんは、おでこの前に手をかざして、ヤママユの飛んでいく方を見つめていた。

 「昔は、もっといたんだけれど。」

 はっとして、みえ子はそんなお母さんを、じっと見つめていた。

 

 

おわり


10
最終更新日 : 2018-04-12 16:00:16

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いかがでしたか。

もし、気が向けば…。

作者への支援をお願いします。

 

ではまた。どこかでお会いしましょう。

 

 

 


11
最終更新日 : 2018-05-18 18:43:53

奥付



おせっかいの竜


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著者 : 小金井 充
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