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はしがき

 今日、金融経済におけるグローバル化の急速な進展は、隣国中国をはじめとする東アジアの各国、あるいはブラジルなど一部の国を除けば、米国、欧州をはじめとする多くの国の経済活動に深刻な影響を与えており、我国においてもご存じのとおり経済活動の停滞を招いているところです。 
  我国における長期の経済停滞は、これまで築いてきた我国の全般的な社会構造に対して、否応なし、まったなしの大転換を突き付けていると思われます。我国の強みとされてきました日本型社会構造は、1990年代後半から現在に至るまで再三にわたる数々の課題、特に経済分野に限らず教育、医療など既存の多くの分野において指摘されており、社会構造や内部機構の抜本的改革が求められています。
 世界有数の産業国家を構築してきた我国は、シンプルで強力な仕組みを前提に戦後急成長してきましたが、現状の日本社会は、前述しましたグローバル化の進展で既存のシステムや仕組みが機能不全に陥っています。その一方、インターネットにはじまる高速情報インフラの整備と拡充が進むにつれて、日常的に多くの知識や情報が洪水のように溢れ出る高度情報化社会を創出させました。
 しかし、見方を変えてみますと、経済活動の停滞や取留めもない情報の洪水は、「人」という資産から見た場合、社会を構成している各要素の再定義、あるいは再構築という重要な課題がみえ、真に人材に注目される環境が増加してきたとも言えそうです。
 この点からこれからの若い人達への人材教育は、これまでになく重要性を増すことになり、日本社会再生に向けた人材育成がこれまで以上に大事になると考えています。
   私は、その点で大切な人材育成のメニューの中心となるべき内容は、「一般的な常識」だと、考えています。
  理由は、鷲田小彌太氏が主張されているように高度産業、高度技術、高度消費、高度情報化社会の出現により、素人の能力があがり、常識のレベルがぐっとあがってきたことで、従来、多くの家庭や共同体の中で身につけてきた「一般的な常識」とは、量的にも質的にも違う広範で豊かな「一般的な常識」が必要になると思われるからです。
 複雑に社会が絡み合った中では、技術に限らず、社会全般を横断するさまざまな領域に対して一般的な立場から思考し、行動し、検証する必要があると考えています。
  別な意味では、「一般的な常識」の「専門化」がはじまっているとも言えます。
  ドラッカー流に言えば、「テクノロジスト」の時代だとも言えそうです。
   我々は、間違いなく専門の時代にいるのですが、ひとつの専門だけでは生きてゆけない社会を作ってしまいました。しかもお手本があった時代から自ら新しく創造していくというお手本がない時代は、本来、人間がもっている進化し向上していくという積極的な心、自分で判断し、決断するという個人の意思が強く求められる時代になっています。
  我国でこれまでおこなわれてきました「読めてわかる教育」は、安定した、しかも単一構造の社会では有効に機能してきましたが、社会構造の抜本的な改革や新たな社会システムの構築といったまったく新しい課題に対処していく場合、これまでの社会集団や組織集団の中で共有されてきた規範を超えていく力に乏しいと言われています。しっかりと考え抜き、自ら決断して行動し、成否は現場で検証するという自ら創造する力をもち、かつ小さなことでも道を切り開いていける開拓者として行動できる人材の育成が急務となっています

  現在、日本経済は、リーマンショックから抜け出しつつありますが、多くの企業はその事業活動において少なからず自信を失い閉塞感を招いています。また、大部分の社員は、自分が所属する企業の行く末に大小は別にして不安感をもっているようです。その一方、企業に限らず未来に立ち向かっていく若い人達の存在や社会全般で責任を引き受けていく人達の存在が、未来を明るくしていきます。
  現在の企業活動は、まさに火事場です。このような火事場では、誰にでも共通する答えはなかなか見つけにくいものです。火事場で馬鹿力を出すための方策が必要になります。職業生活の始まりと同時に、人は自分なりの状況設定をしなければなりません。入社間もない頃の状況設定はあくまで自分の予想でしかありません。しかし、実際は企業活動の中で差異があることがほとんどではないでしょうか。むしろ差異があるからこそ、自分で現状を把握しようとする意識が生まれてきます。ある面で当初の予想と乖離が大きいほどよいと思います。仕事は、最初から予想どおり進捗することはほとんどありません。かえって大きな乖離があることで、さらにいろいろな可能性を検討していくことができるようになります。
  多くの人は、最初から自信満々で物事を進めているわけではありません。人が企業活動を進めていく上で、「自信がもてない」というのは、必要不可欠の資質だと考えています。特に新しいことに挑戦する場合、最初は恐る恐る自信なく始めていくものです。先ず仮設設定や状況設定ができたら、全力をあげて可能な限り速く実行します。自信や確信は、こうした実行に基づく事実の積み上げで獲得していくものです。
   企業活動における個人の仕事は、自分で状況の設定をおこない、自分で語る話の内容が、お客様や取引先担当者に注力してもらえるかどうかを、自分自身の心の中で判断しなければなりません。複数の企業や個人のお客様に対応したが、良い結果が得られないのであれば、状況設定を再度やり直すことになります。仮設設定や状況設定は、完璧を求めるより、ベータ版として完璧でない事実と向き合い、ありのままに努力を続けていくことが大切です。自分自身の意識が、外(結果)ばかりにとらわれすぎて、自分の内(心)に向いていない場合など、マニュアルどおりの当り前で無難な解答になりやすく、当然ですが、そこに感動は生まれません。

  物事には、辻俊彦氏が言われるように「心ですること」と「頭ですること」があります。
  同氏によれば、「心ですること」は、心理的な影響が大きく、極めて個人的な「情」の世界であり、「直感力」や「想像力」が重要となります。
  片や「頭ですること」は、論理的で、多くの人が共有可能な「理」の世界であり、「分析」や「論理的思考」が重要となります。
  企業の中でおこなう仕事、特に新しいことに挑戦する場合は答えがほとんどありません。そのプロセスは「心の作用」に負うところが大きいのです。必然的に、他の人達とイメージなどの共有ができないことが多く、常に不安がつきまといます。実際には、不安から逃れるため、「赤信号みんなで渡れば、怖くない」という共有可能な安直な考え方に流され易いものです。しかし、そうした試みの大部分は成功しません。偶々、成功した場合でも、次の仕事のテーマの中で真価が試されることになります。情報化の時代は、あらゆる情報が簡単に入手でき、多様な知識や情報の中から自分に必要なものを選別して自ら思考して、自分の判断に基づいて行動することが求められます。
   仕事の本質は、頭を使いながら、心でおこなっていくものではないでしょうか。
  また、辻俊彦氏は仕事に限らずこれからの社会におけるあらゆる活動は、実体験が重要になると言われています。
  理由は、前例が少なくなるためにいろいろなことを新しく積み上げていくことが要求されるからです。そのような社会では、実体験の価値が再評価されることになりそうです。
   多様な解釈の余地を残す現実を実際に体験し、また経験した内容を自分の言葉で記述することで、情報の選別や編集力が向上し、独自の見解を生み出すことが可能となると考えます。情報量の増大は、知らず知らずに情報の選択だけに時間を費やしてしまい現実の体験から離れてしまいがちです。他人の解釈を加えていない「生の体験」をすることで、情報の取捨選択能力や編集力が磨かれていくと考えます。
 正解がひとつではないビジネス社会では、企業が成長するための答えは、企業活動の現場に存在しています。仕事の現場の「生の体験を積む」ことは、何が問題の本質か、何に着目するか、何を優先させるかといったことを体得することです。
 仕事とは、現場の「生の体験を積む」、言ってみれば、体を使い「心でおこなう」ことになるでしょう。
  他方、さまざま分野についてなんでも広くかき集めて、そこから共通するものを引き出していくといった一般的、全体的な知識を身に着ける、言い換えると「頭を使う」ことも必要になります。このようにして身につけた一般的な常識の上に、「生の体験」をすることで独自の見解を生み出すことを可能にしていくものだと考えています。
 「自分で考える社員研修ノート」は、職業生活を見通すための全体的な知識と職業生活全般を知る手がかりを提供するとともに、職業生活にとって自分で「考える」、「決断する」、「実行する」、「検証する」ことが、どうして大事かということをわかりやすく示し、個人にその「気づき」の機会をもってもらうことを主眼にしています。
 また、今日社会が求める人材の内容が大きく変化しており、一人一人の生き方そのものが注視されているといってよいと思いますし、職業生活における個人の生き方がとても大切な時代だと感じています。
  さらに新入社員や中堅社員のみなさんが、企業活動のそれぞれのステージで活躍できるように、自分の人生を豊かなものにしていただき心から楽しめるようにと、将来にわたって有用と思われる幅広い分野の考え方を導入しています。
  個人の成長や物事の発展に近道はありません。大切な事は、物事の原理原則を自ら学び、愚直にやり抜く実行力だと考えています。
  困難に直面したときほど、「Back to the Basic(原点回帰)」することが重要です。


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最終更新日 : 2010-11-14 18:46:02

目 次

Ⅰ 職業生活につくということ
 
 1.学業生活と職業生活の違い
 (1)職業生活はマラソン                
 (2)人生の大部分を占める職業生活を描ける人はいない  
 (3)偶然を味方にする                                 
 (4)職業生活とは社会と行き交い人と触れ合うための扉   
 (5)人生は旅                                         

 2.職業生活の開始と同時に始まる個人と会社の関係
 (1)入社1年目における上司との関係                   
 (2)個人がもつ潜在能力(才能)            
 (3)職業生活における幻滅感              
 (4)入社1年目に直感で感じた違和感は大切にする    
  
 3.企業で仕事をする上で心がけておきたい基本スタンス     
 (1)適法性(リーガルマインド)            
 (2)社会性(企業の存在基盤)             
 (3)人間性(人間の成長が組織を成長させる)      

Ⅱ 部門間の関係                    
 
 1.なぜ他部門の情報が必要か                                

 2.部門機能の原点                     

 3.全体最適と部分最適                                   

Ⅲ 求められる人材

 1.企業に求められる人材                                   

 2.企業運営と機能化                                        
 
 3.知識の根底に必要なもの                     

Ⅳ 経理知識

 経理知識の必要性                                        

Ⅴ 企業に共通する仕事の基本
  
 1.取引と契約                                              
 
 2.稟議                                                    

 3.受取請求書と支払処理                                    

 4.事業計画と管理会計                                      

Ⅵ 東京通信工業の精神から学んだ仕事観

 1.人がやらないことをやる                                 

 2.やりたいやつにやらせる                                 
 
 3.言い出しっぺがやる                                     

 4.若いやつにチャンスを与える                             

 5.可能性に挑戦する                                       

 6.仕事の報酬は仕事                                        

Ⅶ 職業生活のポイント・仕事の成果・生き方

 1.二師三兄五友                                           

 2.仕事・学び・遊び                                        

 3.評価は他人がするもの                                   

 4.怒らず・恐れず・悲しまず、正直・親切・愉快             

 5.挑戦に終りなし                                         
 

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最終更新日 : 2010-11-14 17:25:21

(1)職業生活はマラソン

① これまでの人生の約3倍の年月を生きる(65歳定年)

 

② 会社生活 ⇒ 異動、転勤、昇進、昇格、転職、起業など

 

③ 私生活  ⇒ 結婚、子供の誕生、趣味、病気やけが、両親の

                  面倒をみるなど

 

④ キャリアデザイン

 

  ・キャリアデザインとは

 

    ・キャリアデザインをするとは

 

    ・非連続性的な節目を越えるとき

 

    ・ライフトランジッション ⇔ キャリアトランジッション

 

  ・人生行路


  

      

 

 

  

   ⑥ ナイジェル・ニコルソンのキャリアトランジッション

 

     

 

 

 

 ストレスとは

      

・ストレスについて知っておこう

 

・ストレスを上手く活用しよう

 

⑧ キャリア変遷のイメージ

 

     



参考書籍

   https://sites.google.com/site/nsbsbooks/keiei-gaku/kyaria-hattatsu

 



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最終更新日 : 2010-11-14 17:52:35

(2)人生の大半を占める職業生活を描きる人など誰もいない

 最初はどのような仕事でもやってみよう

 

 やってみる以外に仕事は理解できない、なにが好きか、なにが

嫌いかもやってはじめてわかるもの

 

③ なにがやりたいか(意外にむずかしい)

 

なにが自分にできるか、得意なことはなにか、

なにをやりたいのか

 

だれに喜ばれたいか、どのような人といっしょに仕事

がしたいか

 

なぜ、そういう仕事がしたいか、なにを目指しているのか、

自分の夢とはなにか

 

     ・時間の経過とともに自分がやりたい方向が見えてくる

     

人によって違いがあり、少し長い時間をかけることも必要

   

 節目や岐路にたったときにデザインする

 

⑤ 個人がもっている才能とも関係する

 


 

参考書籍

   https://sites.google.com/site/nsbsbooks/keiei-gaku/kyaria-hattatsu

 

 


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最終更新日 : 2010-11-14 17:53:24

(3)偶然を味方につける

  ① 計画された偶然

     スタンフォード大学 ジョンクランボルツ教授

 

   ② 大事な要素 

神戸大学 金井壽宏教授 

      

大きな方向感覚、自分を貫くものをもつ

 

     ・流されながらも節目だけはしっかりとデザインする

 

     ・自分の活動舞台にも拠りどころがある

 

     ・組織の価値観を共有しながらも、しっかりとした自分がある

 

③ 個人の拠りどころ(キャリアアンカー) 理念・組織文化

     エドガー・H・シャイン

 


 

参考書籍

   https://sites.google.com/site/nsbsbooks/keiei-gaku/kyaria-hattatsu

 



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最終更新日 : 2010-11-14 17:54:21


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