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はじめに

 

「大変、私、乳がんになっちゃった!」

と涙目で悲劇の主人公を演じたい方にはこの本はお薦めできません。

 

   筆者は乳がん発覚時に経験者の手記やブログ、関連記事をいろいろリサーチ、その手の「苦しかった闘病」の経験談はたくさんあるようで、読むだけでメゲました。抗がん剤治療の苦しさや大変さを克明に伝え、あれこれ不安を吐露して、後輩たちに心の準備をさせよう、という優しい心遣いかもしれません。しかし悲観的闘病記は新人乳がん患者をおびえさせ、がんと闘う免疫力を衰えさせるばかりではないでしょうか。

 

 筆者は小説家ですから、もちろん悲劇版・激闘版(!)も書こうと思えば書けますが、ここではあえてユーモアを目指します。同じ治療・闘病を経験するなら、その時間をなるべく有意義に使いたいものです。同じ時間を費やして読書するなら、気分が上がり希望が湧く本を手に取りたいではありませんか。

 

  このエッセイでは筆者が乳がん発覚以来どのようにしてその現実に対処し、何を決断・実行してみたかを、読者の皆様、特に乳がん患者さんや再発を心配なさっている方々のお役に立つよう、ご紹介してみようと思います。また、がんとは無縁の健康な方々にも、生活習慣病にかからない工夫のヒントを含め、ユーモラスな奮闘記としてサラっとお楽しみいただければ免疫力がアップするかもしれません。

 

  尚、乳がんという病の医学書・解説書ではありません。お役立ちの参考書籍やウェブサイトは適宜ご紹介しますが、正確な情報はそれらの一次資料に当たって下さい。このエッセイは、筆者が集めた情報をどう取捨選択し、医師の治療方針に質問したり納得し、追加的にどういう対策を試みたか、その試行錯誤プロセスのご紹介です。

 

  乳がんを治す、というより、乳がんが治らないはずはない、との絶対的な自信を持って、あらゆる手を尽くそうと心がけています。前向きに闘病したい方、是非この指にとまってみませんか? 

 

  念じれば治る、式のスピリチュアル本ではありません。行動あるのみ、の実践書であり、或る意味「自己啓発書」です。闘病を機に己を知り自分を高める、ぐらいの前向きな心構えで、余命ばかりか人生全般に関わる「がん治療」というビッグプロジェクトに対峙してみましょう!

 

 


愛川耀


 


いかにして乳がんを発見したか?

 

 昨年は小説執筆の取材も兼ねて毎月国内旅行、10月に出雲大社参拝、11月には高野山詣でを計画しました。筆者は作家になる以前、米国で長く国際機関に勤務し多くの国々へ旅しましたが、日本人なら行くべき国内有数の観光地はあまり訪れたことがなく、帰国を機に待望の国内旅行三昧の日々でした。

 

 出雲大社に出かける前、横浜やディズニーランドへの秋の行楽で忙しかった折、毎朝のシャワーの最中に左胸の乳首付近にころりとした豆みたいな小さなしこりをたまたま発見。あれ、こんなところに乳腺の塊でもあったかしら、と試しに右胸を触ってみたら右側にはありません。

 

 もしかして乳がん、と一瞬疑わなかったわけではなく、ネットで「胸のしこり」を検索。しかし、まさか自分ががんに罹るとは99%思っていないので、「乳がんと間違えやすい病気」とか「良性の腫瘍」とかを調べました。病院で受診すべきは「乳腺・内分泌外科」だとのこと、家に最も近い東京女子医科大学病院をネットで検索、初診の予約番号を調べ電話してみました。

 

 よくあることですが、数日に渡り何度電話をかけても全く繋がらず、折り返してもらえる留守電もありません。ということで時は流れ、10月末に出雲大社に初めて参拝、同じく島根県にある足立美術館の美しい日本庭園を堪能、玉造温泉と皆生温泉でまったりした後、鳥取砂丘まで足を伸ばして帰って来ました。

 

 11月始めに大学時代のクラスメートとランチ、胸にしこり発見の話をしたら、なんと彼女はかつて乳がんを経験済みと初めて知らされました。筆者は米国ワシントンに20年超駐在したのですが、アメリカは乳がん患者が多い乳がん先進国、罹患率は8人に1人といわれ、同僚の女性達にも乳がん経験者がいたことを思い起こしました。しかしこの時点でさえ、自分の場合は良性の腫瘍に違いない、と根拠なき自信がありました。

 

 忙しい毎日の合間に東京女子医大の予約番号に何回か電話しましたが相変わらず繋がらず、気のせいかしこりが大きくなったようです。徒歩で10数分ほどと近いので直接病院に出向き、乳腺内分泌外科を訪ねて予約を取りました。専門医が空いている日には筆者の都合が悪かったりで時間調整は難航、結局2週間ほど先、11月末の高野山・熊野三社旅行から戻った翌日に診察を受けることになりました。

 

 振り返ってみると、これはラッキーな決断でした。なぜなら病気の心配など全くせずに予定していた秋の旅行をすべて満喫、その後に検査・治療を始めることができたからです。乳がんは大きくなるのに数年かかるシロモノだそうで、1ヵ月程度の遅れは治療を始める上で大差なかったと思います。 

 

 

 旅行から戻り11月28日に乳腺内分泌外科を朝一に訪れ、初めて担当医にご挨拶。朗らかで話しやすい若いイケメン先生です。左胸に、と説明し触診してもらったところ、なぜか脇下のリンパもぎゅっと押され、調べてみましょう、とその日にマンモグラフィー(乳房のX線撮影)及びエコー(超音波)検査をすることになりました。

 

 マンモはすぐ終了しましたがエコーは昼過ぎの予約となり、一度自宅へ戻って待機してから出直すことに。エコー検査担当医の方が左胸ばかりか脇下のリンパや右胸もぐりぐりやり、シニア検査官まで呼びに行ったので悪い予感。検査を終えてからその旨ボーイフレンドにメールしたところ、心配するな、とか応答してくれました。その時点で筆者はまだ楽観的、乳がんかも、というポーズでメールを返し一応心配させてみましたが、軽いジョークのつもり。まさかそういうことはないだろう、9割方良性腫瘍に違いない、と楽観していました。

  

 同日夕に再び主治医とのアポがありましたが大混雑(大繁盛?)でずいぶん待たされ、待合室で最後の1人となる頃やっと診察室に。先生の前のスクリーンにはエコー画像らしきものの他に、両方の乳房のイラスト図。「これは悪性の疑いがありますね」みたいなことをサラっと言われました。

 

「悪性というと?」と筆者。「乳がん、ということです」と先生。「え、そうなんですか?」と筆者。どういう進行度の可能性でしょうか、と尋ねると、「リンパに転移しているので早期とは言えませんね」と先生。スクリーンを覗くと、乳房の図には左乳首の横に丸印、左のリンパに細長い丸印が二つ並び、なんと右胸にも小さな丸印が一つあるではありませんか!

 

 宣告されてショックだったかというと、実はその時点ではいたって冷静でした。「え、ウソでしょう! まさかこの私が乳がん?」との驚きはありましたが、あたかも他の患者の話をしている感覚。不思議と平常心を全く失わず、先生にいろいろ追加質問してみました。

 

 どこも痛くないのですが、と疑問を口にすると、乳がんの場合症状が全く出ないのはよくあることで、がんが加速度的に大きくなるのもよくあることだそうです。乳がんの原因って何でしょう、との筆者の根源的且つ稚拙な質問に、男性ホルモンを女性ホルモンに変える働きなどで女性ホルモンが増えがんになる、との答えが返ってきました。イケメン先生に「女性らしい方だから・・」とかノセられ(?)、思わず「それほどでも♡」(オホホ!)、とにんまりしたのでした(笑)。

 

 他の部位への転移がないかどうかを調べるPET(全身腫瘍検診)、細胞を詳しく調べる生検の予約を早急に入れてもらい、その結果を待って1週間後にまた診察を受けることになりました。乳がんと確定した場合、他の部位に転移していれば薬物治療、胸だけであれば切る、との治療方針概説を拝聴しました。

 

  (診断結果の宣告まで)どういうことを心がけておくべきか尋ねると、楽観的な日々を送り、バランス良い食事を摂ること、という一般常識的なアドヴァイス。

 

 主治医は始終ニコニコした朗らかな方で、キャリアウーマンたる患者の筆者も明るくビジネスライクな受け答えに終始、乳がんらしき、との深刻な宣告を受けた初診だったというより、歯医者でインプラントの説明を聞いた、みたいな診察でした。

 

 診察室を退出してからボーイフレンドに早速メールで「やっぱり乳がんでリンパ転移しているんですって」と短く報告。驚かす気はありませんが(いえ、いささかありましたが!)、これからPETと生検で更に調べると伝えました。その翌日神宮外苑の黄葉を一緒に観に行くことになっていたので、詳しい話はそれから、です。

 

「乳がんねえ、ウソでしょ、まさか私がねえ・・」

 

 正直、その日の実感はそういった溜息に尽きます。ワシントン時代、周囲に乳がんに罹った女友達が何人かいましたから、客観的事実としては不思議でないのですが、まさか自分まで、という驚きでした。なにしろこれまで病気らしい病気をしたことがなく、つい昨日まで旅先でも1日に15キロ走破とか平気でスタスタ歩き回り、健康そのものと思われたこの自分が、「がん」という悪名高い爆弾を体内に抱えている、という可能性は到底にわかには信じられません。(実は、今でも信じられません。)

 

 と同時に、それほど悲観もしていませんでした。巷ではセレブの方が若くして乳がんで亡くなられた悲劇が世間を賑わせましたが、筆者が個人的に知っている女性達は皆乳がんサバイバーです。義兄を含め、がんを克服した男性達もたくさん知っています。心の底では「まあ、乳がんで死ぬことはないでしょう」と確率的な安心感があり、乳がんでその先どうなるのか、という問題より、乳がんだと確定したらどう治すのか、という大きな命題に関心を向けることにしました。

 

 この段階で早速ブログで「ガーン!記念日」の記事をアップ、がんの疑いありと言われ更に検査することをサラっと前向きに公開しました。というのは、後ほど手術で入院でもしたらブログの更新が滞るでしょうから、その時に突然「実は乳がんです」と読者に明かすより、早めに経緯を説明しておく方がラクだと思ったからです。作家魂で、がんはネタになるかも、とも考えました(笑)。

 

 また、乳がん関連ブログをネットで幾つかチェックしてみたところ、乳がんを患っていた彼女が死にました、式の暗い記述を発見。読者を力づける明日に繋がる明るいブログも必要では、と切に感じました。

 

 筆者の作家ブログの読者は乳がん患者ではありませんから、健康人が読んでも何か参考になる、楽しい読み物として乳がん治療の経緯を書き綴る事を決心したわけです。新たな題材の登場に、或る意味、昂揚した気分にさえなったものです。この、いわば「キャンサー(がん)・ハイ」な状態、乳がん克服という新たな使命を与えられた不思議なやる気、がなぜか今日まで続いております(笑)。

 

 

 


自分の病気は勉強して知る!

 

 楽観的な筆者は初診に出向くまでネットでは良性腫瘍に関してしか読んでいなかったので、悪性腫瘍、乳がんの可能性が出て来た今、早速「乳がんとは」をネットで調べることにしました。

 

 診察を受けるまでは99%自分はまさかがんではないだろう、と信じていましたが、主治医に「悪性の疑い」と言われて以来、リンパ転移もあることですし、検査を待つまでもなくたぶんこれは乳がんに違いない、とすでに覚悟が決まりました。優等生とは最悪の事態を想定して心の準備する、と小説に書いたことがあるのですが、まさにその心境かもしれません(笑)。

 

 乳がんを解説するウェブサイトはネットに山ほどありますが玉石混交、がん関連商品やサービス売り込みサイトも多いようです。

 

 先ずは信頼できそうな「国立がん研究センター」や「日本乳癌学会」の乳がん基礎知識・検査方法・診断・治療法等を包括的に解説するサイトを読み込みました。乳がん先進国米国の現状をお調べになりたい方には「アメリカがん協会」の乳がんウェブサイト(英語)もお薦めです。ネットで収集した解説記事をあれこれ抜粋して整理、主要項目をマーカーでハイライト、乳がんとは、を初めて勉強したのです。

 

 書店に足を運んだところ、女性読者向けらしい乳がん専門の書棚までありました。日本でも乳がんは昨今12人に1人の罹患率となったそうで、関連本がずらりと並んでいます。A4版にまとめられた『NHKきょうの健康―乳がん』特集本(2013年版)、週刊朝日ムック『乳がんと診断されました』(2017年版)がチャートなども多くわかりやすく解説されているようなので、教科書本として買って来ました。

 

 週刊朝日ムック本には乳がん治療実績の多い病院がリストされていて参考になります。たまたま近所なので東京女子医大で診察を受けたのですが、がん研有明病院や国立がん研センター病院、聖路加病院には劣るにせよ、乳がん手術件数も結構あるようで安堵しました。

 

 初診を終えた週の土曜日に遠隔転移の有無を調べるPET検査、月曜に細胞診・組織診の生検、1週間後の12月6日に再び主治医と面談の予定です。それまでに乳がんという病気について勉強し、検査結果を理解できるよう努め、治療方針・スケジュールなど先生に質問すべきことをリストアップする。まるで学生時代に戻り教科の課題をこなしている心境でした(笑)。

 

 乳がんとは乳房の乳管にできる悪性腫瘍、乳管にがんが発生し乳管内を広がったり(乳管内進展、)乳管外に広がり(浸潤)増殖、リンパ管や血管に入ると脇下のリンパ節に転移、全身に転移を起こす可能性もあります。

 

 

 がんのステージ分類は、筆者のようにリンパ節転移がある場合は少なくともステージ2、悪くすると3ということで、もしも遠隔転移があれば最悪ケースのステージ4。この発見には正直ビビりました。

 

 どうやらリンパ節転移があっても元巣のしこりの大きさが5センチ以下ならステージ2に留まれるらしく、筆者の左胸のしこりは16ミリ、右胸のしこりは9ミリと教えられていましたので、遠隔転移がなければまだ大丈夫、と勝手に解釈し自分を安心させることに。

 

 乳がんの「標準治療」は手術と薬物療法、放射線治療で、手術や放射線が局所的治療であるのに対し、抗がん剤等の薬物療法は乳房以外のがん細胞も対象とする全身療法だそうです。抗がん剤はできてしまったがんを小さくする薬だと思っていたら、タンポポの種のように他の部位に飛散しがんを引き起こす微小転移をあらかじめ叩き、再発や転移を予防することが主眼のようです。

 

 乳がんは「全身病」と考えて治療する必要がある、との記述を読んでヒヤリとしました。胸にできた腫瘍は無症状で毎日の生活に別に支障はないのですが、その悪性腫瘍を手術で取り除く以上に、がんが他の臓器に転移するのを防ぐのが乳がんという病の治療だと知りました。

 

 薬物療法の内容は乳がんサブタイプによって違うようです。がん細胞の性質(生物学的特性)に合わせて、ホルモン剤、分子標的薬、抗がん剤といった薬物治療をする、と解説されていました。

 

 加えて、手術前に薬物療法をするのか、術後にするのか、放射線治療というのもあり、本に掲載されていた治療解説のフローチャートは相当複雑、治療方法や手順が多岐に渡るようです。手術に関しても乳房温存術と乳房切除術、術後の乳房再建方法のいろいろ、学ぶべきことがあり過ぎます。

 

 まだ勉強不足で出かけた2回目の診察の際、あれこれ質問して主治医に煙たがられるのではと内心心配でしたが、良く調べていただいて嬉しいです、みたいなことを言われて驚きました。どうやら乳がんについて勉強せずに診断結果を聞きに来る患者が多いらしいのです。しかし外科医の先生は忙しいですから乳がんA-to-Zを患者の一人一人に詳細に説明する時間は到底ありませんし、診断結果を聞いた時に理解し質問できるぐらいの知識は、人まかせにせず持ち合わせるべきではないでしょうか。まさに自分の身体の話、なのですから。

 

 PET検査の結果、遠隔転移はない、と教えられ心底安堵しました。まさに「ラッキー! 神に感謝!」という心境です。乳がんの場合、近くのリンパ節への転移は転移に含まれず「局所」と解釈されるそうで、「転移」とは乳がんが回って他の臓器でがんが発見されること、そうなると完治が難しいらしいのです。筆者の場合、リンパ腫瘍の細胞診の結果がん細胞が見つかり、正式に「がん認定」となりましたが、「転移」はないので根治を目指しましょう、と主治医に励まされました。

 

 ステージ分類を伺うと、腫瘍が2ミリ以下なのでT1;リンパ転移ありでN1:遠隔転移ナシでM0、すなわち「ステージ2A」だそうです。ただし、リンパの2つのしこりが今はやや離れているのでN1でも、くっつくとN2になるので、ステージ3Aに近い印象だと教えられ、いささかヒヤリとしました。ステージ3といえば、完治し難いステージ4の一歩手前ではありませんか。

 

 胸の腫瘍の組織診の結果はまだ出ておらず、乳がんサブタイプの判定と治療法の決定は翌週の診察を待つことに。薬物治療は、ホルモン剤が効くがん(7割ほどの患者)はホルモン剤と抗がん剤、分子標的薬が効くなら分子標的薬と抗がん剤、抗がん剤しか効かないのであれば抗がん剤だけ、ということらしいです。

 

 年末でしたから手術するとしても1ヵ月後、それまで治療が空白なのもどうか、と術前薬物治療を薦められました。手術前に抗がん剤を投与すると効き方をチェックできるメリットがあるとのこと。術前抗がん剤も術後抗がん剤も「余命」に違いはないとの結果が出ていると説明され、余命、という物騒な言葉が出て来るシリアスな病になってしまったことを改めて認識しました。

 

 筆者は主治医の言葉を逐次メモに書留め、後ほど家で「乳がん治療ノート」にまとめ「復習」することに。「がん」ということだと、これからの治療はやや長い道のりになりそうです。ビッグプロジェクトですから、仕事の案件と同様、細かく経過や注意事項をメモすることにしました。

 

 

 


乳がんタイプと治療方針

 

 1週間後、12月13日に3回目の診察に行ったところ、組織診の結果、先ず良い知らせは右胸の小さなしこりはがんではなかったとのことでした。自分では気づかなくエコーで発見された腫瘍ですが、両胸にがん発病という悪い事態ではなかったわけで安心しました。

 

 左胸の腫瘍の病理検査の結果は、「ホルモン受容体」に関しては、エストロゲンが明らかな陽性、プロゲストロンは陰性。乳がん細胞の増殖に関わる「HER2たんぱく」に関しては3+、すなわち強陽性、との判定。がん細胞がどのくらい活発に増殖しているかを示す「Ki-67」の値は20-50%でした。

 

 主治医が一応説明してくれましたが、これらの指標を理解するには事前の勉強がお薦めです。ホルモン受容体があるということは、女性ホルモンで増殖するのでホルモン剤が有効です。HER2強陽性は以前は厄介な乳がんとされていたそうですが、近年分子標的薬「ハーセプチン」が使え治療法が確立したとのこと。又ラッキーなことに、数か月前から新たな分子標的薬「パージェタ」が再発性乳がんだけではなく初期治療でも使えるようになり治療法が強化されたようです。増殖スピードの指標が高い、とは心配な結果に思えますが、この指標が20%以上だと抗がん剤が有効、との意味だと教えられました。

 

 乳がんサブタイプを尋ねると、5つある乳がんタイプのうち、いわゆる「ルミナールHER2型」だとのこと。すなわち薬物療法として、ホルモン剤も分子標的薬も抗がん剤もすべて有効と考えられるタイプです。

 

 術前薬物療法として、抗がん剤のアンスラサイクリン系+アルキル系を3ヵ月、抗がん剤のタキサン系+分子標的薬のハーセプチン+パージェタを3ヵ月、が考えられるそうですが、順番を逆にして抗がん剤+分子標的薬を最初に試し、腫瘍が小さくならず効果がなければそこで手術、がんが残っていたらアンスラサイクリン系等をやり、効果があればアンスラサイクリン系等は省いてもいい、とのお話。筆者は教科書本のフローチャートに主治医の説明を記入しながら聞いていましたが、抗がん剤の種類だけでも多種多様で、復習しなければ理解が追いつきません。

 

 分子標的薬は心拍低下の副作用があるため初回投与の際には入院が必要とのこと、以後3週間に1回の周期で計4回3ヵ月間、その間6週間毎に腫瘍をチェックするそうです。術前薬物治療の後、手術。その後、放射線を毎日5日間、計5回5週間。続いて再び分子標的薬、それにホルモン剤を加えて9カ月投与、という治療計画になると伺いました。

 

 薬物治療開始に備えて、腫瘍の大きさを詳しく検査するMRI(磁気共鳴画像)、心臓への悪影響がある分子標的薬を投与する前に必要な心臓エコー検査の予約を入れました。

 

 

 

 さて治療方針が決まったので、セカンドオピニオンというほどフォーマルではありませんが、元東大付属病院・がん研に勤務し現在はクリニックを主催している知人(姉の同級生)の乳がん専門女医にお伺いを立てることにしました。

 

 その理由は、話しやすく信頼できる主治医だとしても、人生の一大事(!)をこれまで3回だけの短い診察で本当に決定して良いのか、という漠然とした不安です。胸のシコリを発見し初診に訪れて以来バタバタと様々な検査をしましたが、ここで一呼吸して整理、というところでしょうか。

 

 ボーイフレンドや姉から、セカンドオピニオンを取らなくていいのか、がん研に行かなくていいのか、と意見されたことも理由の一つです。筆者は乳がん専門医ではありませんから主治医が薦める治療方針に反対する理由は持ち合わせていません。同じく、術前治療の薬物療法の順番を提示されても、それでいいかどうか、判断できる知識がありません。第三者の専門医に、その治療方針で間違いないと意見してもらい、自分で十二分に納得したい、という心境でした。

 

 前回セカンドオピニオンについて主治医に打診した際、年末なので大学病院等に要請するとオピニオンをもらえるのが1月末になり治療が遅れる、と心配されたので、クリニックに勤務する知人医師に至急治療相談する、という形を取ることにしました。主治医は快く了承してくれて、病理診断などこれまですべての診察結果をもらい治療相談に向かいました。

 

 結果として、第三者の専門医に主治医が薦める治療方針で良いだろうとの意見をいただき、安心して治療に向かう決心ができました。副作用対策とか食事療法に関して疑問に感じていた点を時間をかけて質問でき、それなりに有意義なコンサルテーションでした。

 


がんは食事では治らない、でも食生活は基本

 

 話は戻りますが、胸のしこり発覚で書店で乳がん関連書を入手した際、一般のがん解説本の書棚も見渡したところ、がんは食事で治る、式の本がたくさん並んでいました。がんが消える、がんを消す、あなたの命を守る、余命○ヵ月のがんを克服、死なない食事、等々キャッチコピーが並び、ベストセラーだとの帯も派手についているのでつい手に取りたくなります。

 

 筆者は20年ほど前、米国駐在中に父を肺がんで亡くしているのですが、その際アメリカの「がんを食事で治す」式の代替療法関連本を読み漁り、がんに効くとのキールの青汁等を一時帰国の際に父に持ち帰ったりしたものです。日本の食事療法や免疫療法の本も買い込み片っ端から読みました。その影響もあり当時の筆者は、西洋医学の化学療法は身体に悪く自己免疫力でがんを治す方法を模索する方が賢明ではないだろうか、と半ば考えていたのです。

 

 ガンは生活習慣病、食生活と深く関係しているに違いありません。いささか怪しげな謳い文句が並ぶ食事関連本ですが、今回も半ダースほどまとめて購入、最近出版された本には何が書かれているのか一応読んでみました。また、これらの食事療法本に対する評判を調べるべくネット検索したところ、案の定いろいろな批判が出てきました。

 

 読者の皆様が無駄な時間を費やさないですむために、先ずは週刊新潮の『食べ物だけでがんは消えない!「がん食事療法」が「がん患者」を殺す』(2018年8月31日号掲載)という大場大先生の記事を参照なさることをお薦めします。大場先生は東大付属病院に勤務していた外科医・腫瘍内科医、『がんとの賢い闘い方 「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)等を執筆しています。週刊新潮の記事では、大手書店の書棚に堂々と陳列され筆者が購入した食事療法本があまねく「エビデンスが低いエセ医学」として批判されており、本を信じてその教えに従い命を落としかねない読者に強い警告を発しています。

 

 確かに、余命○年とでも宣告されたがん患者の方は、藁をもつかむ思いで「ガンは○○で治る」という処方に飛びつきたくなることでしょう。しかしこの記事によると、例えば米国で喧伝され筆者が前に可能性を期待していた代替療法はエセ医学として警告が出ていると知り、急遽開眼しました。

 

 ガンを治すには巷に溢れる民間療法式の対処法に惑わされず、エビデンスが確立している標準療法(最善療法)に従うのが賢明です。食事療法だけではがんは治らないという現実をしっかり踏まえ、極端な食事療法は避けるべき、と確信したわけです。様々な食事療法の薦めを読みましたが、結局、主治医が説く「バランスの採れた食事」がやはり基本のようです。

 

 とはいえ、多彩な食事療法の本を読んで多少の学びがありましたので紹介しておきます。

 

 

 

 

 がん患者は何を食べて何を食べないべきか、どうやら両極端の意見があるようで、ケトン体食派は高タンパクの減糖食・断糖食を主張し、ゲルソン療法派やマイクロビオティックック派は玄米菜食、肉を食べないよう薦めています。

 

 肉を食べろ・食べるな、動物脂を摂れ・摂るな、玄米を食べるな・食べろ、根菜を食べるな・食べろ、乳製品を食べろ・食べるな、塩はOK・ダメ、と正反対な薦めがあるようでメモを取りながら困惑しました。砂糖抜き、青魚や鶏肉、卵、豆腐、青菜、海藻類、キノコ類は食べろ、という点に関しては異論があまりないようです。

 

 がんの主たる栄養分は血中ブドウ糖だとのこと。確かに、前述したPET検査ではブドウ糖に似た成分を注射した後全身を撮影し、ブドウ糖が多く集まるところを探してがん細胞の居場所を突き止めます。自分のPET映像で左胸に1つ、左脇下リンパに2つ、怪しげな黒い丸印があったことを思い起こし、ブドウ糖を絶ってあの黒々と増殖したがんを兵糧攻めにしなくては、と思いました。

 

 アメリカから帰国して以来日本の美食と美味しいスイーツで3年間で3キロも体重アップ、スマート体型のつもりだった筆者も最近ウエスト周りが気になり、乳がん発覚以前からそろそろ菓子や炭水化物の摂取を減らすダイエットを始めなくては、と自覚していました。乳がんの要因の一つは肥満だそうで、腰周りの脂肪こそが女性ホルモンを生み出す元凶である、と米国の記事で読みあせりました。減糖ダイエットは実践してみるつもりです。

 

 肉を食べろ、という意見も取り入れ、タンパク質を多く摂取して代謝アップに繋がる筋肉をつけたいところです。ただし、糖分が多いので根菜や野菜を控えろ、という薦めは極端に感じられ、ビタミンや食物繊維の多い野菜は食べ続けたいと思います。

 

 玄米には興味があり、白米や白いパンではなく玄米や胚芽パンを、との推奨は多少実践していたのですが、発芽玄米は糖度が高く最悪、との記述を本で読んでヒヤリ。欧米人やインド人に多い菜食主義には元々興味がなく、それで体力を落とし健康を損なう危険は冒したくないものです。

 

 乳製品に関しては意見が分かれるようですが、カフェオレやラテが大好きな筆者、乳製品を食べない生き方にはついていけません。前述の乳がん専門医の女医さんによると、乳製品はホルモンと無関係で脂肪の取り過ぎにさえ注意すればいいそうです。ちなみに大豆のイソフラボンという成分は植物性女性ホルモンなので、乳がん患者は豆腐・豆乳・納豆などの大豆食品の摂取は控えめにすべき、とのことでした。

 

 ということで、栄養バランスを考えてはいますが、なるべく高タンパク・減糖モードの食事を努めています。ステーキは好きで時おりガッツリ食べますが、脂肪分の多い赤味肉より鶏肉がお薦めらしいので、チキン料理のメニューを増やしました。減糖して肉を食べる、と宣言したところ、それは「結果にコミット」のダイエットCMで有名なライザップの食事療法と同じだと言われました。

 

 青魚は生で食べるのがベストだそうで、前から居酒屋ではよく刺身を注文していましたが、スーパーの魚売り場でアジやイワシを刺身にさばいてもらい家でも食べるようになりました。卵は良質なタンパク質やビタミン・ミネラルを含む完全食品とのこと、手軽に料理できるので便利です。忙しい朝や食欲の出ない朝にはゆで卵、又サラダやスープ、様々な料理に入れて最近は1日に2-3個食べています。

 

 がんに効くとされる食べ物、もリサーチ。本当に効能があるかどうかはともかく、元々栄養価が高い食品群ですので積極的に食べるよう努めています。

 

 ニンニクに含まれるジアリルトリスルフィドがん細胞の増殖を抑えがん細胞を消滅させるとの説があります。元々ニンニクは好きでよく料理に使うのですが、乳がん発覚以後はお得意のスペイン料理、ニンニクスープを作ってたくさん摂取するようにしています。身体が温まる美味しいスープですのでお試しください。

 

 ブロッコリーに含まれるスルフォラファンは発がん物質の解毒を促進、乳がん細胞を抑制するとの研究結果があるそうです。また、ブロッコリーの芽であるブロッコリースプラウトには、ブロッコリーの7-10倍のスルフォラファンが含まれているとのこと。乳がん患者の方のブログで教えられ、高濃度スルフォラファンを含むスーパースプラウトを買い生で食べています。ヨーグルトと混ぜたり、青魚のカルパッチョや肉料理のトッピングにします。

 

 海藻のぬめりに含まれるフコイダンはがんの進行を遅らせるとか。もずくは便秘解消に速攻効果がある植物繊維摂取として以前から食べていたのですが、抗がん作用もあると聞き多めに食べるようになりました。ただ、市販の甘酢仕立ては糖分摂取過多になりますから、生もずくを買いましょう。スープ等に入れると美味しくたくさん摂取できます。前述のニンニクスープに入れれば最強です。

 

 さて、がん対策だけではなく健康一般に通じることですが、自己免疫や自然治癒力なるものを強化するには、栄養を採り、腸内環境を整えて栄養吸収を確実にし、血流を良くし栄養を身体中に運ぶ、ことが大切だそうです。

 

 腸内環境を整えるのは乳酸菌やビフィズス菌らしいので、ヨーグルトは毎朝食べるようにしています。血流を良くする手軽な健康食品として、南アフリカ原産のハーブティー、ルイボスティーを飲むようになりました。スーパーオキシドジムスターゼという抗酸化成分を含み、むくみ改善にも良いそうです。

 

 身体を冷やすと免疫力が下がり低体温・低酸素でがん細胞が増殖しやすいとのこと、朝一に白湯を飲み、シャワーでなく朝風呂に浸かって身体を温めることにしました。

 

 

 

 がん細胞が嫌いな酸素を身体に行き渡らせるのは深呼吸。前から簡単な腹筋運動やヨガ式のストレッチ、スクワット運動を家で行なっているのですが、その際に深呼吸をして酸素をたくさん取り入れるよう意識しています。

 

 血液・リンパ液のアルカリ度を高くすればがん細胞を撃退できるとの説があり、試しに菓子作りに使うベーキングパウダー(重曹)を小匙に1杯ぐらい水や青汁に溶いて飲むこともあります。効くと謳われる手頃な食材はなんでも試してみよう、当たるも八卦、の心境です(笑)。

 

  サプリは風邪対策のビタミンC錠剤以外ほとんど使用しない筆者ですが、海外出張の際に時差ボケを解消すべく、飛行機の中で眠れるようメラトニンという睡眠補助薬を時おり飲んでいました。メラトニンは元々体内で作られるホルモンです。がんの増殖を抑える効果がある、という研究結果があるそうで、ウソか本当か、時おり摂取しています。ただし、米国では薬局で手軽に変えるサプリがどうやら日本では認可されていないらしく、先日正月休暇で一時帰国した在米の友人に買って来てもらいました。

 

 ちなみに、日本乳癌学会のサイトでは、免疫療法、高濃度ビタミンC療法、巷で流行っている健康食品等の補完代替医療はすべてエビデンスなし、と警告していますので付け加えておきます。又、サプリ等は乳がん治療に用いる薬の働きに影響を及ぼす可能性があるので、使用する際には主治医からOKを取り治療に問題ないことを確認しておきましょう。

 

 

 

 

 



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