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東京デスストリート

密集した人の熱狂がこの街を彩った。
歩き疲れネットを漂流し辿り着いたのがこの最果ての街。故郷はもう記憶の棚に挟まりその若者だった自分は死臭を目や口から放ち殺伐としたページを記録する儚いものとして、人の目に写ったのだろう。様々な記憶達の群れが徘徊し街が映し出す。仕事と住む場所は、新生活というよりは終わりを意味していた。荷物は少なくて寂しさを露にし街中の入口を通過した。初めて見る光景だが何か美味しそうな匂いを感じた。路上生活者は、季節感を失っていた。ホストは幼い面持ちのまま飾られていた。吸殻やゴミで埋め尽くされた道路を掃除している人がいた。俺に意識は変わって、仕事はあれだろうか?と思いながら見渡した。携帯に登録している会社の看板が見えた。1階にウィンドウは張られて、中に入ると椅子に座り、スーツを着た紳士に説明を受けて安心する。
「寮、用意してるからね。街の警備費として店から徴収してる」
「はい」
「仕事は、掃除、警備に当たる」
「分かりました」
「行こうか」
名刺をもらい財布に入れて事務所から外に出て行く。
「寄りたい所ある」
小道にあるアパートの階段を上がっていた。
「待って」
トントンッとノックする。
「すいません。管理の者です」
ドアがガチャッと開いて男がそっと顔を出して伺っている。
「仕事無くしたから」
「失業したんですか?」
「そうです」
「困りましたね」
「そうなんだ」
「じゃあ、仕事早く決めて頑張って」
部長が降りてくる。
ホームレスは苛立ちを露にして大きな声を出す。
「帰ってくれ!こんなにガラクタたくさん置くな」
俺はマンションにいた。スケーターのカタという音が響いた。
「飲食の提供も仕事」と部長は言っていた。冷蔵庫や洗濯機があり安心して鞄を置くと鍵を渡され、部長は出て行った。ベッドの上に寝転がって時計を確認したら物凄く時間が経過していた。
ホスト2人がタバコを吸って立っていると、高校生が近づいて来た。ホストに話しかけた。
「金くれ」と言いナイフを出す。
「おい。ガキが。止めとけ」
「早くしろ」
俺の携帯が震えていた。出ると部長だった。
「仕事だ。来てくれ」
「分かりました」
走っていた。会社の前に部長と他の社員が立っていた。
目の前では改造車が止められていて、ホスト5人と高校生が掴み合いになっていた。
その中に入り仲裁した。
「恐喝だ」
「ナイフ持ってるぞ」
部長は高校生が隠し持っているナイフを取り上げた。
「お前、帰れ!」
高校生は走って行った。
「ありがとう」
都内の居酒屋にグラスを口に運ぶ仕事帰りのような男達がいた。
「タンクトップがムカツク」
「また?」
男はグラスと金を置き、その場を離れた。
「待て」
二人の男も彼に付いて行った。デス街と呼ばれる場所に入ると飲食店の油っぽい匂いがした。サラリーマン3人は、携帯を見つめた無機質な子供に話しかけた。「あの男、わかる?ストリートファイトの」子供は、携帯に位置情報を表示した。
「ぶっ殺す」そう罵声が響き渡り、黒のタンクトップの男がサラリーマンを追いかけていた。それを見てるホスト達。
「おい」
「邪魔だ」
サラリーマンがホストにぶつかった。
ズタズタと倒れてスーツが千切れた。治安隊が現れて警棒を握りタンクトップ男を押さえた。
倒れたホストは「大丈夫?」と女に声をかけられた。
店内でキャストのマイクが響き渡っていた。
「ニューボトル~」
タバコに火を付けた。
治安隊の警備は鍋を用意しホームレスの人達にカレーを配っていた。
「おかわりは?」
「いいよ」
スケーターの集団が道でカタッと音を立て飛び跳ねてる。
校舎が見える。教室からグラウンドを見つめる痩せ細った手で財布を見た。男子に声をかけられた。アパートに帰った。
「バイトしようと思って」
「何で?」
街の看板にさしかかった。売春婦のお姉さんにゆっくりと近寄って行く。コソコソ話している。
「すいません」
「はい?」
「バイト…したくて」
お姉さんが誘導して連れてきた。
「この子、バイト」
「治安?」
「治安って?」
その日に街の掃除を始めた。タバコ拾いやゴミを集め数時間経った。
学校で友達を誘った。
「バイト一緒にしない?」
「何の?」
「街の警備とか掃除」
夕食を配っている治安隊。
仕事がかなり慣れた頃、この街の地に映画関係者が来た。ドキュメント映画を撮るという事で取材を受けた。テーマは東京スラム街。街の顔で黒のタンクトップの男も取材された。
「みんな、男の聖地として訪れる。いつでも君を待ってるよ」
スケーターやホームレスが取材に受け答えしていた。
映画製作に反発が起こった。この東京の街を綺麗に排除すべきという団体が出来た。緊急で起こされ、駆け付けた時には暴動が起こっていた。抗議活動の前でぶつかり合っているデモ隊と街の人の仲裁にいた。
「出ていけー」
「汚すな」
改造車が現れ、デモ隊の横で爆音を出している。帰って行くデモ隊を見逃さなかった。だが、彼等のデモは国までも動かした。違法労働者は摘発され、排除された。製作された映画の上映会があると聞いた。俺は劇場の席でポップコーンを食べながら映画に夢中だった。ドキュメントだと思って見ていたがテロップで40年後からの手紙という場面に切り替わる。
「年老いたわしは、70代に。かつて東京スラム街にいた若者がこの地に夜間学校を設立していた。ゴミを拾うわしは、ひとつの手紙を見つけた」ボロボロになった封筒には、たかし。と書かれてあり、美咲へ。と記されていた。本人が捨てるわけがない。ちょうど美咲が通りかかった。
「何それ?」
「落ちていた」
美咲はすかさず後ろの手でたかしにピンクの手紙を渡した。たかしは、手紙を見て微笑みポケットにしまった。
学校集会が開かれていた。校長先生は「無になってください」とだけ告げた。
映画は終わり、劇場を出ると警察が騒がしかった。治安隊の会社も摘発され俺は故郷に帰る事になった。
朝、起きると顔を洗い流し、リビングで座る。目玉焼きと鮭を食べながら、テレビをつけた。「行ってくるからねー」と玄関で声が響いた。網戸から強い風が入り窓を閉めた。コンビニに入ると、自分が高校生だった時によく見かけた店員が未だに店員として働いていた。何も驚かず当たり前のように俺は変わらない道を帰っていた。


この本の内容は以上です。


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