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台本

演劇『さきいかの恋』

 

■ 舞台設定

 

新幹線の車内。

ラストに喫茶店の店内。

 

■音響

 

電車の進行音。

車内アナウンス。

ダンサーが客席に出て踊る曲『ヘビメタ・サンバ、踊ってルンバ』

TVからの競馬中継、馬の足音。アナウンサーの声。

同じくTVからのキックボクシング会場の音。アナウンサーと解説者の声。

エンディング曲『ダンシング・ナイト』

https://www.youtube.com/watch?v=-xCYoCpl0Xo

 

■照明は現状未定

 

■ キャスト

 

工藤新一・・・40代の中年男

ミヤコ、サトミ・・・女性・20代後半、天然、かわいい系

※ 「ミヤコ」さん演じる女優さんは二役演ります。

若い男駅掌・・・20代前半、鶏がらのような細身、めっちゃ若い、おどおどしてる

マッキー・・・女性・30代前半かな、細身セクシー系

カズミ・・・女性・30代後半、太め

オムスビ・・・顔がおにぎりに似てる30代前半、男性

車内女子販売員・・・タテヨコ大学アナウンサー部なので20歳くらい

鉄道警察隊の隊長・・・ガニマタ

花岡実太・・・太めの中年車掌

京都から着物姿の老人男・・・着物男

京都から着物姿の老人女・・・着物女

ホッピー若狭・・・京都から乗ってきた大男

コンサル・・・40代後半の男性

初老の男・・・ネズミ色のジャンパー、小柄

有限会社いか大王の男性社員3名

喫茶店を経営してる仏頂面の男

喫茶店のカップル

女ダンサー最低4人~10人くらい

※その他、車内アナウンサー、TV競馬アナウンサー、TVキックボクシング・アナウンサー、TV解説者、喫茶店のマスター、喫茶店のカップルは、誰か二役でやります。

これらにより出演者の数は前後します。

なので、ダンサーを最低限の4名とした場合22名。

理想はダンサー10名以上、欲しいので、そうなると出演者は総勢30名以上になります。

※映像のエンディングには、それぞれの登場人物のその後、みたいな写真を1カットずつ入れます。これは背景設定の考慮は不要。

 

■ 台本

 

舞台は新幹線の車内。

そこに突如、しわくちゃなスーツ、よれよれのネクタイ、ぼさぼさ頭の中年男、工藤の登場。

二日酔いなのに、駆け足ダッシュで乗り込んできた雰囲気。

両肩で、大きく息をついて。

片手にはコンビニの白い袋。

その袋には、さきいかのパックと炭酸水のペットボトル在中。

こんな中年男の状態に関係なく、平然と流れる車内アナウンス。

 

車内アナウンサー「今日も、新幹線をご利用いただきまして、ありがとうございます。

この電車は、のぞみ10号、博多行きです。

途中停車駅は、品川、新横浜、名古屋、京都、新大阪、新神戸、岡山、広島、新山口、小倉、博多の順に、停まります。

Ladies and gentlemen,Welcome to this shinkansen.

This is Nozomi super express.Bound for Hakata」

 

工藤「ほえー・・・なんとか間に合ったな、と。ふう。

えーっと、13号車は、ここだよな。C12、C12?」

 

と、座席を探すと背後、窓際の座席に1人の女性・ミヤコ。

はっ、と目が合う2人。

 

ミヤコ「あ、すいません。こっち、ですね」

 

工藤「あ、す、すいません」

 

と、工藤は窓際へ、ミヤコは通路側の座席へ。

お愛想笑いが、これまたキュートなミヤコ。

おー、これはラッキーと、照れ笑いの工藤。

発進のベルが鳴り、動き出す新幹線。

 

とりあえず、という感じで、手に提げていた白いコンビニのビニール袋から、炭酸水のペットボトルを取り出す工藤。栓を開けると猛然と、ぶしゅゅゅゅゅゅゅゅぅーーーーーーーーーーーーーっ、と、もう噴水状態。

もう、まわりは、泡だらけだ。

 

工藤「うわあああああーーー!」

ミヤコ「きゃああああーーーー」

 

工藤、あわてて立ち上がると、尻が座席にぶつかって、その勢いで前の座席に激しく頭をぶつける。

 

工藤「あ、いってえーーー!」

 

と、さらに、片手に持ってる炭酸水をミヤコに大量にふりかけてしまうことに。

 

工藤「あっ、ああああうー!」

ミヤコ「うひょーーーーーーん!」

 

工藤、ポケットから、使用済みのしわくちゃなちり紙を取り出して、ミヤコの頭や服に飛び散った泡を拭く。

 

工藤「ああ、ああ! こりゃ、これは、ああ、すいません、すいません、すいません! 申し訳ございません!」

ミヤコ「それ、これ、なに、それは、いやーん、うひょーん、やああああああーーーー」

 

少し離れた斜め前の座席の、PCに向かって必死こいて文章を書いてたオムスビ、突如、立ち上がり、振り向いて怒鳴る。

 

オムスビ「うるさいうるさいうるさーい! おい! そこ、うるさい、んだよ!」

 

びっくりしてミヤコと工藤、その場に直立。

工藤、またしても尻が座席にぶつかった拍子に前の座席に頭を痛打。

 

工藤「あっ、いってえーーー」

 

思わず笑い出してしまうミヤコ。

が、しかし、オムスビ、さらに激怒。

 

オムスビ「なにやってんだ、おまえはよお! 静かにしろ、って言ってだよお!」

 

工藤「あ、ああ、すすすす、すいません」

 

頭をおさえて、ゆっくり座る工藤。

その姿を横目にしながら、くくくくく、と、泡まみれなくせに必死で笑いをおさえるミヤコも、ゆっくり席に腰を降ろす。

工藤、あ、と再び気づいたように片手に握りしめていたままのティッシュで、またミヤコの服を拭こうとする。

が、しかし、ミヤコは、だいしょうぶ、という仕草で、自分のバックからハンカチを取り出す。

 

工藤「あ、そうだ。コンビニで、めずらしいサキイカ、買ってきたのですよ。青森100イカっていう。なんだか、わかんないんですけど、おいしそうですよ。たべます?」

 

ミヤコ「ああ、いいですね。ビールにあいますね」

 

工藤「あ、そしたら、ビール、買いましょう。ちょっ、ちょっと待って」

 

ここに若い駅掌、めちゃくちゃ、おどおどしながら登場。

 

若い男子駅掌「すいません、乗車券を、拝見させていただきますう・・・」

 

工藤、ミヤコも、それぞれに乗車券を提示。

赤い判子が押される。

斜め前、オムスビ、イラつきながら乗車券を示してる。

ミヤコはハンカチでスカートなんかを拭いてる。

 

工藤「ほんと、なんか、すいません」

ミヤコ「いーんですよ。これくらい。あたしなんか、もう、どーなったって、いーんですから」

工藤「えっ?」

ミヤコ「どちらまで、いかれるんですか?」

工藤「小倉まで」

ミヤコ「あ、あたしは博多まで。それじゃ、ずっと一緒ですね」

工藤「あっ、そうですか・・・ああ、あ、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。あ、ご実家が、博多なんですか?」

ミヤコ「いえ、ぜんぜん」

工藤「えっ?では、なぜに?」

ミヤコ「めんたいこ、食べにゆくのです」

工藤「めんたいこ?」

ミヤコ「とんこつラーメンも食べます」

工藤「はあ?」

ミヤコ「失恋しました。もう、やけ食いです。10キロぐらい、ふとってやります。もう、食いまくりまくって、もう、飲みまくって、道端に倒れます。こんなわたしでも、拾ってくれる人がいるかも知れません」

工藤「えっ! そんな! そんなヤケを起こしてはなりませぬぞ姫!」

ミヤコ「えっ、なんで時代劇?」

工藤「ああ、すいません、残務整理で、徹夜でやってまして。そんときテレビで『隠し砦の三悪人』やってて。なんか、みちゃって。

まあ、そんなことは、どーでも、いーんですけどお。

そのお、あなたのようなね、超絶かわいい方が、ですよ。決して道端に倒れたりしてては、決してなりませぬぞ!」

ミヤコ「あたしなんて、そんな、かわいいわけないですよ」

工藤「いやいやいや、そんなことは、ない!」

ミヤコ「かわいーわけないですよ! だったら、フラレるわけないから」

工藤「それは、その男が、ばかなんです!」

 

オムスビ「うるさい! うるさい、って、いってんだよ!」

 

工藤「ああ・・・すすすす、すいません・・・はあはあ」

ミヤコ「あ、お、怒られ、ちゃいましたね」

工藤「それにしても・・・なにをイラついてやがんのかなあ」

ミヤコ「はい?」

工藤「だから、あいつですよ・・・オムスビみたいなツラしやがって」

ミヤコ「あは! あたしも、ずーっと、そう思ってました」

工藤「あはは・・・やっぱり」

ミヤコ「うっしっしっ」

 

通路に車内販売が通過する。

 

女子販売員「品川名物、かめやまんねん堂のあほな、あほなです。そんな、あほなは、お菓子のホームラン王です。そして、さらに、東京駅地下売り場名物、いかめしい釜メシ、あなたの旅のお供に、いかめしいのは、いかがでしょうか」

 

工藤「ああ、すす、すいません。ビールを。ふたつ。はい」

 

と、こーして、缶ビール2本買いました。

そして1本を、ミヤコに渡す。

これはお茶かなんかのジュースにラベルくっつけて、ビールということにしましょう。

 

ミヤコ「あ、いーんですか?」

工藤「もちろんですとも。あ、じゃあ、ま、乾杯」

ミヤコ「真昼間、この、ぷしゅっ、ていうの、いーですね! 休日感、満載ですね」

工藤「あはは、あっ、サキイカ。あ、あれっ? なんだこれ? あきまへん。あっれー、なんで、これ? むーん・・・・」

ミヤコ「ん? ちょっと、貸してみてください。ん? あれっ? んーーーーーーー!」

 

と、チカラをこめてサキイカの袋を引っ張る。

と、手がすべって、工藤に右手で顔面パンチ。

 

ミヤコ「ああっ!」

 

工藤「いってえーーーー!」

ミヤコ「ご、ごめんなさい! あらららららっ!」

 

オムスビ「おい!」

 

苦い顔でオムスビに頭をさげながらも、思わず笑い出す2人。

 

工藤・ミヤコ「あはははは」

ミヤコ「だいじょうぶですか・・・かお」

工藤「まったく、問題ないっす。うっししし。こっちはねー、こんな美人さんとねえ、いちゃいちゃラブラブしてるもんだからねー、やきもち焼いてやがんの。オムスビ」

ミヤコ「小倉へは? お仕事、ですか? もう、仕事なんかやめて。あたしと一緒に、めんたいこ食べにゆきませんか?」

工藤「えっ!」

 

ミヤコ「ずっと、一緒に、のみまくり、くいまくりまくって、2人で体重増やしませんか?」

 

その一言を聞いて、もう、工藤、呆然自失状態。

 

アナウンス「この電車は、間もなく新横浜に到着いたします。

This train soon will be arrive at the Shin-Yokohama.」

 

ゆっくり、ミヤコが工藤へカラダを向ける。

ゆっくり、密着してゆく。

思わず、抱きしめてしまおう、と工藤がした瞬間、ミヤコのほうが、がばっ、と窓へ。

 

ミヤコ「マッキー、カズミさーん!」と、ホームに向かって手を振っている。

 

マッキーとカズミ、乗り込んできて、向かい合って2人の前に座る。

マッキーが工藤の正面。

空間が狭くなったし、ああ、なんで、おれは、まだ、このビールの空き缶を持ってるままなんだろうか、と我にかえったような感じで、その空き缶を自分の足元へ。

 

工藤、前屈みになります。

すると、そこにミニスカ・マッキーのふともも。

まるで、パンツを覗きこむような体勢になってしまった工藤。

なに? という感じで、ちょっと眉間にシワを寄せるマッキー。

 

工藤「ああ・・・すんません・・・」

 

それにしても、この人、いったい誰なんだろう、という感じで、マッキーとカズミは工藤に向かって愛想笑い、軽い会釈みたいな、そんな雰囲気。

 

カズミ「あのう・・・そちらの方は、どーゆー・・・」

 

と、すずしい顔のまんまのミヤコに囁く。

 

ミヤコ「ん? ああ、たまたま、偶然。隣の人」

 

聞き耳を立てていたマッキーも、なーんだ、そーいうこと、というような感じ。

ああ、すいません、というバツの悪い苦笑いの工藤。

 

気を使って損したわ、みたいなマッキーの横顔。

一方、カズミだけは急に笑顔、輝く。

 

カズミ「がはは! そーなんだあー! がはははは! いやあ、あれですよ、昔から、ほら、よく言うじゃないですかあ、通りすがりも縁のうち、みたいな!

ねっ、ねっ! これも、なにかの、ご縁ですよね!

どちらまでゆかれるんですか? お仕事かなんかですか?」

 

カズミが大声なので、斜め前方に座ってるオムスビが、きっ、とした顔つきで、工藤たちのほうに目を向けた。

なので、工藤とミヤコは気がきじゃない様子。

また、いつ怒鳴られるか、わかりゃしないぞ、これは、みたいな。

が、しかし、カズミは、そんな事情は、まったく知らないわけで、相変わらず明るく元気な大声が続く。

 

カズミ「あっ、ああ、お名前は、お名前聞くの忘れてたわあー、あたしったら、やあねえ、もおー、あ、あたしは、カズミです。で、こっちは、マッキーです。前の職場の仲間なんですけどね!

みんなで失恋ツアーなんですよお、もお、ばばあとぶすどもとでぶがねえ、あっはっはっはっ、もお、いやあねえ、あ、ああ、で、あのお、お名前は?」

 

工藤「あ、あのお、わたくしは、く、く、く・・・・」

 

なにぶん、声を殺してしゃべらなければならない、ので、こんなふうになる。

 

工藤「くっ、くっ、く・・・・」

 

マッキー、カズミは事情がわからないので、だんだん顔が、ひきつってくる。

ミヤコはわかってるので、隣の席で、そら、がんばれ、的なエールを送ってる。

 

工藤「くっ、くっ、くうー・・・・」

 

もう、工藤、真っ赤な顔で、より目になっちゃったりしている。

 

カズミ「ど、どこか、ぐあいが悪いんですか・・・」

 

あたしの目の前で吐かないでよ、みたいな態度に急変するマッキー。

 

工藤「いやいやいやいや、そーいうことではなくて。じじじ、自分の名前は・・・くっ、くっ、くくくくく・・・・くーっ、くっくっくっ・・・くうううううう」

カズミ「あははは! わかったあー! それ、森進一の真似ですか!あははは、ふるー! まだ生きてましたっけ、森進一」

 

すると、工藤、足元においてた空缶に足先がぶつかって、マッキーの足元へ、ころころころころー、と。

あわてて、それを拾う工藤。

そのまま工藤の顔面、マッキーの股間へ。

ずぼーん、と。

 

マッキー「わあー、ちょっと!」

工藤「ありゃりゃりゃ! こりゃ、これですこれです!」と右手に掴んだ空缶を示す。

 

工藤「もう、転がらないように」と空缶を右足で踏み潰し、さらに、それを自分の尻の下へ、で、座ると、尻に潰れた空缶のとがった部分が刺さる。

 

工藤「あっ、てえーーーーー!」と、前につんのめって、マッキーの胸に顔面を深々と埋めてしまう。

マッキー「なんだよー、てめえー!」

 

工藤を突き放し、座ったまま思いっきり右足で蹴り込む。

と、こーして、マッキー怒って、後ろの座席へ行ってしまう。

 

マッキー「ちかん!ヘンタイ!」

工藤「いや! あっ、あああーー!」

 

オムスビ「うるさいうるさいうるさい、うるさーい! 

なんなんだよ、おまえら!

うっせえんだよお!

うるさくて、ぜんぜん集中できないじゃないかよ、もう!

しずかにしろおー!」

 

もう、満を持して立ち上がって怒鳴るオムスビ。

工藤、直立不動。

 

工藤「あ、あ、す、すいません」

 

ゆっくりと席につく。

そのとき、おれは、なんで左手にテッシュを握ってんだろうか、と。

まあ、いいや、と、そのティッシュで自分の額のあたりの冷や汗を拭ったりする。

車内販売員、カートを押しながら、やってくる。

 

販売員「横浜名物~、お家系ヨコハマとこつラーメンまんじゅう、お家系ヨコハマとんこつラーメンまんじゅうは、いかがでしょうか~」

 

カズミ「あっ、すいません! それ、それ、ください! 

あ、あと、うーん、と、薄塩なのになぜかしょっぱいエビセン。

あと、ネオゼネシス元祖エヴァンゲリヲンえだまめ。

うーん、と、あ、あと、あと、ビール4本とタマゲタ缶チューハイ4本ください!

ほらほらほらほら! 旅行なのよ、りょこーよ!ぱーっ、と、いきましょうよ、ねっねっねっ!たのしー、りょこーの、はじまりなのよおー、ねねね、乾杯しましょうよ、乾杯。

ほらほら、マッキーも、こっち戻ってきなさいよ、もう、さささ、みんなでね、乾杯、乾杯、おっほっほっほっー!」

 

が、マッキー、動かず。

ふてくされた顔のまま、スマホいじってる。

ミヤコは、いつの間にか、うとうと居眠り。

 

カズミ「あ、あっ、で、で、あたしはカズミでーす。どうぞ、そこんとこ、どーぞ、よろしくお願いしますね。

で、あたしたちは、前の職場で一緒だったんですよお。とくよう、で。あ、特別養護施設。老人ホームです。そこで介護とか介助とか、リハビリとか、そういう仕事。まえは、みんな東京だったんですけど、いま、あたしとマッキーは神奈川の施設に異動になって。

あ、それで、お名前は?」

 

工藤「く・・・工藤、です。はい」

 

隣のミヤコは、もう、すっかり居眠り中。

 

カズミ「お仕事は、どんな?」

 

工藤「いやあ・・・麻婆豆腐屋を、やってたんですよ。仲間たちと一緒に」

カズミ「マーボーどうふ・・・あ、らーめん屋さん! あー、美味しいですよね、らーめん!」

 

工藤「あ、いや、麻婆豆腐だけのお店で。なんでか、っていうと。らーめん屋さん、って、すごく多いじゃないですか。だから、まあ、差別化ということで、うちは、麻婆豆腐だけの店でやろう、って。

いや、絶対、自信あったんすよ。でも、やっぱり、それじゃ、うまく行かなくて。つぶれちゃいました。はい」

 

カズミ「ああ・・・やっぱり」

 

工藤「いやあ・・・はあ・・・。たいへんですよ、もう・・・仲間同士、ケンカなっちゃっうわ。借金山盛りだし。

ニょーボーは小倉の実家に帰っちゃうし。ニょーボーの実家からも借金しちゃってるし。で、これから、小倉、いくんですよ。いろいろ話し合いしなきゃいけないから」

 

カズミ「ああ、そーいうことなんですかあ・・・。自営業って、みんな大変ですよね。うちも、おとうさんが、ずっと自営でやってたんですけど、だめになっちゃいました。おとうさん、行方不明になっちゃって。残ったあたしとおかあさんとで、マンション売って借金返したりして、大変でした」

 

工藤「うわあ・・・身につまされる話だなあ。おれも、このまんま、消えてなくなりたい・・・」

 

カズミ「まあまあ、暗くなったって、しょうがないですから。誰だって転ぶことはあるんです。いちいち、落ち込んではいられませんよ。ほら、人生、八転び七起き、って言うじゃないですか! 八回転んでも、七回立ち直れば、いいんですよ!」

 

工藤「えっ?あ、あれ?一回、足らなくないっすか? たおれっぱなし?」

 

カズミ「まあ、なんでも、いいじゃないですかあ! 

さあ、元気だして! 元気がなければ、なんにもできない! 

アンモニア猪木さんも、そう言ってるじゃないですかー! 

みなさーん、ゆううつですかあーっ! 元気がなければ、なんにもできない、って。

あ、死にました、っけ?」

 

工藤「いや、まだ生きてると思います」

 

カズミ「あっはっはっはっ! まあまあ、さあ、元気元気!」

 

オムスビ「いい加減にしろよお、おい! だーら、うっせーんだよ! 

そこの、でぶ!」

 

ミヤコ「でぶ!」

 

この一言で目覚めるミヤコ。

 

マッキー「あっ!」

ミヤコ「あー!」

マッキー「やばい、やばい、泣いちゃうから、泣いちゃうから」

 

オムスビ「でぶ!」

 

カズミ「エーーーーーン!」

 

マッキー「ああ!泣いた!」

ミヤコ「やっぱり!」

 

カズミ「エーーーーーーーーーーーーーーーん!」

 

マッキー「あんた、責任取りなさいよ!」

 

と、マッキー、なぜか工藤を指差す。

 

工藤「えっ、お、おれ?」

 

マッキー「女の子、泣かせちゃったのよ! きちんと責任取りなさいよ!あんた、それでも男なの!」

 

工藤「えっ!」

オムスビ「女の子?」

 

ミヤコ「でぶぢゃない。ぽっちゃりだって、言ってあげてください」

 

工藤「えっ!」

 

ミヤコ「きみは、でぶなんかじゃない。ぽっちゃりだ、って。そう言ってあげてください」

 

工藤「あ、いやあー・・・・しかし・・・」

 

ミヤコ「言ってあげてください!」

 

工藤「ええええ・・・あ、あのう。ぎり、ぽっちゃりですから」

 

カズミ「ひっくひっく・・・えーーーーーん!」

 

マッキー「あんた、ばかあ!」

 

ミヤコ「ぽっちゃりで、かわいいよ、って」

 

工藤「えっ!」

 

ミヤコ「ぽっちゃりしてて、かわいいよ、おまえ。あいしてるよ、って」

 

工藤「えっ!」

 

マッキー「言え!」

 

オムスビ「すぐ言え! もう、すぐ!」

 

工藤「えっ!」

 

カズミ「びええええええええーーーーーーん! あうあうあうあうーーーーー!」

 

工藤「だいじょうぶ! かわいい! もう、ぽっちゃり、かわいい!」

 

カズミ「ほんとうですかあーー!」

 

速い立ち直り。もう、すっかり、笑顔満面。

 

カズミ「おーっ、ほっほっほっほっ! 乾杯しましょ! 乾杯! 

あ、あ、そちらの、オムスビさんも、ご一緒に、いかがですか?」

 

オムスビ「だれがオムスビやん!」

 

マッキー「あのさあ。さっきから、ずーっと気になってんだけどさ。おにぎり、でしょ? オムスビ、って、言う?」

カズミ「あら? そうよねえ。おにぎり、ですよ。おにぎり。なんでオムスビかしら?」

オムスビ「おまえら、いったい、なんの話しをしてるんだ」

 

工藤「あやー・・・言いません? オムスビって? では、こちら、お集まりのお客様方たちに、お聞きしてみましょう」

 

と、工藤、客席に出て行って、観客に聞いてみる。

工藤、ハンディのマイクを受け取り、観客席へ。

 

やっぱり具は、明太マヨですか、とか。

ノリは、しめってる派ですか、ぱりぱり派ですか、とか。

という、そんなパフォーマンス、入れる。

 

※舞台の芝居と、テレビは異なります。

舞台ならではの立体感、観客との相互間を出したい。

観客のリアクションに合わせて、落ち着いたら工藤が舞台に向かって言う。

当然、映像化のほうに、これは入りません。

 

工藤「ということで、俵さーん、スタヂオにお返ししまーす」

 

カズミ「あのおー、このサキイカ、あけちゃって、いいですか?」

 

工藤、舞台に戻って、自分の座席に着席。

ストーリーに戻りましょう。

 

工藤「いやあ、それが、どうしても開かないんですよ」

 

カズミ「うーん! うーーーーん!」

 

まま、そーして、ほどよく、隊長と中年駅員、通路にやってくる。

マッキーは後ろの座席で不機嫌なまま、脚組んで窓の外を見てて。

カズミは工藤に話しかけてる雰囲気。

ミヤコは、なにやら、にやけ顔で、ぼーっ、と宙空を見てる。

オムスビは必死こいてPCに向かい中。

 

花岡「えっえええっー! それは、ほんとうですかあ!」

隊長「大きな声を出すな! まわりに聞こえるだろう? これは極秘情報なんだ!」

花岡「ああああ、あうあう・・・すすすす、すいません」

隊長「ふっふっふ・・・ああ、そうともさ。ほんとだともさあ。昨夜だよ昨夜。じっちゃんが、おれの枕元に立ったんだ」

花岡「えっええええっー! あの伝説の、銭形ヘイジの斜め前の長屋に住んでいたという由緒正しき先代の名を受け継ぎ、過激派数十名が完全武装しながら目の前を通りすぎても、まったく気づかなかったという、あの有名な鉄道公安・ガニマタゆくぞお様が!」

 

隊長「そうともさあ。あの伝説の、鉄道公安ガニマタゆくぞうが、孫のおれのガニマタくるぞお様の夢枕に立ったのさ。

ふっふっふっ。で、お告げがあった!」

 

花岡「そそそそ、それは、なんと!?」

 

隊長「10月10日10時東京発のぞみ10号に、いまだかつて見たことのない凶悪犯が乗車する、と」

 

この瞬間、乗客全員、なんとなく、この2人の存在に気づき、彼らの会話を盗み聞きし始める。

ただし、ミヤコだけは、宙空をぼんやり見詰めたまま。

 

花岡「そそそそ、それでそれで、そいつは、いったい、どんなにか恐ろしい凶悪な悪事をしたのでしょうか!?」

 

隊長「過去の日本犯罪史上、かつてない! こんな大犯罪は、ない!

それは、それは、それは・・・もう、あーんなことや、こーんなことや、そーんなことまでもが、もう、くちにすることすらも、おぞましい!」

 

花岡「あうあうあうあああーーーー・・・」

 

隊長「まさに今日、おれは、そんな極悪人を、逮捕する!」

 

花岡「ででで、おおおおお告げによりますと、そそそそいつは、どんな風貌のやつですか!」

隊長「うむ! お告げによると!」

花岡「お告げによると!?」

隊長「それは、もう、誰が見ても凶悪犯だとわかる風貌、とのことだ。即、逮捕だ!」

花岡「そそそそ、そーなると、テレビの取材なんかも来ますかね!」

 

隊長「そりゃあ、来るだろう。なんといっても、かつてない、大手柄だからな」

花岡「今夜のニュースで放送されますかね?」

隊長「そりゃあ、放送するだろ。1番をつけても2番をつけても3番をつけても、テレビはもう、みんなみんな、ぜーんぶ、大画面だあ」

花岡「ドキュメンタリーのドラマとか、映画にも、なりますかね?」

隊長「そりゃあ、なるだろ」

花岡「自分なんかも、インタビューされますかね?」

 

隊長「え?」

 

花岡「わたくしは、有名人になることが、子どもの頃からの夢でした。ダンスも、やりました。ハードロックの歌手を目指したこともありました。みんなに注目される、あこがれの有名人です。そんな、わたくしの長年の夢が、ついに・・・だから、ずっと、練習してきたのです。見てください! どうですか、これ!」

 

と、片手に持っていた色紙を公安に見せる。

 

隊長「これは?」

 

花岡「サインです。練習してたんです。どうです、ちょっとしたもんでしょう」

 

そこには、はなおかじった、と書かれている。

 

隊長「はなを・・・かじった?」

花岡「ちがいます!はなおか・じった、です!」

隊長「はなおか・・・じった」

花岡「ちがいますよ! 隊長、発音わるいっすねえ、花岡実太です!」

隊長「だから、はなおかじった、でしょ?」

花岡「ぜんぜん違いますよ! もう、やんなっちゃうなあ!

さあ、いきますよ」

隊長「えっ? くいんとりっくす、みたいな。わかるかなあ、わかんねえだろうなあ」

 

と、にやりと観客にあやしく笑いかけ、駅員を追うように舞台を去る。

と、いうことで、2人、引き下がる。

 

カズミ「ねっ、ねっ、ねっ、聞いた聞いた?いまの聞いた?

ねえ、ミヤコ! 凶悪犯ですってよ、凶悪犯!」

ミヤコ「えっ? なにがー?」

カズミ「すぐ、ここ! ここで、いま、話してたじゃないの!」

ミヤコ「だれがー? なにー? わかんないー」

 

カズミ「もう! だから!」

工藤「まあまあ」

 

ここでオムスビ、激怒、立ち上がって怒鳴る。

 

オムスビ「だから! しずかにしろ、って、言ってんだよお! この、でぶ!」

 

ここで、すかさず、工藤、立ち上がって謝罪。

工藤「あ、ああー! すいません! すいません! そこまで!

そこまで!」

まあまあ、まあまあ、という感じで、オムスビをなだめる工藤。

オムスビも、なんとか、こらえて。

2人、それぞれに、ゆっくりと着席。

カズミ「いま・・・でぶ、って、言いました?」

 

工藤「言ってない! 言ってない! だいじょうぶ! だいじょうぶ!」

カズミ「ううう・・・ひっく、ひっく・・・ううう・・・」

工藤「ちがうちがうちがう!落ち着いて、落ち着いて! あっ、ひょっとして・・・・あいつが凶悪犯かも知れない!」

 

と、オムスビを指差す工藤。

 

ミヤコ「それは違うと思うな」

工藤「えっ・・・。ままま、乾杯しますか、乾杯」

 

アナウンス「この電車は、間もなく京都に到着いたします。

This train soon will be arrive at the Kyouto.」

 

ミヤコ「あれ? 名古屋は? 名古屋はなしですか?」

工藤「はい。この本の作者が、名古屋は味噌カツしかないから飛ばす、って。トヨタがスポンサーにでもならない限り飛ばし続ける、って。ずいぶん、たかびーなことを、ぬかしています。タモリじゃあるまいし。究極の貧乏人ってのは、おそろしいですね。中途半端なカネなら、いっそ、いらないから、って。あのひとの人生、ゼロか100しかないんで」

カズミ「なるほど、ですね。で、劇中は、いま京都に着きましたね」

工藤「はい」

 

で、着物姿の老夫婦、乗車。

着物ジィは、仏頂面。しかめつら。

着物バアは、ニコニコ。

愛想よい、ひとなつこい、そんな感じ。

ここにホッピー若狭も、入る。

大柄な、いかつい男。

でっかいバック持って。

もう、殺気が、みなぎってる。

着物ジイは工藤たちの斜め後ろ、窓際にジイ、通路側にバア。

大男は、この老夫婦の後ろの座席。

 

大男こと、ホッピー若狭は、がにまたで、どかっ、と座り、両腕を組んで中空を睨んでる。

若狭の、ただならぬ殺気に、みんな、なんとなく緊張。

が、しかし、ミヤコだけは奇妙な表情。

あと、着物ジイは平然としている。

実は着物ジイは剣道の達人だから、そんもの動じないわけです。

 

若い駅員「す、すいません・・・あああああああ、あのお、じょじょ、乗車券を、拝見しますぅ」

もう、緊張しまくった、蚊トンボのやふな、若い駅員再登場。

ホッピー若狭の横に立つ。

もう、びびりまくりの駅員。

完全シカトの若狭。

 

若い駅員「あのお・・・じょ、乗車券を・・・そのお・・・」

 

若狭「なんだとお、こらあ。乗車券だとおー! 持っとるわー、そんなもん!」

若い駅員「ああ、すす、すいませーん」

びびっちゃって、乗車券を確認できず、若い駅員、そのまま隣の老夫婦のところへ。

 

着物バア「お仕事、大変ですね」

と、乗車券を提示。

若い駅員「はあ、ありがとうございますう」

と、パチン、パチンと印をつける若い駅員。

カズミ「なんだか、やねえ」

と、工藤に囁く。

が、工藤はオムスビのほうを睨んでる。

 

カズミ「ああ、そのサキイカ。気になっちゃって、気になっちゃって。なんで、あかないかな?」

と、カズミ、サキイカ開封に再挑戦。

 

カズミ「これ、なんで、あかないかなあ。ねえ、誰か、ハサミ持ってない?」

ミヤコ「あたし、持ってない」

カズミ「ねえ、マッキー、ハサミ持ってない?」

マッキー「持ってない」

着物バア「あ、ハサミなら、わたし、持っていますよ」

 

すると着物ジイ、突然、怒鳴る。

 

着物ジイ「まったく! けしからん! いまの若い女たちは、裁縫道具も持ち歩かんとは! 一時が万事。身だしなみ、生活習慣の乱れ。そんなところから、日本の大切な伝統のひとつひとつが、失われてゆくんだ」

着物バア「また、はじまった」

着物ジイ「日本人の美徳、道徳観、美しさ。まるで、わかっていない!」

若狭「そのとおりや! さっきから、むしずが走る! なんだい、あのオンナ! くっせえんだよ、その香水! あんな短けースカートはいてやがって! 尻軽のくされオンナが!」

 

工藤、いきなり立ち上がってオムスビを指差して怒鳴る。

 

工藤「おい! そこの! おまえだよ、おまえ! オムスビみたいな顔しやがって!

なんで、こんなに騒がしいのに、おまえ、文句言わないんだよ、えっ!

おれたちみたいななあ、オンナたちとか、よわそうなやつにしか文句言えないのかよ!

こーゆーなあ、強そうな人には文句言えないのかよ! そんなだったらなあ、最初から文句なんか言うなよ! この、オムスビ!」

 

工藤、猛然と右手に握ったサキイカの袋を振り回すかのようにして怒ってる。

 

マッキー「ざけんじゃねえーよ!」

 

マッキー、立ち上がって、ゆっくり通路へ。

そしてホッピーの横に仁王立ち。

 

マッキー「おい!誰が尻軽だってんだよ!

こちとら5年前にカレシにフラレてからなあ、なーんもない人生なんだよおー!

老人ホームで毎日毎日毎日毎日、働いててなあ!

ジイさんしか寄り付きゃしないんだよお!

もう、毎日毎日毎日毎日、ジイさんとバアさんのオムツ換えてんだよ!

だから、アタシは、カレシから、おまえは年寄りくさい、ってなあ、フラレちまったんだよお!

そんなアタシは、香水もつけちゃいけねえのかよ!」

 

若狭「・・・・・。」

 

座席に着いたまま、呆然とした表情でマッキーを見詰めている。

若狭、ゆっくりと立ち上がる。

そして、マッキーの顔を間近に睨みつける。

思わず、オムスビも立ち上がった。

そうそう、ここで、ためを作るんだぞ。

うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・・みたいな。

ミエを切ったりして。

で、突然、若狭、その場でマッキーに土下座して叫ぶ。

 

若狭「こら、えろう、すんません! これは、もう、申し訳ございませんでした! なんも知らんと、勝手なことを! ほんまに、ほんまに、すんません!」

 

若狭、わなわな震えながら、ゆっくり立ち上がる。

 

若狭「くっ・・・くそったれが・・・あんなもん、ハサミなんかなくても、あけたりますわー!」

そうして若狭、呆然と立ち尽くす工藤の右手に握っていたサキイカの袋を掴む。

 

若狭「貸してみい!」

 

と、若狭、思い切り、サキイカの袋を両手で引きちぎる、はずだった。

が、しかし、なんとしても、サキイカの袋は、やぶれない。

切れない。開かない。

 

若狭「な、なんやこれ! そそそそ、そんな、あほな! うぬぬぬぬぬぬーーーー!そんな、あほな!ベンチで250キロあげちょる、わしのチカラが! あほ、ぬかせいや! うおおおおおおおおおおおおーーーーー!」

 

通路のど真ん中で、ガニマタで、両手にチカラをこめて、思いっきり袋を左右に引っ張ってる若狭。

そして、ついに、若狭、ぶりぶりぶりーーーーーーーーっと、屁たれる。

 

全員「うわあーーーーー!」

 

マッキー「なに食ってんだあ! おめえー!」

オムスビ「目があ、目が、痛い!」

着物ジイ「息が、息が・・・できん・・・」

着物バア「おとうさん! おとうさん! しっかり!」

着物ジイ「はあはあ、窓が・・・窓が、あかない・・・」

工藤「いや、新幹線は、あかないから」

若狭「われながら、こらあ、あかん・・・いや、精つけな、あかん思うて、にんにく増し増し増しのてんこ盛り肉肉ホルモンらーめん食うてきたさかい・・・」

 

と、若狭自身も、立ちくらみ。

そこにカートを押した販売のおねえさん、入ってくる。

 

販売員「京都名物、なら漬け、な、な、おならづけ・・・・あ、ああああ・・・」

と、販売員のおねえさん、毒ガスで、よたよたと倒れこむ。

工藤、駆け寄り、抱き起こす。

 

工藤「しっかりしろ!」

オムスビはハンカチで口元を抑えながら、向こうのほうから叫ぶ。

オムスビ「気を、気をたしかにもつんだ!」

 

若狭「ええい! みんな、しっかりせい! 人の屁で、人は死なん!だいじょうぶやん、屁で人は死なん!」

ミヤコ「いやあ、これは、わかんないですよお」

若狭「しっかりせい! 問題は、これや! こいつを、あけなあかんのや! そうや、これは、これは、わしの人生、そのものなんや!」

工藤「ど、どういうこと?」

若狭「わしはなあ・・・今日、命懸けでのお、この電車に乗ってまんのや」

全員「えっ!?」

若狭「どういうわけなのか、このサキイカの袋が開かせんと、なんや、自分、ダメなりそうな、そんな気が・・・」

なぜか、うるうるしてる若狭。

 

工藤「あっ! おお、おれ、ライター、持ってます! ライター、これだ! これで燃やそう!」

若狭「そりゃあ、いい! 今のわしの気分にぴったりや! わしは大阪なんやけどな、京都、いってきたんや! 清水寺、いってきたんや! 命懸けでな、今夜、飛びたつ気分や! 燃えて、燃えて、燃えて、イノチ燃やして、人生の晴れ舞台、飛びたったるわ!」

若狭、片手に握る百円ライター。

オムスビ「あっ、待て! 大阪府は今朝未明、ビニール袋不燃日を発表。不燃日は毎月第二月曜日と水曜日。ダイオキシン発生抑制のため、世界的環境保護団体イエロー・ピースと大阪主婦連合会が国際契約締結!」

工藤「な、なにい?」

オムスビ「いま、そこ、テロップで!」

若狭「い、いま、ここ、どこなんだ、大阪に入ったのか!」

カズミ「わかりません! 田んぼ、ばっかりです!」

ミヤコ「ここはどこ! あたしは誰?」

 

若狭「ええい! くそっー!」

と、若狭、手にしてた百円ライターを床に叩きつける。

 

着物ジイ「この大バカモノどもめがあーーーー!

物事の本質を、大きく逸脱しまくっている!

問題は、ハサミじゃ! ハサミなんじゃよおーーーー!」

 

若い駅員「すすす、すんません。じょ、じょ、乗車券を拝見させて頂きますう」

と、びびりまくって若い駅員登場。

 

若狭「おお!あいつや、あいつがハサミを持っている!」

と、若狭、ショッピング・カートを押しのけ、猛然と若い駅員に襲いかかる。

 

販売員の女「あれええええーーー」と、気を取り戻して立ち上がりかけてたところを、突き飛ばされて、工藤と共に再び床へ倒れ込む。

カートに並べられていた商品が、ばあっ、と床に散乱。

が、若狭、そのまま、その先にいる若い駅員へ向かって突進。

 

若狭「か、貸せ!」

 

と、若い駅員が手に持つそれを奪い取り、サキイカの袋をはさむ。

 

若狭「あ、あれ?」

 

何度も何度も、パチンパチンとやっちゃみるが、そこには赤い印がつくばかり。

 

マッキー「それ、スタンプ!」

 

若狭「くくくっ、くっそおーーー!」

 

と、若狭、赤いスタンプたくさん付いてるサキイカの袋を齧る。

齧って、やぶってしまおう、という必死の形相。

が、しかし、サキイカの袋は、やぶれない。

 

若狭「ぶわあー!」

若狭の口元、スタンプの色がついて、真っ赤っ赤。

 

全員「うわあ!」

 

と、その若狭の形相に、ドン引き。

 

若狭「おんどれー! ハサミもっとらんのかあー、こらあ!」

 

と、若い駅員を追いかける。

若い駅員、必死こいて逃げる。

こーして、2人、舞台から去る。

工藤と販売員、よろめきながら立ち上がる。

 

販売員「あ、だ、だいじょうぶ」

通路に散乱した商品を工藤も拾い集め、彼女を手伝う。

そうして着物バアも、そしてマッキー、カズミ、ミヤコも、拾い集めはじめる。

 

販売員「あ、ありがとうございます」

カズミ「あ、あのお・・・さっきから気になってたんですけどお」

販売員「はい?」

カズミ「いい、お声、していますねえ。アナウンサーみたい。ほんと、いい声」

 

販売員「えっ、わかりますう! あたし、タテヨコ大学のアナウンス部なんです。いつか大きな会場で、イベントなんかの大観衆のなかで、アナウンサーやりたい、って、そう思ってはいるんですけど。競争激しいんですよ、この業界。あたしなんかじゃ。それでも、あたし、この販売員のバイト、大好きなんです。

だって、みんな、ニコニコ笑顔なんですよ。

まあ、なかには、そうでないお客様もいらっしゃいますけど。でも、それでも、あたしの声で笑顔になってくれたりして。すごいスピードで走ってる新幹線のなかで、窓の景色が、どんどん移り変わってゆくなかで、わたしが、みなさんを笑顔に導く、まさしく旅先案内人なんです」

 

マッキー「タテヨコ大学?あたし、タテヨコ大学社会福祉学部卒」

 

販売員「えっ! 先輩ですか! せんぱーい! あたしカレシいないんですうー! あたし年上が好きなんですけど、誰か紹介してくださいー!」

 

マッキー「いきなり? なんじゃ、それ? まあ・・・すっごい年上の男たちは、いっぱい知ってるよ。職場にごろごろしてる。文字通り、いちにち中、ごろごろしてるから」

 

販売員「うわーっ、いいなあー!」

マッキー「よくないわ!」

 

で、ここに隊長がインカム片手にデブ駅員と共になだれ込んでくる。

隊長、インカムに向かって叫ぶ。

 

隊長「重大犯罪容疑の男、現在、9号車両に向かって逃走中! 新大阪駅にて応援要請! 繰り返す、新大阪駅にて応援を要請!」

デブ駅員「ま、まさに、これは、正夢!」

隊長「さあ、いくぞ! はなおかじった君!」

デブ駅員「だから、ちがいます! わたしの名前は、はなおかじった、です!」

隊長「ああ、もう、いい! かじったくん、いくぞ!」

デブ駅員「あ!ぜんぜん、違うから、それ!」

 

と、2人、追いかけて行く、ということで舞台を去る。

 

工藤「あの男が、凶悪犯だったのか・・・」

オムスビ「おれは、そーだと思ってたんだ」

ミヤコ「ちがう! あのひとは、そんなことするひとじゃない!」

工藤・オムスビ「えっ!」

工藤「あの顔、ですよ」

 

ミヤコ「そうですよ、あんなにキリッとりりしい男らしいお顔のひとが、そんな悪いことなんて、ぜったい、できませんから!」

 

工藤「えっ!」

オムスビ「あんな原始のゴリラーマン」

 

ミヤコ、ぷい、っと、なぜか、怒りだして足早に。

 

ミヤコ「ちょっとタバコすってきます」

 

と、車両から立ち去る。

 

工藤「ミヤコさん・・・」

オムスビ「趣味、わりー・・・」

カズミ「そう。ミヤコ、昔っから」

マッキー「趣味わるいのよねえ。このまえも」

カズミ「フランケンシュタインみたいのと」

マッキー「しかも、全員、妻子もち」

工藤・オムスビ「えっ!」

カズミ「あたしが知ってるだけでも、三人」

マッキー「あ、あたし、五人、しってる」

工藤・オムスビ「えっ!」

カズミ「恋多き女なのよ」

マッキー「ねえ・・・」

着物バア「ああ、うちとおんなじ」

着物ジイ「こらっ! よけいなこと言うんじゃない!」

着物バア「あたしも、この人と。不倫の末に駆け落ちして。で、娘も、そうなの」

全員「えっ!」

着物バア「うちの娘も、もう、どろぬま、修羅場で、よーやく離婚成立。それなのに、うれしげに、結婚式やるんですって。で、これから2人して娘の結婚式に。博多にね、ゆくのです」

 

販売員「はあ・・・恋のどらまちっくトレイン」

 

工藤「はあ?」

 

そにへ、ミヤコ戻ってきた。

 

ミヤコ「すいません。どなたかライター、貸してくれませんかね?ん? あたしの顔、なんかついてますかね?」

工藤「あっ、さっき、おれのライター」

オムスビ「あれ? どこだろ?」

カズミ「あ、ありましたよ・・・ん?

のーぱん焼肉・ぱいのぱいのぱい?」

 

その百円ライターには、そう書いてある。

 

ミヤコ「のーぱん焼肉?」

オムスビ「今度は焼肉なのか・・・しゃぶしゃぶ、じゃなくて」

マッキー「・・・やっぱり。へんたいなんだ」

工藤「あ、いや!ちがう、これは、ちがう! いやあ、ちがうちがう、ちがうんですよ、ミヤコさん!

これはですね、あの、近所のサンちゃんがですね、あ、あの、サンちゃんは、コスゲの友達なんすけど、そのサンちゃんがですね、あんまり、おれが元気ないからって、あ、あの、み、店、つぶれちゃったから、だから、あんまり元気ないもんだからね、ほら、あの、元気づけてあげるからって、そう言って。ああ、それに、このお店は、新しくできたってのに、もう、行列ができるお店でして。もう、日曜日なんかは、もう、家族連れなんかが、こう、ずらーっ、と!」

 

マッキー「家族でゆくのか!」

オムスビ「うそをつけー! おまえってやつは、どこまで自分にウソをつけば気がすむんだあー!」

 

工藤「あっ! ちちちち、ちがうちがう! それは隣のお店でしたあー! そそそ、そのね、ととと、隣の行列ができるお店のお、その、隣の隣の、もうひとつ隣の角を曲がった路地の奥っちょに、ですね。おまえも、商売の参考にもなるし、ここは、ひとつ、勉強のため、ということもあるんだからな、と、サンちゃんが・・・」

 

オムスビ「で、いったんだろ」

工藤「えっ・・・ちょ、ちょっと・・・」

オムスビ「どんなサービスの焼肉屋なんだ、そこは?」

 

カズミ「のーぱん・・・焼肉?」

マッキー「やらしー・・・」

 

オムスビ「だから、だから、どんな内容のサービスなんだ!

なんで、のーぱんで焼肉なんだあ!」

 

ミヤコ「楽しかったですか?」

 

工藤「いやいやいやいやいやいやいやいや、ぼくは、あんな、あーんなものは・・・」

マッキー「たのしかったんだな」

ミヤコ「きもちよかったんですか」

工藤「いやいやいやいやいやいや、ぼくは、やだって言ったんですよお、あんなこと!」

オムスビ「だから、いったい、なにをしたんだー! やきにくでえー!」

 

アナウンス「この電車は間もなく新大阪に停車いたします。This train soon will be arrive at the Shin-Oosaka station.」

 

カズミ「あー! ちょっと、ちょっと、見て見て! パトカーが並んでるわよ!」

マッキー「逮捕されたんだ」

オムスビ「おい! だから、いったい、どんなことしたんだ! 焼肉屋で!」

着物バア「ねえ、そんな、悪いことするような人には見えなかったけどねえ」

マッキー「はあ?」

ミヤコ「そうですよね!」

オムスビ「気になるじゃないか! いったい、なにをしたんだ!」

カズミ「ですよねえ。どんな・・・」

着物ジイ「するどい殺気がみなぎっていた。あれは尋常ではない」

オムスビ「だから、そーじゃなくて!」

 

アナウンス「新大阪、新大阪に到着いたしました。

Arrived at Shin-Oosaka」

 

工藤「あっ! あの人、捕まった。連行されてる」

カズミ「あ、忘れ物、忘れ物よおー、バック、バック、これ!」

ミヤコ「さようならー」

 

と、ここに、また何人かの乗客が登場。

外国人ふうな女が4~10人は、欲しいかな?

ダンサーです。

で、こいつらをマネジメントしてるスーツ姿のおっさん1人。

なんだか、ワイワイ、がやがやと入ってくる。

 

コンサル「ああ、みんな、静かにしなさいよー。まいったなあ、もう、観光気分なんだもんなあ。あ、どうも、すいません、静かにさせますから」

 

マッキー「あんたは、なんか勉強してんでしょ? 向こうで勉強してなさいよ」

 

オムスビ「勉強ではない! 仕事なんだ! 福岡のクライアントのプレゼン資料が、まったく出来上がってないんだー! しかも、それは、あと数時間後に、おれがやらなきゃいけないことなんだよおーーー!」

 

ミヤコ「もっと早くやっておけばよかったんじゃないんですか?」

 

オムスビ「おれだってなあ、毎日毎日忙しいんだ! クライアントの接待だってあるし、毎晩毎晩もう、大変なんだ! くそお、寝坊しちまったんだ今日」

 

マッキー「飛行機でいけばよかったじゃん。新幹線より速いんじゃない?」

 

オムスビ「このJR海南も、うちの大切なクライアントのひとつなんだ! 国内の航空会社とは犬猿の間柄なんだぞ、そんな、このおれが飛行機なんかに乗っちまったことが、もしもバレたら、大変なことになってしまうんだあーー!」

 

カズミ「まあ、とにかく、仕事しててください」

 

オムスビ「だから、気になるじゃないか! いったい、なにが起こったんだよおー、焼肉屋で! こんな状態では、とてもセールス・プロモーションの企画書なんて、できゃしないよお!」

コンサル「ん? 失礼、なんのSPですか?」

オムスビ「ん? ま、まあ・・・あんたにゃ、関係ないよ」

 

コンサル「ふーん・・・東京から新幹線に乗ってる広告屋さんかあ。どうせ、どっかの過疎の地方なんかの観光誘致とか、町おこしとか、地方納税だとか、そんなやつでしょ?」

 

オムスビ「えっ?」

 

コンサル「B to Cのビジネスは、うまくいっていない。リテールを理解できていないから。だから、いまも不況なんだって。でも自治体は、もっともっともっと理解していない。それが現状だね・・・ひょっとして通電さんですか? やめときなさいよ。地域名産のランディング・ページなんか作っちゃって、ヤプーに丸投げ5千万なんてビジネスはね。ありゃ、詐欺だわ」

 

オムスビ「えっ!? あ、あなたは、いったい?」

コンサル「あたし、フリーですよ。コンサルタント。はい、どうぞ」

と、スーツ、名刺を渡す。

 

オムスビ「コンサル!」

 

コンサル「いやいやいやいや、おはずかしい話ですけど、お客様のため、ユーザのために、やっています。あたしのは、安いから。500万くらいで、やっちゃうから。おかげさまでね、ひっぱりだこですわ。そちらとはゼロいっこ違うから。あっはっはっ」

 

オムスビ「いっ、いったい、なにをやるんですか!」

 

コンサル「そうなんだよねえ。公共事業は、民間企業に競争力で劣るんだよね。民営化とは言っても結局、なんにも変わらない郵便局、だから、みんな便利な宅急便会社を使ってる。銀行とか国金がカネ貸してくれないから、みんなサラ金とかクレジット会社使う。学校が役立たずだから塾にゆく。国保じゃ安心できないからガン保険に入る、みたいな。就職、転職ならハローワークなんて使わないで、みんなソラナビを使ってるでしょ?

そらきた転職サイト、ソラナビ。

将来、日本の社会から区役所がなくなりますよ。区役所だけじゃない。銀行もなくなる。郵便局もハローワークも、学校も託児所も、本屋もなくなってね、手数料取ってそれらの受付やら代行サービス、あるいは業務そのものを全部、24時間営業のコンビニがやるようになる。

単純作業は、すべてAIがやる時代がくる、なんてホーキングは予言したけど、AIを導入する資金が、日本企業にはない。

結局、AIはチェスと将棋に勝っただけで、弁当にエビを乗っけたり、ベルトコンベアーから流れてくる仕分けだったり、居酒屋やカラオケでジュースやビールを注いだり、そんな極めて単純な作業ですら、人がやっている。

恋愛関係に絶望してしまった人たちの間でAIロボットと結婚する人は増えるけれど、単純労働は永久に人の手に委ねられる。

みんな子どもつくらない、つくれない環境なんだから当然、日本人は激減する。

つまり外国人を大勢いれなきゃ国としての経済活動を死守できない。なので、外国人だらけの国になる。オフィスも居酒屋もコンビニも、外国人労働者たちであふれかえる。そんな社会の到来を見据えて、民間企業も公共事業も、今やらなければならないことを、やらなければならない。それをやっとかないと、近い将来、消滅するだけよ」

オムスビ「そそそ、それで、ど、どんな、プロモーションが必要なのですか?! あなたは、どんなことを、やられていらっしゃるんですか、ぐ、具体的には?」

コンサル「あたしがやることはカンタンなことしかできませんよ。

Webとアナログの融合と。それをツイッターなんかであおってね。ロングテールの線上にある小さなマーケットのみがターゲット。つまりオタクのグループのみ。ニッチな市場に魅力あるテーマを提供すること。

ディープに、ダイレクトに、強烈なインパクトを!

登山マニア、釣りマニア、競馬マニア、マンガ・オタク、ロリコンおじさんたち、とかね。どストライクですよ。こっちが投げた球は、確実にカキーンと跳ね返ってくるからね」

 

オムスビ「で! で、ぐ、具体的に、どどど、どんな! あっ、か、書いて、いいですか? 書いても?」

 

コンサル「うん。いーですよ。書いて書いて」

と、オムスビ、猛然とパソコンに向かって打ち込む。

 

コンサル「WebとかITとかインターネットなんて言ったところでね、使ってんのは所詮、人間なんですよ。

人間の原始の欲求は、そんなもので満たされることは決してないわけです。

言葉のない時代から、人間たちは集まり、火をともし、踊っていたのです。

わたしたちはマニアな小集団のなかに火を灯すのです。

そう、実にカンタンなイベントです。

お祭りです。でも、せっかく全国からラーメンマニアを集めても、イベントのまわりがスパゲティ屋しかないようじゃ、どーしよーもないでしょ?

つまり、そーいうイベントってのはね、駅から会場までの導線から、そう、まさしく町全体に渡っての大規模かつ大胆な企画が必要なんですよ。それも一回こっきりの企画じゃだめ、新しい続編を作り続けること。継続することで初めて町は再生のチカラを得られるから。そうしないと絶対に成功しない。

クライアント・サティスファクションの徹底ディテール追求。

絶対的に、がっかりはさせない!

たとえば、そう。

さあ、あれを見なさい。窓の外に見える、あの荒れ放題の貧相な丘を!

あそこに町の人々が手作りの会場をつくる。紫のネオン・ライトで飾り付ける。

たとえばオールナイト、椎名林檎のライヴ・コンサート!

そんなこと、やってみな、何千人の客が集まると思っているんですか!

あるいは三代目のオールナイト・コンサート、そんなんやってみなさい、全国つつうらうらから、もう若―い、うすっぺらなあほ女たちが、わんさか集まってくる!

またはラブ・ライヴ特設会場。

マニアックな、へんなオタクたちが、日本全国から、どんだけ集まると思ってんですか?

そして、そこには、駅まで山に続く道で、ずらーっ、と、関連グッヅ販売店ですよ。

いったい、みんな、どれくらい、お金を落としていってくれると思ってるんですか!

そう、想像してみなさい。その光景を、その雰囲気を。

たくさんの蛍が中空に舞い踊る夜に、その音楽と世界のなかにいる自分自身を!」

 

販売員「ステキー! いくいくいくいく、ぜったい、いくーーーーーーーーー!」

 

コンサル「そんなことを500万円で企画提案しちゃうんだよー、安いでしょう!」

 

オムスビ「それは安い! 安すぎる!」

 

コンサル「そう、最初に説明した通り。それら、いかなるイベントも、歌と踊りは必須。さかなさかなさかなと歌えば、さかなが食べたくなる!

やきとんとんやきとんとんと歌えば、やきとんが、食べたくなる!

歌と踊りは、人間の原始の感情を刺激する!ほんとだから。ほら、みてごらんなさいな。たとえば、こんなふうに!

はい、みゅーじっく、スタート!」

 

ここに『ヘビメタさんば、踊ってルンバ』の曲。

と、もう、女たちは、きらびやかな衣装で踊りながら登場。

観客席の通路に、どばーっ、と。

観客席に飛び出して踊りまくる。

2分くらいダンシング・タイム。

 

そしてダンサー、舞台に戻って左右の出入り口へ去る。

 

若い駅員「うわあ・・・」

販売員「すてき・・・」

 

ダンサーa「ちょっと、ニーナちゃん、具合悪いみたいよ」

と、これは舞台の裏からの声。

 

コンサル「だから、無理しなくていい、って言ったのに。病気じゃないから。みんな頑張ってるんだから、あたしも、みんなの手伝いしないと、って聞かないんだ、これが」

 

着物バア「あら、どうなさったの?」

 

コンサル「妊娠してるんですよ。運転手の田部井のバカが、手出しやがって。安月給のくせに、国際結婚だって」

 

着物バア「あら、すてきじゃない」

カズミ「ねえ、いいじゃない。お金なんて」

コンサル「いやあ・・・国際結婚ですよ。家族で故郷に帰るんだって飛行機代、子ども育てるのも養育費、学費・・・金かかるもの。うちで運転手やってたって、いくらにもなんないもん」

ミヤコ「いや! 愛があれば! それだけで、いいんです!」

販売員「そうです!・・・あれ、あたし。仕事しなきゃ」

と、急いで去ろうとする。

 

工藤「愛・・・か」

 

アナウンス「いつもご利用、ありがとうございます。この電車は、のぞみ10号、博多行きです。間もなく新神戸に到着いたします。

This train soon will be arrive at Shin-koube station.」

 

そうして青森弁スーツ男3人、乗ってくる。

1人は中年の課長、2人は若手。

 

課長「ぢゃぢゃぢゃあー!」

若手a「すんげえな。前の車両、おら、ぶったまげた」

若手b「おらもだあ。ウワサじゃ聞いてたけんどもよ、ありゃ都市伝説ではねがった。やぱり外国人は、みんな裸で外歩いてるんだ」

若手a「さそってるんでねえか、おらたちを」

課長「ぢゃぢゃぢゃあー!」

若手a「おら、もいっぺん、いってみるだ!」

課長「あほ! おなご、めっけにきたわけでねえんだぞ、おらたちは」

と、席に着く。

 

周囲のみんなも我にかえったかのように、そうして、みんな座席につく。踊り子たちは前の車両にいる、という設定なので、舞台上にはいない。

と、そこに若狭、再登場。

工藤たち、びっくり。

若狭、ぶるぶる震えながら、マッキーの斜め前に座る。

 

カズミ「なんで!?」

若狭「さむい」

工藤「えっ!?」

若狭「新幹線にしがみついて。逃げてきた・・・」

マッキー「えええーっ! とりあえず、あんた、こっち、奥に座んな。これ、かぶって」

オムスビ「トム・クルーズみたいなやつだな」

 

と、そのへんにあったコートかなんかを、若狭の頭から、かぶせる。

 

オムスビ「おい、ちょっと待て! 警察から逃げてきたんだぞ! かくまうと、おれたちもまずいんじゃないのか!」

 

課長「ぢゃぢゃぢゃあああーーー!」

 

コンサル「警察から逃げてきたの? まずいよ、それは。公務執行妨害だろ、事情を知ってる我々全員は犯人隠匿、逃亡幇助の罪に問われる」

工藤「そ、そんなこと、言われたって」

ミヤコ「そうですよ! ひとを見た目だけで判断してはいけません!このひとが、いったい、なにをしたって言うんです!」

若狭「警官、7人くらい、ぶんなぐってきた」

 

課長「ぢゃぢゃぢゃあああーーー!」

 

スーツ「あちゃあー!  あうとですよ、あうと!

暴行傷害罪だよ、あんた!」

 

工藤「あいやあーーーーー」

 

若手a「やっぱ、都会っちゃあ、すんげえとこだべなあ。毎日、こげな、めんこいオナゴたぢが、わんさと裸でさわいでだり、毎日、こげな大事件がおこりよる」

若手b「んだなあ。おらさとこ青森は、家のまえさ、ねこ一匹とおらね。ただ陽がのぼって暮れてくだけだあ」

 

コンサル「あんた、自主しなさい。自主すれば罪も軽くなる」

 

若手b「んーーー、あれーー、まさか・・・」

 

オムスビ「そうだ! あんたが、ここにいたら、みんなが迷惑する!おれは大事な日なんだ、大事なプレゼンがあるんだ!

警察の事情聴取なんかに協力する時間なんか、ぜんぜんない!

警察の事情聴取ってなあ、長いんだ、とにかく!

何時間も、何時間も、むだに長いんだよ。

そんな時間は、いまの俺にはない!」

若狭「わしにとっても、今日は、どうしても・・・大事な日なんじゃ。どないしても、わしは、今日、博多に・・・20年、やり続けてきたんや。20年。今日、博多で、最後の日なんじゃ。それが終わったら、警察でも、どこへでもいきますわ。それさえ終わったら、わしは、もう、死んでもええんやから」

 

全員「・・・・。」

 

そこに若い駅員が現れて、腰ぬかして驚く。

 

若い駅員「はう! あうあうあーーーーー!」

 

這うように逃げ出そうとする若い駅員を、工藤は捕まえる。

 

工藤「まってくれ。たのむ! あの人のことは内緒にしてくれ!

たのむ!」

若い駅員「えっ!」

工藤「自主させるから、だから」

若い駅員は、ただ黙って逃げるように去ってゆく。

全員「・・・・。」

 

カズミ「おなかすきましたね。まあまあ、とりあえず、なんか食べてから考えましょう。ああ、サキイカ、これ・・・なんで、開かないのかな、これ」

 

若手a「あー! それ!」

課長「ま、待て」

カズミ「えっ?」

課長「いやいやいやいや・・・・」

と、課長、若手2人と内緒話し。

 

課長「おい、おめえら、これは、いい機会だぞ! 一般消費者たちが、どんな反応をするのか、見極めるチャンスだべ!」

若手2人「ああ!」

コンサル「そんな、サキイカの袋なんか・・・ん、あ、あれ?

あ、あかない。なんで? 不良品なんじゃないの?」

 

課長「不良品・・・」

 

マッキー「とにかく、事情、話してみなさいよ」

若狭「はあ・・・」

若手b「あのお・・・」

課長「おめえは、よぶんなこと言うんでねえ!」

若手b「あ、んでねく」

若手a「えーから、黙っとけ」

 

アナウンス「この電車は、間もなく、桃タロウ伝説発祥の地とだけしか有名ではない岡山に到着いたします。

Soon will be arrive at Okayama. I hope you will have a good luck!」

 

ミヤコ「あっ、ヘリコプター! ああ、あっちからも! 警察だ!」

カズミ「ほら、見て見て! 向こうの高速道路! パトカーいっぱい走ってるわよ! ほらほら!」

工藤「あいつ、通報したんだ!」

コンサル「あたりまえだろ! 駅員なんだから」

マッキー「どんな事情があるのかわかんないんだけどさ。こりゃ、アウトだわね。福岡行きは、あきらめなさい」

 

若狭「あああ、うううう・・・・」

 

オムスビ「あ、いかん! はやく資料まとめないと! そいつのことは、おまえの責任だからな!

おまえが、なんとかしろ!

次の駅で警官が乗り込んでくるぞ!

おれは、しらん!

見なかった、気づかなかった、まったく、聞こえなかった!」

コンサル「そう。あたしも知りませんよ」

 

工藤「えっ!」

 

着物バア「はくじょうねえー」

ミヤコ「そんなんじゃ、もてないわよ、女の子に」

コンサル「そんなこと言ったって」

着物ジイ「ふん! どいつもこいつも」

 

警棒片手にガニマタ隊長と花岡が、息せききって勢いよく乗り込んでくる。

彼らの後に続くように、あのかよわい若い駅掌、そして、さらにネズミ色のジャンバーを着た、小柄な老人がたそがれ感漂わせて乗ってくる。

若狭、コートをかぶってマッキーの隣の窓際に隠れてる。

 

隊長「例の凶悪犯はどこにいるんだ!」

若い車掌「えー、あっ、そこです! そこに隠れてます!」

隊長「ちょっと、どきなさい」

と、マッキーを引っ張り出し、窓際でコートを被っていた若狭を捕らえる。

 

隊長「傷害、公務執行妨害で緊急逮捕する!」

 

若狭「かんにんや! かんにんや! 後生や! 必ず自首しますやさかい、どうか福岡に! 一生のお願いや!」

隊長「きさま、この法治大国ニッポンで、警官殴って逃げられると思ってんのか! 事情は署でゆっくり聞かせてもらう。さあ、立て!」

若狭、泣きながらガニマタ隊長と花岡に抱えられるようにして立ち上がる。

若狭「人生、懸けてますねん・・・お願いや」

デブ車掌「結構な余罪、ありそうだなあ、おめえ。この凶悪犯があ!」

 

若いスーツb「いやあ! 違う違う! この方はニシナリの種馬、ホッピー若狭! 人生のすべてをキックボクシングに捧げて、今夜、福岡ドームで引退試合!」

 

全員「えっ!」

 

課長「なんで、おめえ、そんだだごと知ってんだ?」

 

若いスーツb「先々月の日曜日の夜、テレビの常夏大陸で観ただ!

孤児院で育って、親も家族もねぐ、貧乏な毎日を、皿洗いの仕事を続けながら、たった、ひとり、キックボクシングに夢をかけて、それだけをささえに、これまで生きてぎて。

おら、感動しちまって、涙が止まらなかっただ!

今日はこの人の、人生最期の日だ!」

 

コンサル「あっ、そういえば・・・ホッピー若狭。そんな名前、書いてあったな。進行表に・・・」

 

隊長「引退試合! それは、ほんとなのか!」

若狭「ううう・・・すべてを懸けてきたんや・・・ほんとに、すべて・・・」

 

着物ジイ「ちょっと、待ってやるわけには、いかないかな、ガニマタくん」

 

隊長「えっ?ああ!こ、これは、安西先生!」

 

着物ジイ「全国剣道練成大会の決勝戦、わたしが主審を勤めた君の引退試合。あの闘いぶりは、いまだに、わたしの心のなかに、まぶしいほどに輝いているよ」

 

隊長「うっ・・・安西先生・・・け、バスケが・・やりたいです」

 

着物ジイ「それ、違うから」


台本続き

花岡「そんだだごと無理だべ! 他県からも緊急出動要請しじまったんだがら! スワットまできちまって、もう岡山駅は警官でいっぱいだ! TV局まで集まっちまってぎでまず! どないすんだべがあ、これわ!」

隊長「うううー・・・・」

 

工藤「あ、おまえだ! おまえがいけないんだ! 黙っててくれって、あんなに頼んだのに!」

と、工藤、若い車掌を指差す。

 

若い車掌「そんなことはダメです! ひとには、みんな、いろんな事情があるとは思います。だけど、ぼくは他のお客さんに迷惑をかける人は許さない。ぼくだって、この車両に乗って仕事をすることは、子どものときからの夢だったんだ。みんなのステキな一日を乗せて走っている夢の電車、それが新幹線なんだ。どんなことがあったとしても、ぼくはこの電車を守る」

 

コンサル「そりゃ、そうだ」

工藤「うー・・・・」

花岡「どないすんだべかあ!」

隊長「ううう・・・・」

 

ネズミ老人「あのう・・・かわりといっちゃなんですが、わたしを捕まえてください。無賃乗車です」

 

デブ車掌「えっ?」

 

ネズミ老人「三県またいで軽犯罪をした年よりは、特別な老人刑務所に入れてもらえると聞きました。わたしを、そこに入れてください。ずっとカメラマンやってたんですけど、仕事がもうなくなってしまいました。老人ホームに入るお金もないので」

 

隊長「なんと」

 

ネズミ「お願いします」

オムスビ「ちょっと待った。無賃乗車ではない。乗車券は、おれが払う」

 

全員「えっ?」

 

オムスビ「じいさん、いったい、どんな写真、撮ってたんだ? カタログとか、そういの? ぶつ撮り?」

ネズミ「あ、はい。その通りです」

オムスビ「うちの通販サイトでカメラマンが足りない。うちで働きなさい。給料は安いけど。そんなことくらいで、やけっぱちになるなよ」

マッキー「おー! おむすびーー!」

ミヤコ「かっこいい!」

工藤「おまえ、はじめて、いいこと言った!」

オムスビ「駅着いたら、すぐ手伝ってもらう仕事がある。機材は現地にあるし、あー、ぶつ撮りじゃないけど、人物も撮れんだろ? とりあえず名前は? すぐ申請ださないと」

 

カズミ「ほんとは人物の写真を撮るのが得意なのよね。名前は、野田優作・・・。わたしの父親です」

 

全員「・・・。」

 

カズミ「いままで、どこで、どうしてたの・・・おとうさん」

ネズミ「死のうと思った。でも、死ねなくて・・・。すまない。ほんとに、すまなかった。突然、消えて・・・うらんだろうな」

 

カズミ「うらむなんて。そんなこと。ちっとも気づかなかったの、あたし。おとうさん1人、そんなに追い詰められてたなんて。かわいそうだね、おとうさん」

 

ネズミ「カズミ・・・」

 

隣の車両から踊り子の声。

 

ダンサー「社長! ニーナちゃんが!! あかちゃんがうまれる、あかちゃんが!」

コンサル「だから無理すんじゃないって、あれほど言ったのに!」

着物バア「妊娠、出産を軽くみてはいけません! 命をおとすことだってあるんですよ!」

 

隊長「赤ちゃんだと! よし、すぐに連れ出せ! 緊急救命だ! これで、なんとかなるだろおー!」

 

花岡「えっ、こいづは?」

 

隊長「武士の情けだ! 全責任は、おれが取る! 役人めいた規則にとらわれすぎてはいけないんだ。もっと、人の心を思いやる、そんな裁きこそが、おれたちには必要だったんだ。人情を最も大切にした大胆かつ豪快な大岡裁き、これが、じいさんの願いだったんだな。試合が終わったら必ず出頭するように。いいな? さあ、急げ! かじったくん!」

 

花岡「あ、また! それ、ぜんぜん、ちがいますから!」

 

ガニマタ隊長と花岡、隣の車両へ走り去る。

そして、また電車は走り出す。

 

若い車掌「おおお、おとりこみ中、申し訳ございません。じょじょ、乗車券を、拝見させて頂きますうーー」

若狭「てめえ!あんなに、頼んだのに! ちくったんだな、おまえ・・・」

若い車掌「あ、あ、はい!」

 

若狭「おまえも、男だな・・・すまんかった・・・おまえは正しい。わしは、あほじゃ」

マッキー「まあまあ。試合だろ。元気だせよ」

 

女子販売員「毎度ありがとうございまーす! 岡山名物ももたろうダンゴ、ももたろうチョコレート、ももたろうチーカマ、お子様が飛んで喜ぶももたろうパン! あんぱんまんもびっくり、ももぱんでちゅうー!」

 

若狭「もし、試合に勝ったら、マッキーはん、わしとつきおうてくれい!」

マッキー「えっ! うーん、一回だけデートしてあげる」

若狭「ほんまか! うおおおおおおーーーー、勇気、りんりん!」

 

女子販売員「うわ、うわ! 恋の花咲く夢のトレイン!」

 

若い車掌「そうなんです! みんなの思いが叶うんです! ここは、夢のトレインなんですよお!」

 

カズミ「いや、そんなことはありません!

これ、あかないのーー、なんでーー、これーーー? なーんだか、くやしいいいいいいいーーーー」

 

と、例のサキイカの袋を、みんなに見せる。

 

女子販売員「それは・・・うちで扱ってる商品ではありませんねえ」

 

コンサル「だから、不良品なんじゃないの? あかないサキイカなんか、ありえないでしょ?だいたい、どこのメーカーが作ってんのこれ? 有限会社いか大王?なんだ、これ? 聞いたことない会社じゃないの。あは、青森県? ちっちゃいいなかの会社の粗悪品だろ」

課長「わが社は、粗悪品など、作ったことはない!」

 

コンサル「えっ」

 

課長「これはウチの社運をかけた一大商品だあ! おめえたちも知ってるべ。あの上野動物園で白蛇が逃げ出し、行方不明になったどぎだ。ニッポン全国、誰一人だ、誰一人とも見つけられなかったっつーのに、唯一、ただ、ひとり、おらが村のいたこがめっけただよ! 預言で、上野の白蛇をめっけただ! これは全国ニュースで報道された事実だべや!」

 

工藤「あ、それ、聞いたことある」

 

課長「んだべんだべ、おまえさ見たべ、あのニュース! つまり、おらが言いたいのはだ、青森県をばかにすんでねえ!」

 

スーツb「ああ、そうだともさあ! バカにすんでねえ!」

スーツa「や、青森なんか、くそだ。なーんも、ねえとこだ。なーんもねえ。だだっぴろいとこに、ただ、風がふいてるだけだ」

 

課長「そんだだごとはねえ! ほやがいっぺえあんぞお! 獲れたてのほやほやだあ!」

スーツb「イエス・キリストの墓だってあんだ!」

コンサル「それ、青森だっけ?」

スーツb「こんな、すんげえ舞台づぐっだのもなあ、青森出身者だあ! 越後拓哉だあ、ごいづは、あしたのごとも、なーんも考えず、づぐっぢまっただあ、どうだあ、まいっだがあ!」

 

立ち上がって越後、観客に向かって一礼。

 

課長「青森上空で二匹の竜が戦ったり、その空をテポドンが飛んでったり、海からは原子力船ムツが現れたり、大地には地獄河原が煙をあげてたり、そんだだ由緒正しいミステリーランド青森県に生まれたわが有限会社いか大王は、今年創業100年、まさしく、いか一筋!

そして、このたび、その100年に渡り培った当社独自の技術を結集して完成したのが、こちらのイカ100なのだす!

当社は、この新商品で、全国販売を開始!

デフレ厳しいこの時代に、ビジネスチャンスを拓く所存にございますだで、不良品などとは、言語道断!

聞き捨てならぬことでございますだべした!」

 

カズミ「ああ、それで・・・」

ミヤコ「100」

スーツb「これは、そんじょそこらのサキイカではねえ」

スーツa「100年もつんだ」

全員「えっ?」

着物バア「100年間、腐らない、ということですか?」

課長「その通りです。このご時世、なにが起こるかわがりません。

だがらごぞ、100年保存できる食品は、家庭にひとつ、必須の危機管理対策となるのだす」

スーツb「大地震でもこわれない。像が踏んでもこわれない」

課長「ふふふふ・・・その通り。最先端技術の結晶、この袋はチタン合金で、できでいる。ミサイルが当たってもこわれない。深海1万メートル潜っても、やぶれない。

しかも100年安心。さきいかの袋をチタン合金で製作したのは、わが社が世界初!

この新幹線の外壁よりも強いのだ!」

 

全員「おおっ!」

工藤「すごい!」

 

コンサル「それ・・・なんか違うんじゃないか?」

 

オムスビ「そんな袋、どうやって、あけるの?」

 

課長「その裏面をごらんください。こと、細かく、あけかたが書いてございますだ」

カズミ「なに、これ・・・なんか損害保険とか生命保険の契約書の裏側みたいな。あんまり文字が小さくて読めない」

スーツa「くわしく書かなぎゃなんねえがら、そないになっつまっただ」

コンサル「あのさあ。誰も読まないから、サキイカの袋の注意書きなんて」

カズミ「なんでもいいから、で、これ、どうやってあけるの?」

課長「それは、まさに常識を覆す方法なのだべす」

 

課長「こーやって、こーやって、ぽん!」

みんなで取り囲んで、観客には開け方を見せない。

 

全員「おお!」

若狭「ここ、これは・・・あんなにチカラをこめたのに・・・」

課長「チカラなど、いっさい、必要ねえ。やり方を変える。そこに新しい道がひらかれるんだべ」

若狭「やり方を、変える・・・そうか・・・」

マッキー「ん? どした?」

若狭「そうだ・・・いっそ、変えてみるか。やり方・・・逆に」

 

ミヤコ「あー、もやもやしていた感じが、ぜーんぶ、すっきりしちゃった。今回、思いつきの旅行だったんだけど、まさか、こうして、おとうさんに会えるなんて、夢にも思わなかったし。新しい自分が見つかるような、そんな気がするなあ」

 

オムスビ「でも、これは・・・売れないんじゃないか?」

課長「説明せねばなんねえ。説明すれば売れる! なので、我ら三人、社命を懸けて、全国の量販店様にPRすべぐ、こーして新幹線さ乗って、あっつこっつ、いっでるわげですだ」

コンサル「まあ、とにかく、キャンペーン、やんないとね」

課長「キャンペーン?」

 

工藤「せっかくだから、みんなで食べてみましょうよ。ささ、どうぞ、どうぞ」

 

カズミ「あ、うまーい」

 

マッキー「うん、美味しい!」

 

着物ジイ「おや、いつの間にか広島を通過してしまったようだ。ああ、近づいてきたな。なんだか緊張してきた。おじょうさん、そこの酒をくれ」

 

女子販売員「あ、はい。あらやだ、のんびりしてしまったわ。急がなきゃ」

若手車掌「ああ、ぼ、ぼくも。いかなきゃ!」

 

着物バア「あたしにも一杯ちょうだい。うん、おいしい。あなたが、あんなにステキな励ましの言葉をかけるなんて。初めて聞いた」

着物ジイ「ん? なんのことだ」

着物バア「いつも、あなたは、誰に対しても、きびしい言葉ばっかり。自分の娘にも。ほんとは、そうじゃないくせに」

着物ジイ「・・・・。」

着物バア「なんて言ってあげるために、わたしたちはゆくの。娘のところに」

着物ジイ「・・・・。」

 

車内アナウンス「Soon will be arrive at Ogura station.この電車は、間もなく小倉に停まります。

So, we were never give up! to be continued to the happy end of your life.」

 

工藤「おれも緊張してきちゃった」

若狭「あんたひとりやない。わしも人生最後の決戦や! 勇気だせい!」

カズミ「そうよ、がんばって!」

オムスビ「おれだって大変なプレゼンなんだ。みんな一緒だ」

工藤「そうだよな。みんな、がんばってんだ。先生、おれたちも、がんばらなきゃ、ね!」

着物ジイ「うーん・・・・」

 

ここで舞台暗転。

喫茶店に変わる。

 

ネズミ男は衣装チェンジ、喫茶店のマスター役。

ミヤコも工藤の妻の役のサトミに変身。

喫茶店の奥の椅子に座って、新聞を見てるマスター。

舞台から向かって手前右の席に座る工藤の妻・サトミ。

彼女の頭上にTVがある。

そんな妻の正面に座っている工藤。

 

工藤「や・・・やあ、元気にしてたかい」

 

工藤は、どうにか、そんな言葉を口にすることができた。

暗い目をしながらもサトミは、小さく笑いながら頷いた。

しばらく2人は黙ったまま、

工藤は、また深い溜め息を付いた。

 

工藤「お父さんたちとか、みんな、もう家で待ってるのかな?」

サトミ「まだ。おかあさんだけ。おとうさんは、ちょっと遅くなるって」

工藤「お、おにいさん、は・・・?」

サトミ「おにいちゃんは夕方。ホームセンターに寄って金属バット買ってくる、って」

工藤「金属バット! や、野球でもやるのかな・・・・・」

サトミ「絶対、殺す、って。あんたのこと」

工藤「え・・・う、うーん、うーん・・・・」

 

向こうのカウンターの上にはテレビが置かれていて、マスターは競馬中継を見ている。

カウンターには競馬新聞が、広げられたまま置かれている。

 

TV音声「2番、本命のタイタニック・クイーン、このまま逃げ切るか!

さあ、どうだ、どうだ!!」

 

工藤、こんな喫茶店に入るんじゃなかったなあと思う。

2人は、競馬中継の音のなかで、

しばらく向かい合ったまま押し黙ってしまっていたる。

工藤は煙草を取り出して、火を点けようとして、やめる。

 

サトミ「あなたは、どうしたいの?」

工藤「お、おまえは・・・・ど、どうなんだよ」

 

TV「おっと6番のラーメン・ダイスキーが追い上げてきたぞっ!

タイタニック・クイーン、抜かれるか!」

 

工藤は所在なげに鼻の下の辺りを擦ると、

右手に握りっ放しだったライターをテーブルの上に置く。

そして、また訊ねた。

 

工藤「ま、ま、また、さ、い、いっ、一緒に頑張ってみない。かなあ・・・なんて、はははは」

 

サトミは少し俯いたまま、黙り込んでいる。

サトミは、そのテーブルの上に置かれた

緑色のあのライターの文字を見詰めていた。

 

サトミ「自信、ないわ」

 

サトミは緑色のライターを見詰めながら、

ポツリとそう言った。

 

TV「おっと、タイタニック・クイーン、抜かれた!

抜かれた!やったぞラーメン・ダイスキー!

このままいけば初優勝!!」

 

マスター「いけえ!コラぁー!

イゲエーーーーーーーーーーーー!」

 

と、雄叫びを上げた。

思わず、びっくりして工藤は立ち上がったが、

また再び座り直して、工藤は背中を反らすようにして天井に目を向ける。

 

工藤「うーん」と大きな溜め息をついた。

工藤はサトミの顔を真正面から、しっかりと見ることができない。

工藤「う、うーん、うーん・・・・・」

サトミ「・・・・・・・・。」

サトミはテーブルの上に置かれたままの

緑色のライターを、力なく見詰めている。

工藤「お、オレ、やっぱり、また店やろうと思ってんだ」

サトミ「お店? もうお店たたんだって・・・・・」

工藤「あ、ああ、今の店はね」

サトミ「今の店って・・・・? またお店出す気なの?」

工藤「う、うーん、実は、そのつもり」

サトミ「お金はどうするの」

工藤「あ、ああー、う、うーん・・・」

サトミ「昨夜電話で話した通りだから。

そんなだから、みんな怒ると思うけど」

工藤「うう、う・・・・うーん・・・・・うーん・・・・」

 

TV「ああっ!ラーメン・ダイスキー、こけたあ!

こけてしまいましたあ!!」

 

工藤は渋い顔をしながら、

チラリと向こうの方にあるテレビ画面を見る。

 

マスター「だばだばだああああああーーー」

 

と、ガックリと両肩を落とした様が見えた。

工藤は再び、大きな溜め息を付いた。

渋い顔をしながら、俯き、口の周りを左手で摩る。

 

工藤「お、オレも、も、もも、もう48だ。

就職ったってさ、給料なんかさあ、そんなん借金返すなんて無理じゃん。だけど店をやれば、客さえ入ればなんとかなるじゃない? かって・・・」

 

するとサトミは顔をポツリと言った。

 

サトミ「お客さんが来てくれれば・・・・ね」

工藤「い、いや、だから、今までは・・・。

オレも意地張ってたのが、いけなかったんじゃないかって思うんだよね。オレさ、じ、実はさ、今日は色々なことがあってさ、色々な事を考えたんだよ」

サトミ「ほんとに殺されるから。おにいちゃんに」

工藤「そ、そそそそ、そうだよなあ、やっぱなあ、うーん・・・・」

 

サトミは緑色のライターを見詰めながら言った。

 

サトミ「もう、別れようか・・・私たち」

 

TV「おーっと! タイタニック・クイーンもこけたあ!!

うわっ、みんなを巻き込んで、みなコケてしまったあ!!

大変だア、これは大変だア!!」

 

マスター「だばはああああーーーーーー・・・・・うわああああああああ、もう、だめだあああああ」

 

とマスターの、すさまじい溜め息が聞こえる。

マスターは、まさにガックリと両肩を落としてしまっていた。

工藤は、また新しい煙草を口に銜えたが、その顔も、もはや泣き出しそうな表情である。

競馬中継が終わった。

 

サトミ「そろそろ、行こうよ。

もう、みんな集ってくる頃だから。それとも帰る?」

工藤「えっ?」

サトミ「ほんとに怒ってるから、おにいちゃん。また店やるなんて言ったら、どうなるのか。知らないよ、あたし」

工藤は大きな溜め息を付いた。

 

工藤「か、帰ろうかな・・・」

サトミ「そのほうがいいよ。いこうよ。駅まで送る」

工藤「あ、ああ・・・」

 

ゆっくり立ち上がろうとした、

そのとき、テレビからキック・ボクシングの中継が流れてくる。

TVアナウンサー「この体育館は、博多市が民間と協力して設立されたというもので、町おこしの一貫として作られたこの博多ゴールデン・レインボー・ドームから今夜は生中継でお送り致します。

本日の第1試合は、

なんと、ニシナリの種馬・ホッピー若狭対、

フランスの貴公子・カルロス黒ラベルとの対戦ですが、

ここでの注目ポイントは?

やはりホッピー若狭が、どこまで善戦できるかという、

そういうことになりそうですよね」

TV解説者「若狭にとって厳しい試合になりますね」

TVアナウンサー「う~ん、ホッピー若狭!

華麗なる天才カルロスを相手に、何度倒されても起き上がることが出来るのか!

ホッピー若狭としては、まさしく、福岡市の町おこし的

おきあがりこぼし的なファイトができるか!

派手なKOシーンに注目です!」

 

工藤「い、いや・・・・ちょ、ちょっと、ちょっと待って」

 

座りなおす工藤。

サトミは、まったくTVは見えてない、関心なし、耳にも入って

こない。

ずっと、ちからなく、ぼんやりとライターを見詰めてる。

テレビでは解説者とアナウンサーが話しを続けている。

 

TV解説者「ですね。若狭も、もう48歳ですから。

ちょっと第一線で闘うには無理ですよねえ。

いや、実は若狭は、この試合で引退なんですね。

それだけに、かなり気合は入ってますよね。

私は若狭についてはデビュー当初から見ていますから。

私自身、若狭の大ファンなんですよ」

 

アナウンサー「はい、私もホッピー若狭は、よく知ってますよ!

あの、前へ、前へと出て行くブルファイト、

倒され方はいつも実に爽快だあ!

あのケレン味のない豪快なブッ倒れ方!

いつ見ても気持ちがスカッとしますね!」

 

解説者は、ちょっと困ったように唸り声を漏らした。

 

解説者「う~ん、まあ、これはプロレスじゃないんでね。

でも、まあ、たしかに、あれですよね、

その、残念なことに勝ち星がなかっんですけどね。

彼は苦労人なんですよ。

孤児院で育ちましてね、

昼間は、ずっと工事現場なんかでバイト生活をしてましてね、

そうして夜、練習をしてプロのリングに上がり続けてますからね」

 

アナウンサー「そうですね!倒れかたは、いつも前のめり、

リング上、永遠のさすらい人!

リング上の行き倒れ人だあ!!」

 

サトミ「ここにいたって、しょうがないよ。行こう」

工藤「う~ん・・・・」

 

テレビのボリュームが小さいので、注意していないと何も聞こえない。

工藤はサトミの質問に答えながらも、テレビが気になって仕方がない。

 

アナウンサー「さあ、いま、まさに試合開始のゴングが鳴ったぞ!

ああ、もう、いきなりKOされるかと思いましたが!

なんとか、もちこたえぞ!」

 

解説者「うーん、若狭らしくないステップ・ワークですね!

ここで打ち合いを避けるとは!

いつもと戦術を大胆に変えてきましたね!」

 

アナウンサー「リング上で追いかけるカルロス、逃げ回る若狭!

臆病風に吹かれたかホッピー若狭!!

浜辺でうろうろ歩くヤドカリのようだ!!

ホッピー、リング上をうろつき回る

ヤドカリになりさがったというのかあ!

おまえの闘魂は、一体どこへ行ったんだああああ!!」

 

場内から激しいブーイングが巻き起こっていた。

 

サトミ「どうしたのよ・・・・・」

工藤「う、う~ん・・・・・」

 

工藤はサトミの後ろにあるテレビ画面が気になって仕方がない。

 

TVアナウンサー「あ、ああ!」

考え込むフリをしている工藤は

腕組みをしている拳に、思わず力が籠もった。

 

工藤「あっ、あああ・・・・」

サトミ「な、なに!」

工藤「あ・・・あうあ・・・・っ、いや、ちょっと、足がつった」などと工藤はゴマカスので必死だ。

 

アナウンサー「おおっと、ついにホッピー・ダウン!

連敗記録更新かあ!!

起き上がれない、

起き上がれない町おこしだあ!!」

 

アナウンサーが絶叫している。

 

解説者「いや、立ち上がりますよ!」

 

アナウンサー「逃げ回るだけの若狭に、場内から激しいブーイングだあ!」

 

サトミ「なに?」

工藤「うん、い、い、いやいや、ああ、な、直ったから。

で、電車でずっと座ってたからかな、ははは・・・・」

工藤は苦笑いを向けたが、サトミは渋い顔で溜め息を付いている。

カウンターの席で新聞を広げていたマスターは、ぼんやりとした顔付きでテレビのチャンネルのリモコンを手に取った。

そしてテレビに、そのリモコンを向けている。

 

サトミ「もう別れたい、ってこと? もう、ここで」

 

チャンネルを変えられたくない工藤は思わず立ち上がって叫ぶ。

 

工藤「ああ!」

と大きな叫び声を上げてしまっていた。

マスターとサトミはビックリして工藤を見詰めている。

 

工藤「い、いや、そそそ、その、そっちネズミ!

こ、ここ、こんな大きいやつ、猫みたいにでかいやつ!

そっち、そっちいった!」

マスター「えっ!」

サトミも、顔を歪めて立ち上がった。

工藤は必死だ。

工藤「そっち、あっち、そっち、向こう。

そうそう、そっちそっち」

 

工藤がそう言うとマスターは怪訝そうにカウンターの奥の台所に目を向けた。

その時、喫茶店の扉の上につけられていた鐘がカラン、コロンという音を立てて開く。

若いカップルが入ってきた。

 

工藤「あ、ああ、お客さんだ。

あっ、い、いらっしゃいませ。

マスター、さあ、さあ、お客さん。早く早く」

工藤は頭をペコペコさげながら

工藤「あっ、どうぞどうぞ、いらっしゃいませ」と

若いカップルに向かって、

カウンターの方を手で示した。

 

工藤「あっ、いや、商売のことを考えてたら、

なんか他人事じゃなくて」

工藤はから笑いを浮かべながら、また席に着いた。

TVから場内の喝采が聞こえてくる。

サトミ「もう、行きましょうよ」

 

TV「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ・・・・・・」

 

サトミ「なに考えてんの・・・・・」

すると工藤は、ついに叫んだ。

工藤「ちょっ、ちょっと、ちょっと待って!」

 

サトミは怪訝そうに、彼の目の先にあるテレビ画面へと、ここで初めて目を向ける。

なんで、こんなものに夢中になってるの、という、あきれた、というか、サトミは険しい顔をしたまま、黙り込んでいる。

 

アナウンサー「すごい!これはスゴイ!!

ホッピー若狭、カウンターの電撃右ストレート一閃!

まさかのKO勝利!!

明日への奇跡の勝利の掛け橋!!

勝利のレインボー・ブリッジだああああ!!

まさに奇跡の勝利、奇跡の人、

ヘレンケラー的ミラクル・ファイトだあ!!

まぐれ当たりのホッピー若狭!」

アナウンサーの声が上ずっている。

アナウンサー「いやあ、私は、もう、ずっと前からホッピー若狭のことは大、大、大好きでしてねえ、これまでも、ずっーと、注目していたんですけどね。

ところで、下町でこよなく愛されているホッピーという飲みモノがあるそうですが、なんなんですかねえ、ホッピーって?」と

アナウンサーは、笑いながら解説者に訊ねた。

解説者「えっ!?」

と、驚きの声を上げた。

解説者「あんたホッピー、知らないの?」

アナウンサー「えっ・・・・ああ、は、はい」

アナウンサーは声を詰まらせてしまった。

しかし解説者はハッキリとした口調で言った。

 

解説者「だめじゃん、それは」

アナウンサー「えっ?」

解説者「あんた、もう、ぜんぜんダメだ」

 

リング上で若狭は歓喜の雄叫びを上げている。

工藤、TV画面を見詰めて、立ち上がる。

 

工藤「あの女の子たちが、踊ってる・・・。

博多のイベントって、これだったのか!

あっ、カズミさん、マッキーさん、ミヤコさんも!

あ、オムスビとコンサル!

写真撮ってんの、おとうさん!」

女子販売員「ホッピー若狭、プロ初勝利! コングラチエーション!

それではリング中央で勝利者インタビューです!」

工藤「あ、タテヨコ大学アナウンスぶーーーーー!」

若狭「やったあー!やったでえーーー!!

うおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!

ついに勝った、ついに勝ったでえ!」

工藤は思わず両手の拳を力強く握り締めると、

大声で叫んでいた。

工藤「やったああああーーーー!」

若狭「さっき、ついさっき、産まれたあー! 産まれたでえー!

母子共に健康! 男の子やあー!!」

マッキー「しかも、双子!」

 

工藤は拍手をしている。

猛烈に感動してしまっていた。

 

工藤「そうだあ!!

あきらめちゃいけないだア!

絶対に、あきらめちゃいけないんだよ!!

うん、うん!!」

皆が、唖然とした顔付きで工藤を見詰めている。

しかし工藤は、人目もはばからずに、テレビ画面に向かって、

ちから一杯に拍手を送っている。

工藤「今日、やっと勝ったんだ!

初めて勝ったんだ!

いいんだよ、言いたいやつらには言わせとけ。誰になんと言われようが、頑張って生きて行けば、こうしてパァと、いつかは大きな花が咲くんだよ!」

そう言いながら工藤は、テレビ画面に向かって拍手を続けている。

すると、マスターも、若いカップルも、なんとなくつられてしまって、

そうしてテレビに向かって拍手をし始めた。

アナウンサー「えーと、今回はですね、飛び入りスポンサーとして、青森県の有限会社イカ大王から、なんと、視聴者プレゼントです。

はがきでご応募ください。先着100名様に、こちらのサキイカを、プレゼントいたします」

工藤「うおおおー、ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」

工藤が叫んでいる。

工藤「世の中の人たちはさ、みんな色々、苦労しながらもさ、

それでも、あきらめずに、頑張ってやってんだよ。

孤児院で育ったキック・ボクシングの人だって、

青森のど田舎のサキイカの会社の人たちだってね、

老人ホームで働いてる人たちだって、販売員の学生さんだって、駅掌さんだって、

そのへんの普通のサラリーマンたちだって、みんな、すんごい頑張ってんだよ。

だからサトミ、オレたちも、もっともっと頑張らなきゃ。

頑張らなきゃいけないんだよ!

なんで頑張んなきゃなんないのか、それは、よく、わかんないんだけど、頑張んなきゃいけないんだよ。

それが、たった一度きりの人生なんだよ、きっと。

一度、転んだくらいで、なんだ。

起き上がればいいだけのことじゃないか。

オレたちもさあ、あきらめずに、もっともっと前向きに、人生前向きに頑張んなきゃだめなんだよ!!」

 

なんか、もう、突拍子もないバカ騒ぎで、恥ずかしいやら何やらで、もう、なんだか拍子抜けしてしまったサトミは、おかしくなってしまって、唐突に吹きだしてしまった。

こうして深刻に悩んでいることの、なにもかもがバカバカしくなってしまって。そんな感じで、サトミは笑う。

工藤は、そんなサトミの手を取る。

サトミも立ち上がる。

 

工藤「さあ、ゆこう」

サトミ「なんて言うの?」と苦笑い。

工藤「やっぱりさあ、マーボー豆腐だけって。

つまんないことに、こだわり続けたおれがいけなかったんだ。

中華の店なんだから、やっぱりラーメンを出さなきゃ。

仲間たちと、もう一度、しっかりと話し合ってみるよ。

やれるさ、絶対に。

その気になれば」

 

彼の、ほんとうに久しぶりに見たその明るく、イキイキとした目を見て、サトミは眉間に皺を寄せながらも、笑っている。

 

サトミ「あたしが家を出た理由はね、商売とか借金とか、そんなことじゃないのよ。ずっと、あなた、笑ったこと、なかったでしょ?

いつも、つらそうな顔で、いらいらしてて。そんな、あなたの顔を見ているのが、嫌だったから・・・。

いきいきしている、あなたが、いいの。思い出してよ。あのころを。だから結婚したんだから」

工藤「そうか・・・」

サトミ「ちゃんと、話せるかな?」

工藤「ああ、ちゃんと、話すさ。おにいさん、にも・・・」

サトミ「わかってくれるよ。ぜったい」

工藤「よし、やるぞ! ラーメンのどんぶりも用意しなきゃ。だいじょうぶ、もう二度と食器はこわれない。新しい食器はチタン合金で作ろうと思うんだよね。像がふんでもこわれないらしいから」

工藤、テーブルにお金をおいて店を出る。

若いカップルも、目を見合わせて小さく頷くと、彼らも扉から出てゆく。

 

喫茶店にマスターひとり。

マスター「はあ・・・」

と、しかし再び暗い顔。

 

コーヒーカップを片付けに、ゆっくり立ち上がる。

工藤とサトミが去った小さなテーブルには、

あの緑色のライターが残されていた。

ずっと仏頂面をしてたマスターは、

しかし、そのライターを手に取ると、

ようやく小さくニカッと笑ってしまったのであった。

 

※エンディング曲『ダンシング・ナイト』流して、役者たち舞台上で挨拶。

入れ替わり、ダンサー登場して挨拶。

また入れ替わり、役者たち出てきて挨拶。

 

「さきいかの恋」★おしまい

 

『ダンシング・ナイト』

https://www.youtube.com/watch?v=-xCYoCpl0Xo

 

 


この本の内容は以上です。


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