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労働基準監督署による臨検の対応と対策

今般、「臨検」がおこなわる背景には、従業員からの「申告」が前提になっているケース
が間々あるように思われる。
経験したケースでは、労働基準監督署の臨検の前に、公共職業安定所から元従業員
による残業代に関する照会があった。
それに合わせるように労働基準監督署の臨検が続いた。
当然、公共職業安定所と労働基準監督署の連携があるわけではない。
推測だが、元従業員による「申告」だと考えている。
実務で対応する場合、労働基準監督官は、労働基準法第101条に基づく「一般監督」
を主張する。
次の判例があるので読んでいただいきたい。
 
『労働基準法による行政措置は、法定の基準に違反した使用者の取締を目的と
するもので、労働者個人の保護を目的とするのではない』 
大阪地判昭和57年9月30日判時1058.3大東マンガン事件)
 
近時、労働行政は、個人の保護を積極的におこなっているケースが多々あるように
思われる。
この場合、人事担当者はケースバイケースで対応することが求められる。
例えば、係争の対象となる賃金総額が、使用者側にとって納得がいかないものは、
あくまで個別労働紛争で解決すべきだ。
安易に行政の介入による解決は、真の問題解決とならない。
むしろ問題を大きくする場合がある。
もっともあきらかに会社の違法行為による場合は話にならない。
人事担当者としては、日常業務の中から従業員の労働時間や休日出勤における
不平不満(経営管理改善のため)の情報を収集することが必要だ。
適宜、従業員本人や管理監督者と面談の上、誤解があれば誤解を解き、従業員
本人が理解できてない場合には、十分納得してもらえるまで説明することだ。
労務問題に発展するような緊急を要する場合は、経営層へ直接問題提起する
ことがある。
なかには法的意識の低い人が間違った考え方をもっていることもある。
また、部長、課長といった管理監督者がおこなうマネジメントレベルにおける遵法
意識の低さからくる問題の発生が多くある。
人事でこのような状況をつかんでいるにもかかわらず問題を起こす場合は、経営
者の経営姿勢に起因するようだ。
長時間労働、休日出勤あたりまえといった前近代的な経営がある。
しかも残業代を支給していないとか。
マネジメント層は、経営者へ右へ習え。
特徴は、非常に生産性が低いことだ。
能力主義といいながら、長い時間働いていることが評価されたりする。
救いようがない不幸だ。
 
このような経営者の場合、「臨検」をレバレッジにして適法経営へ向かわせたほう
が懸命である。
大体、危ない経営をおこなう経営者でも税務署と労働基準監督署に関しては、
かなり慎重な対応をとるものだ。
それが理解できない経営者は、はっきりいって愚かである。
この頃、この「愚かな経営者」が結構いる。
コンプライアンスなど、どこ吹く風という具合だ。
結果は、たいてい送検されることになる。
 
一方、まじめに経営努力をしている経営者がいる企業では、やはり人事が先頭
に立って戦うことが重要だ。
経営努力とは、3年程度を目標に労働時間削減、休日日数増加、有給休暇の
増加、勤務の柔軟な対応、従業員の自主的な時間管理を真面目に推進してい
る、あるいは着実な賃金アップ等の努力をしているような場合である。
 
この間、「臨検」がおこなわれると、従業員のモチベーションは当り前だが下がる。
また、真面目に努力している労働環境を自らの手で破壊することにもなりかね
ない。
これは、人事部門として絶対に避けるべきことである。
真面目な努力をしている場合は、絶対に努力のプロセスを主張すべきである。
だが、虚偽の報告は絶対に駄目だ。
実態から真摯な対応をおこなうことが必須となる。
 
労働基準監督署との対応は、法令および、隠蔽と改ざんなき真摯な事実に基づく
主張からスタートする。
勿論、就業規則に基づいて、就業実態、従業員の業務全般を判断をする。
 
次の項目は、臨検時のチェック項目である。
・労働時間の適正把握
・時間外労働に対する割増賃金の調査
・裁量労働の運用
・管理監督職の労働時間の把握
・過重労働防止
・安全衛生管理者の選任
・産業医選任
・定期健康診断
・安全衛生委員会議事録把握
 
臨検当日、任意提出を要求される書類(下記参照)については、 あくまで任意で
あることから臨検当日は、労働基準監督官に、顧問弁護士と相談の上、後日報告
させていただきます、と必ず申し入れておくことが重要だ。
任意であるからして申し入れどおり提出する必要はない。
 
・賃金台帳(2ヶ月分)
・勤怠データ一覧(2ヶ月分)
 
毅然と申し入れてよいが、その後、ほったらかしなどしてはいけない。
顧問弁護士と相談のうえ、会社として正式な回答をもったたうえで、労働基準監
督官へ報告する。
回答内容は、企業ごとに就業形態や時間管理の方法が違うだろうから、
実情に合わせて報告することになる。
初回は、口頭による報告でよい。
是正勧告書を受領した後からの場合は、会社による意思を明確にした書面
(上申書)を提出する。
 
ともかく自社の実態をありのまま弁護士へ報告することだ。
そのうえで会社の対応を決定することになる。
こればかりは、他社の事例はあまり参考にならない。
あくまで自社の事実に基づいて検討すべきである。
よい労働専門弁護士(使用者側弁護士)を活用すれば対応はむずかしくない。
ある企業おいて労災が発生し、労働基準監督官の調査が入った。
その際、当然調査には真摯に協力する。
だが、その調査の際にいきなり「是正勧告」に捺印しろ、と命じる監督官がいたが、
その場において捺印するわけにはいかない。
理由は、会社業務である以上、職務権限に基づいて業務を行っている。
このようなケースの場合、一旦会社へもちかえり、経営者への報告が第一優先だ。
一般的に経営規模にもよるが、役員への報告と承認がなく、現場で捺印する
権限はない。
当然、明確に断ることだ。
高圧的であったが、毅然と拒否した。
一旦会社へもちかえり、是正勧告の内容について詳細に検討することになる。
その上で会社の判断に基づく決定をおこなう。
このケースの場合も、現場責任者や業務統括責任者へ専門的な要件を含めて確認し、
さらに本社管轄の労働基準監督署で会社で検討した調査結果に基づき確認をおこな
った。
専門的な判断をおこなうと見解がわかれるケースが多々ある。
また、法解釈の問題であるからして、事実関係をしっかりと法令と事故発生事実
に基づき調査、検討することが大事だ。
法律違反であれば是正勧告に従うが、争える内容であればきちんと監督官へ
その旨を報告し、是正勧告を取り下げてもらうことになる。
この場合も顧問弁護士同伴で対応することだ。
 
私は、総務業務もおこなってきたので、業務上横領事件という別な視点から司法
警察員の仕事を考えてみたいと思う。
この場合、先ず企業は該当者を特定して刑事告訴をおこなう。
所轄署は、事件の内容を把握して『受理』したことを明示するために事件番号
および受理印を押印する。
ここから捜査がはじまる。
証拠書類の詳細な確認と企業側担当者から事情聴取をおこない具体的な捜査へ
と進む。
捜査の際、事件関係者におこなう任意の事情聴取があるが、この対応については、
非常に厳格かつ慎重な態度で司法警察員は対応する。
理由は、非常に明快だ。
刑事事件の公判を維持するだけの適法な証拠収集をおこなうためである。
決して無理な事情聴取等はおこなわない。
あくまで任意捜査に協力してもらえる方の自主的な判断に基づき捜査を実施する。
協力を得られない場合、他の挙証可能性を探す。
本当に慎重な態度と姿勢で捜査業務がなされている。
 
他方、臨検の場合も同様に任意で調査される。
協力するか、しないかは企業の判断にゆだねられる。
これまで大部分の企業が協力的だったのではないだろうか。
理由は、今日のような勧告に基づく自主的(?)な是正改善が非常に少なかった
ように思う。
近時の臨検では、人事責任者が抗弁すると『夜間臨検をおこないますよ』など、
任意の調査範囲をいささか超えていると思われる言動がある。
 
問題はいくつかあるが、第一は本来民事事件であれば時間外割増賃金を請求する
従業員に立証責任があるが、企業側に立証責任の転換がなされているのではない
か、という疑念がある。
第二は、刑事事件になるような場合、適正手続きや令状主義の観点から問題がある
といわざるを得ない。
第三は、行政手続に基づく調査の中立性からみて裁量権の妥当性について近時の
是正改善は、裁量権を超えているのではないか、と人事責任者の立場からは、
そのように見えてならない。
労働基準法の狭量的、直裁的な判断と運用だと思っているのは、私だけだろうか。
 
以上のような課題があるので労働問題専門の弁護士を介入させて法律上の問題点、
および企業活動の率直かつ真摯な内容を具体的に証明する必要が、各企業の個別
活動に準じてなされなければならないと考える。
私は、現状のままおこなわれる監督権限に基づく調査では、企業側に著しい不利益
が課せられていると考えている。
前記した臨検当日任意に提出する書類は、上記の内容から顧問弁護士と相談の上、
慎重な対応を取る必要がある。
顧問弁護士がいないような場合、先ず弁護士会で実施している法律相談等を活用
することを勧める。
『任意ですので、顧問弁護士と相談の上、後日報告いたします』を徹底することだ。
近時の臨検、調査は、企業防衛を含めて確実な対策をとっておかないと、人事責任者
の権限をはるかに越える結果となる。
 
労働基準監督署によっては、各署別に若干対応がことなっていることを念のため申し
添えておきたい。
 

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最終更新日 : 2014-10-07 10:09:05

経営管理と時間管理

1.経営管理と時間管理の在り方
 
時間管理の考え方は、企業規模によって違いがあるが従業員300名以上を
超える企業規模を対象に書いている。
この規模では、大体タイムレコーダー等を利用した勤怠管理をおこなっている
と思う。
場合によっては、私が在籍した企業のようにタイムレコーダーの打刻から給与
計算へ連携処理をおこないシステム化することで対応している企業がある。
あるいは、勤怠管理表(エクセルなどで作成)に自己管理している企業も多い
ようだ。
どちらにしても勤怠管理は、なんらかの方法で実施されているはずである。
 
臨検等を受けると時間管理の点で多くの問題が発生する。
先ず、人事部門が慌てて残業時間の修正依頼や社内通達で残業管理の
徹底などをおこなうことが多いと思われる。
抜本的対応であればそれほど問題がないが、往々にして対処療法をおこ
ない、問題を複雑にしてしまうことが多々ある。
現場部門は、終始混乱する。
この際大切なことは、すぐに無理な対応をしないことだ。
人事が一生懸命なのはわかるが、往々にして改善から改ざん、隠蔽へつな
がことがある。
臨検等の場合の問題解決には相当の時間がかかると考えよう。
経営者、部門責任者を含めて1年程度は十分に業務改善のための時間が
必要だ。
日頃の違法性の認識からか、すぐに改善をおこなうとするが、これが一番の
愚策だ。
人事が真っ先におこなうことは、時間管理を従来どおりおこなうことである。
理由は、性急に変更すると人事の意向に反して現場では改ざん、隠蔽に
なりがちだからだ。
現場は、現場なりの主張がある。
時間管理のすべてが間違いではない場合がある。
また、改ざん、隠蔽がなければ企業側、従業員側の主張をおこなうことができ
る。
問題点を労働基準監督官へ真正面から主張して改善項目を抽出できるからだ。
企業にとって企業活動を見直す、いわば経営管理を見直す絶好のチャンスである。
この点を明確にしておいて欲しい。
ここから自社の問題点があれば、業務改革と就業規則等の変更へつなぐことが
最善の方法だ。
経営者とは、この過程をとおして現状の業務遂行上の課題や問題点を共有し、
次年度における業務改革が可能となる。
 
このようなプロセスをとおして企業活動を見ると無理な残業をおこなっているの
ではなく、就業規則や運用細則等に問題点があることも明確になってくる。
単に不払い賃金を支払うことでは問題解決にはならない。
むしろ企業側が不払い賃金を支払う理由について納得することなく、支払った企業
ほど真の業務改革や業務改善のチャンスを失う恐れさえある。
人事担当者が、あまりに短絡的に判断するために結果だけが一人歩きしている
現状が存在する。
 
人事担当者は、経営的視点から企業業務の本質を理解できなくてはならない。
企業における各部門の仕事のあり方、マネジメントの課題、業種特性等残業の
判断をおこなう場合でも多くの要素が重なりあっている。
ひとつづつ丁寧に分解していくことが必要だ。
本当の課題の抽出が先決になる。
さらに不払い残業を引き起こしている制度の欠陥を発見してトータル的な改善
をおこなうことが、人事担当者に求められる。
そのために自分の専門性の限界を知り、労働基準監督官と真摯に向き合うため
には、専門弁護士をいれて徹底的に自社の主張と改善点の把握をおこなうことが
重要だ。
その上で現場において有効性が高い制度の導入をおこない無理がない残業と
適法な企業活動の推進を図るすることだ。
 
2.時間管理における反証と経営管理の進め方
 
企業活動は、いろいろな意味で柔軟性を求められる活動である。
法律の条文のように一律適用が簡単でないことは、人事担当者であれば十分承
知されているはずだ。
常に人事に求められることは、異常な経営体制になっていないかどうか、また
異常な時間管理を業務命令でおこなっているマネジメントがいないかどうか、
を把握して適切に指導していくことである。
また、従業員が自分の意思で必要な業務を裁量的にやっているのが、現代企業
の特徴だ。
硬直的で違法な業務命令がなければ、かなりの部分において反論が可能となる。
 
弁護士を入れて勧告等に対応する場合、弁護士は『上申書』を作成する。
監督官からの指摘事項の認否、および企業側の労務管理の実態を把握して
法的な根拠を明示しながら反論をおこなう。
監督官と事実関係について議論する機会は、月に一回程度になる。
毎回、反論をおこなうと同時に監督官からさらに説明を求められた事項について、
次回の説明機会までに調査をおこない事実関係の確認や問題点の把握を人事
担当者はおこなうことになる。
弁護士は、前記事実関係や問題点にもとづき、次回の上申書を作成することに
なる。
最終的には、監督官が納得するまでおこなう。
弁護士に確認すると、臨検直後に対応すれば説明の機会は2~3回程度で済み
、是正勧告をもらう場合は、大体1年程度の期間が必要になるとの見解だ。
勿論、企業規模や労務管理の内容、違法性の程度によって違いがあるのは当然
である。
 
監督官へ報告する最初の反論は、従業員による『陳述書』になる。
簡単に言えば、従業員へ労働時間の確認や業務命令の有無、残業申請しなかっ
た理由について、ありのままのに記述してもらう。
ここで絶対にやっていけないことは、人事が従業員を誘導して陳述内容を記入させ
ることだ。
まさに改ざんの入り口になる。
 
必ず人事がやらなければならないことは、『自社の立場に不利な情報』でも明確に
記述してもらうことである。
意図的な記述は、まったく意味がない。
余程の企業でないかぎり従業員の賃金搾取につながるような経営をおこなうこと
などないはずである。
 
最初に記述したように企業活動は人間がおこなう非常に柔軟な活動なのだから、
そこでは、従業員自身、自らが時間管理をおこなっているケースが多々ある。
人事がいくら時間管理を周知徹底させていても主体性があり、非常に高い目標を
設定している人材ほど上司の業務命令など必要なく徹底的に仕事を遂行していく
ものである。
また、企業規模が拡大すればするほど全体的で一律的な時間管理をすることなど
人事が絶望するくらいに難しいものになる。
先ず、経営の方向性が適法だということが前提で適切な周知(業務通達)をおこな
っておくことが大切になる。
 
臨検、調査等で終業時刻と退勤時間の乖離がある従業員については、乖離時間
にける業務実態を正直に記述してもらう。
その際、人事担当者は、従業員個人へ送付する書面で当該陳述書記述における
主旨を正確に明示しておくことだ。
また、記述により従業員本人が不利な取り扱いをされることがないように担保して
しておいて欲しい。
人事が恣意的に記述させていないことを証明できる資料になるからだ。
陳述書に記述する従業員数は、乖離時間が多い上位を企業規模に対応して実施
することになる。
企業側にとって、より不利な日時で適切な日数をサンプリングして記述してもらう。
必ず本人に自由に記述させる。
企業側に不利な内容も実態どおり記入させる。
そのような内容を提出するとさらに行政側から追い討ちをかけられると思うだろう。
実態は、その逆なのである。
企業側が任意に実態をありのままに提出しているので、当該書面を根拠に摘発
などできなくなる。
弁護士は、上申書で法的ガードをかける。
無論、問題がある場合は、速やかに改善した事実が必要だ。
ここで上申書などに虚偽の記述をおこなうと、次回臨検時に実態と相違することから
送検の対象になることはあたりまえだ。
何事も誠実に改善し対応することが、人事に要求される。
また、社長に代わって速やかに改善するだけの実行力が要求されることになる。
 
大体、自信がある経営者は、すべて人事責任者に一任する。
陳述書に記載する内容について、いちいち指示などださない。
勿論、社長宛の報告は毎回必ずおこなう。
もっとも上申書は社長名で弁護士が代理して書くことになる。
 
違法な企業経営をおこなう経営者ほど、このような対応にひとつひとつ介入して
くるようである。
このような経営者のもとで人事をおこなう担当者は、法令違反になるような行為を
『会社の命令でやりました』といっても実行犯としての責任は免れない。
これからの時代、適法性と責任について毎回実行者として反すうすることだ。
罰金、および懲役とも前科がつく。
卑近な例は沢山あるので、常に自分の身に置き換えて考えておこう。
 

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最終更新日 : 2014-10-07 10:12:42

割増賃金試算と経営管理の有用性

臨検後、2ヶ月ほどすると是正勧告書がくる。
本来、『是正勧告』を受領する前に弁護士と相談の上、対応することが最善
の策となる。
人事責任者の限界を知ることが重要な仕事である。
『是正勧告』受領後の場合、反証活動が必要になり、その上企業側に相当
な順法意識と順法活動の積み上げという実態が必要となる。
企業側に適法性を有する実態があるにもかかわらず臨検後、直ちに弁護士を
入れることを勧める。
この問題は、法律問題となるからである。
法律問題になると、法令の解釈の問題へ転化される。
こうなると、行政権限とともに監督官のほうが専門性であきらかにうえに立つ。
 
未払いと思われる賃金試算の前に時間外割増賃金の発生要件を確認してみ
よう。
(1)使用者が従業員に実際に時間外労働を指示した事実がある
(2)従業員がこれに応じて実際に時間外労働をおこなう
(3)しかるべき法定の計算根拠による金額が算出さる
(4)従業員が使用者に対してその支払請求をすること
以上の要件が必要となる。
 
判例も使用者が時間外割増賃金の支払義務が発生するのは、『管理職が
時間外労働を命じた場合か、黙示的にその命令があったものとみなされる
場合で、かつ管理者の指揮命令下においてその命じたとおり時間外労働
がなされたとき』と判示している。
(東京地裁昭和63年5月27日労判519号)
さらに、最高裁は、単純な時間的拘束を目安にするのではなく、仕事や業務の
内容を本旨とする『業務命令』ないし『指揮命令』の存否を目安としている。
人事責任者は、このような観点から自社の時間管理の具体的内容を判断しな
ければならない。
 
労働行政における時間管理の指針は、平成13年3月31日基発280号、改正・
平成15年4月1日基発0401008号に基づき是正勧告がおこなわれていると思
われる。
主旨は、時間管理の徹底、自己申告制の不適正運用等による。
労働基準監督官とのやりとりで大きく食い違う点が、まさに前記労働時間把握
における『黙示の業務命令の有無』になる。
 
監督官は、企業実態等は考慮せず、強行に『黙示の業務命令』を形式主義で
指摘してくる。
是正勧告書の内容確認では、監督官は未払い時間外手当があるのであれば、
その金額を支払わなければならないと指摘しただけで、臨検監督は、あくまで
行政指導だと主張する。
一方、労働時間の把握の仕方については、行政解釈を基礎にしているという。
この『行政解釈』とは、前記厚生労働省労働基準局によるに各種の行政通達を
さしている。
『あくまで使用者の指揮監督下におかれた状態で労働に従事すれば、労働時間
であり、部下が仕事をしているのを上司が黙認して妨げない場合も労働時間』
だと主張される。
さらに部下の目の前に上司がいて、その上司が黙認していれば労働時間と言え
る、と主張された。
私などは、部下より先に帰ってしまうが、その場合はどうなのか、と確認をすると、
このような質問でも会社性悪説に立っているかのように、従業員個人の自主的
判断業務を認めない対応をとる。
帰社しないのは、黙示の業務命令のため時間外労働になる旨、主張され、当方と
は並行線の議論になる。
簡単に言えば、タイムカードの打刻時間が終業時刻からある程度乖離してい
れば、時間外労働という主張だ。
 
真摯な経営陣や真面目な従業員を有する企業においては、常に多くの課題と
格闘しながらコンプライアンスに基づく企業経営を推進している。
また、経済環境の大幅で急激な変化に対応すべく、日常活動から企業活動の
変革の可能性を模索しているのが、現実ではないだろうか。
企業活動は、各企業が相当な努力を日々行いながら延々と積み重ねてきた
有形、無形の継続的な価値構築作業である。
この点を狭義の時間管理の観点から判断されると、企業には到底容認できな
い実態が存在する。
我々企業実務を担当する者としては、この強行で形式主義的主張に対して、
企業活動の実態から具体的かつ詳細な反論をおこなうべきだと考える。
 
私が、『未払いと思われる賃金』と定義しているのは、もともと未払い賃金など
ないと考えているからだ。
この点、人事担当者は、過去から未来に向けた企業活動の方向性を明確に
認識し、的確に主張ができるよう、日常業務を適切に実施することが求めら
れる。
単なる点の業務ではなく、線から面、さらに企業活動を立体的に把握すること、
および自分の業務に誇りをもって自責に基づく人事業務を遂行していくことが
必要である。
どんなに優秀で立派な弁護士を同席させても、最後は、人事責任者の自分の
信念に基づく確信ある姿勢と態度、発言にかかってくることを忘れてはいけな
い。
 
労働基準監督署の是正勧告に基づく未払い賃金と思われる部分を試算して
みることが必要になる。
勤怠管理システムを利用して時間管理に対応している企業では、非常に
簡単にデータの抽出ができる。
タイムレコーダーから勤怠システムへ連携し、入室時刻と退出時刻のデータ
が一括して取り込まれているからだ。
このデータから必要な期間を指定して出退勤データのダウンロードをするだけ
でいい。
一方、勤怠管理をマニュアル処理している企業では、この作業は膨大な時間
を必要となる。
しかし真の実態を把握するため丁寧にやることだ。
 
データを加工する場合、先ず終業時刻から退出時刻までの時間を厳密に計算
する。
所定終業時刻から退出時刻まで、すべてを残業時間とみなして計算をおこなう。
理由は、恣意性を排除して、最大金額を確定しておくことが重要だからである。
このデータをベースに企業特有の業務実態に合わせた修正をおこなう。
退室時刻からユニフォームを着替える時間、あるいは業務の終了後、退出
するまでに個人が自由に費やす時間を精算することになる。
この点は、業種、職種、雇用形態等によりかなり大きな違いが発生するので
注意が必要である。
契約社員や嘱託社員は、ほぼ定時退社をするし、一般事務職では、明確な
残業命令をおこなう等、企業によって運用形態が結構異なると思われる。
企業活動の実態に対応した合理的な精算方法を定義することが重要だ。
 
計算方法は、給与規則(賃金規則)に基づき時間外労働計算根拠により
おこなう。
ここでは、確実に賃金規則等に対応した計算をおこなうことだ。
未払い賃金と思われる総額を計算をする場合に限って、実態と合わない
計算をやってはいけない。
担当者は、総額を小さくするために恣意的に計算根拠を変更して未払い
賃金額を計算したがるものである。
これは絶対に避けたい。
なぜか。
理由は、簡単だ。
送検された場合の対抗手段を担保しておくためである。
 
企業活動を賃金ベースで考える場合、従業員が時間外労働の申請をしていな
いにもかかわらず、自らの判断で業務を遂行している時間を金額ベースで
把握することが可能となる。
企業内の労働生産性、従業員別労働生産性、部門別労働生産性、時間外
労働に対応した水道光熱費額等の把握が可能となる。
無理な対応をしている部門があれば、早晩従業員個人、部門ともに破綻をきた
すことが予想される。
日常業務の実態を賃金サイドから把握することができる。
この点、労働基準監督署の是正勧告等をもらったことの恩恵と言える。
このような面倒な計算をすることは、前記の事情がない限りほとんどないと思
われる。
私が経験した企業では、事務系(事務職、総合職)70名程度の完全試算で、
2年間で3億円ほどになった。
月額約18万円程度になる。
 
このような試算内容を経営者へ報告すると、大変驚ろかれる。
この情報だけで従業員が一所懸命働いていることが判明する。
真面目な経営者であれば、退社時間の徹底、時間外労働の適切な申請、
賞与評価の改善など人事責任者に指示するものだ。
当たり前だと思う。
案外、経営者は真面目に真剣に考えている。
私を含めて、このような客観的データを提示していない人事責任者に問題が
ある。
労働基準監督官ばかりに目がいくが、実は、企業活動の実態を正確に
把握することができるチャンスなのである。
かといって、未払い残業と思われる賃金があると、人事責任者が認めるわけ
ではない。
この点は、理論的に反論する。
二律背反だ。
だからこそ企業実務を遂行するための本当の実力がつく。
 

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最終更新日 : 2014-10-07 10:14:15

黙示の残業命令

1.黙示の残業命令
 
労働基準監督官は『上司は、部下が仕事をしているのを黙認していれば
労働時間』だと主張する。
実際、ホワイトカラーの業務では、しばしば上司が時間外労働の命令をし
ていないにもかかわらず従業員が自主的に会社に残って仕事をおこなっ
ているケースが散見される。
 
では、そのすべては、『黙示の残業命令』に該当するのだろうか。
 
労基法は、行政取締法規であり罰則つき刑事法規なので、労基法違反
を構成する場合、明白な違反事実の立証が可能な使用者による行為が
要件となる。
労基法第32条は、『使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間につい
て40時間を超えて。労働させてはならい。2 使用者は、1週間の各日に
ついては、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働
させてはならない』と規定している。
この条文は、使用者が『労働させてはならない』という作為義務に対す
る違反行為が明示されている。
 
『黙示の意思表示』とは、言語や文字によらない命令となり、その事実を
確認することが容易でないことは、誰でも想像できるだろう。
この点、労働基準監督官の主張は、いたって簡単な表現だが、個々の
企業活動には相当大きな違いがあると、私は信念をもって主張してき
た。
 
弁護士の安西愈氏は、『表示行為といえるためには、外界へ向けての
表白、表示がなければならい』ところ『明示と黙示との差異は、表示価値
の大小という相対的なものであって』言語以外の『個々の具体的事実を
総合して推認される意思表示』である、としている。
時間外命令を言語や文書でおこなうことが普通だが、時間外労働の認
定は言語や文字のあるなしではなく、個々の企業活動という個別、客観
的具体的な事実に基づき判断することが必要となると、私は考えている。
事実、特にマネジメントによる業務における判断格差は、人事実務をお
こなっていると、必ずみられることである。
会社が指示する時間外労働の判断基準と相違する判断で、マネージャー
が独自に判断でしているケースだ。
また、会社が指示をだして全社で画一的かつ一律に『黙示の意思表示』を
おこなっているケースは、客観的事実としては重大な法律違反に該当する。
まさに摘発されても致し方ないケースだろう。
 
安西弁護士は、さらに単に労働者が居残って残業をおこなっているとい
う事実のみでなく、客観的に残業が必要であった状況が認められなけれ
ばならないし、『労働させた』と推認できる諸事情が加わらなければなら
ない。
そこで、残業の自主申告制の場合において本人が申告しなかったもの
の上司が時間外労働を知りながら放置したという事実から黙示の時間外
労働の指示と認められるというものではなく、『時間外労働をせざるを得
ない』客観的事情があるか否かであり、残業をしなければならないやむを
得ない事情がある場合には、使用者が中止を命じなかったのは、その
労働を容認し、労働の結果を必要としたものと認められるので、特段の
事情がない限り黙示の時間外労働の業務命令があった、と解されると
している。
 
私が経験した範囲では、上記客観的事実の立証責任を企業へ転嫁す
ることが行政指導の目的になっており、企業側はこの点を明白にして
争うべきで、場合によっては訴訟を前提に対応すべき重要な論点だ。
人事責任者は、この点をしっかりと理解した上で、労働基準監督官の
主張に真正面から堂々と反論すべきだと考える。
 
2.必ずある黙示残業の例
 
臨検を受けた際、各部門別に勤務実態の把握をおこなうが、実際
は500名程度の規模であれば、人事は日常的に各部門の勤務実態
の把握ができている。
この規模でできていない場合は、人事に問題があると思われる。
企業規模が従業員1000名を超えるようになると、人事部門は勤怠
データから推測していかなくてはならないので実態把握はむずかしく
なってくる。
この場合の時間管理の責任は、部門責任者のマネジメント能力、
すなわち部下の業務実態把握と同時に時間管理を適切におこなって
いくことができる現業部門の管理能力に移管していくことになる。
あるいは現業部門における管理機能へ移管する。
 
多くは、ここで問題を発生させる。
なぜか。
 
日本企業の大きな特徴だと思われるが、先ず営業優先であり、時間
管理などどこ吹く風といった部門責任者が非常に多いことだ。
大手企業では、管理職研修などをおこなっているが、時間管理の在り
方について適切な指導をおこなっている企業は少数か、おこなってい
ても、常に本音と建前を使いわけている。
大部分は、日本企業特有の集団主義的企業運営の中で、適法性が
風化している。
この点では、上場企業では内部統制制度の観点から談合同様に経営
責任がとわれることになるので改善が進んでいくと思われる。
また、公益通報者保護法の施行により、極端な場合は、内部告発され
る場合も想定される。
経営者、管理者は従前からの意識で対応すると問題が社会化し、
企業業績をも左右することになりかねなない。
心しておいて欲しい。
 
私が在籍していた某企業では、上司は部下より早く帰社するか、上司
(管理職)自らが夜遅くまで業務を推進していた。
部下は、残業をおこなえば必ず全額残業代が支払われる。
勿論、36協定に基づく範囲を可能な限り厳守する。
このように適法に労働時間管理ができている企業は、その後転職したが
皆無である。
 
大体、経営者が残業をネガティブに考えている。
『能力がない者ほど賃金が高くなる』といい。
経営者は、そのため一定の賃金で長時間労働させることで生産性をあげ
ている、という錯覚をしている。
 
なぜ、錯覚か。
 
従業員は、経営者のこの姿勢を見透かして長時間労働にあわせた業務
量の調整をおこなっているからだ。
私から見ると、滑稽そのものであった。
日本のホワイトカラーの生産性が低い実態は、私は、経営者と従業員の
仕事に対する意識の低さがその大きな原因だと考えてる。
 
中小企業の多くは、このようなケースが多いと思われる。
一方、大企業における残業のケースは、残業時間だけ付加価値を創出
している。
このことが理解できるかどうかは、非常に重要な要素だ。
残業を忌避するよりは、営業活動の繁閑を従業員の労働時間で調整
するほうが、はるかに生産性があがる。
中小企業では、従業員の残業時間を増加させないために、さらに従業
員を雇用するといったちょっと馬鹿げたことをやる経営者がいる。
異常なほど残業を嫌う。
日本の雇用を考える場合はこの方がよいかもわからない。
一種のワークシェアリングである。
 
黙示の残業命令は、ひとつは経営者の意識そのものだ。
もうひとつは、管理職による時間管理の意識の低さにほかならない。
経営者が時間管理について理解している場合、朝の出社が早く、夜は
早く帰社しているように思う。
反対に、黙示の残業命令になっている企業では、社長が夜遅くまで
仕事をしている振りをする。
理由は、単純に従業員の長時間労働を監視しているのだろうと思える。
これにあわせて管理職は、社長の視線を意識して、本人は長時間労働
が嫌であっても経営者の長時間労働に付き合っている。
このタイプは、間違いなく『経営者主導型黙示残業命令』だ。
 
他方、経営者は時間管理についてそれなりの意識があり、帰社時間
が早くなるように努力しているのだが、部長や課長の一部が長時間
労働こそが会社のための忠誠心、だと考えているタイプがいる。
いわゆる『管理職型黙示残業命令』である。
このタイプは、結論から言えば管理能力がない人材が大半だ。
いわゆる管理職として能力がない、と言ってよいと思う。
近年は、少数派になってきているようだが、人事部門からけん制を
しておかないと、残業だけではなく、退職者が増加し会社成長の
足を引っ張りかねない。
その上、労務問題を発生させるのもこのタイプが多い。
実際の企業事情においては、『経営者主導型黙示残業命令』が
多数派だと思われるが、官職タイプの一部には、能力がある者が
いるので、巧妙に時間管理をすり抜けたりする。
また、人事サイドから相当なプレッシャーをかけても簡単に引きさ
がらないし、絶対的な自信をみせる場合すらある。
人事からすると、一番やっかいなタイプだ。
最後の手段として経営者から直接指示をさせることになる。
もっとも人事として自分の能力のなさをもっとも感じる瞬間である。
自分のマネジメント能力において反省すべき瞬間だ。
時間管理の対応については、企業は常に真摯な態度で明確な改善
をおこなっておかなければならない。
平成22年の労基法改正においてもその中心は「時間管理」だ。
 
黙示の残業命令こそ、企業にとって具体的で個別的な内容になるの
で各企業は、実態がどのようなタイプかを明確に判断して人事は日常
業務おいて対応しておかなければならない。
 

4
最終更新日 : 2014-10-07 10:15:54

時間外労働手当と労働慣行(1)

大多数の企業では、各種手当を設定しているのではないではないだ

ろうか

各種手当について明確な定義をしている企業は、大手企業では当り

まえだろうが、大部分の中小企業では明確な手当定義をおこなっ

ていなのではないかと考えている

 

各種手当の中で、営業における営業手当は、時間外労働分として

固定的に支払われているケースが多いのではないだろうか

また、役職手当は、定義されないまま支払われているケースが

多く、ただ漠然と支払われている手当のひとつ

これは手当導入時、時間外労働分休日出勤分として支払っ

ているようだが、実態は当初の定義が不明瞭になり明確な内容を

伴わない月例給(毎月定額で支払う給与)として支払われているケース

が多いと思われる

さらに就業規則において役職別の手当額は明示されていているが

手当の定義は明確になされていないことが多い

 

みなさんの会社でもこのような手当が、案外あるのではないだろうか。

 

もっとも支給される手当の内容が明確に定義されているものがあ

資格手当や扶養手当、住宅手当、通勤手当といった手当は、支給

の定義が明確で属人的な支払基準を有してい

 

方、総合手当、業務手当、能力手当、勤務手当、勤続手当、職能

手当、職務手当などといった支給に対して、明確な定義がない手当

存在している。

このような手当については、大体口頭で「時間外労働分になっていま

す」といった、その会社の慣習で支給されているケースが、特に中小

業では多いように思

このような手当について、各社ごとに支給実態と内容を明確にして

くことが重要だ。

それぞれの手当の名称は同じでも各企業における運用実態は、かなり

大きな差があるからである

 

このような手当が、「時間外労働」として支給されているような実態が

あるのであれば、「労働慣行」として法的拘束力を有する場合があ

この点を企業運営の実態に即して対応することにな

また、労働慣行による法的効果の部分は、人事責任者が判断すると

同時に労働弁護士と十分な協議が必要になる

先ず自社の手当内容と運用実態の把握をおこなっておくことが大事だ

 


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最終更新日 : 2014-10-07 10:16:55


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