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プロローグ

 日本時間20XXX月頃。

 東京都H市のT山周辺で目撃情報が多発する。

 同年XXX日。

 現地にて対象物を撮影した動画が動画共有サイトYにアップロードされたと言う情報をMソフト社より受ける。

 同日中に関連研究機関により偽造ではないと確認。

 動画共有サイトYより対象の動画を削除。

 理由を告げず現地の構成員を雇い、家主の不在を見計らって動画を撮影しアップロードした一般男性宅を襲撃させ家を荒らす。

 構成員に扮して同行した諜報員が動画の元データを回収すると共に、端末のデータを全て削除する。

 翌日、動画の解析を進め対象の潜伏先を特定する。

 日本国内での対象との交渉を担当する、神道に仕える巫女に協力を要請。

 在日A国軍による現地調査と巫女の超感覚により、対象が大規模兵力を有している事を確認。

 日本国内の事例では類を見ない規模の兵力であり、より強力な交渉力が求められる為、担当交渉員の補充を検討。

 日本に滞在する資質を持つ者の中から、最も強い力を持つ一人の男を選別した。

 C教会に所属する祓魔師である。


祓魔師

 暗雲立ちこめる東京の空の下、高層ビルの谷間で少ない日の光を受けて金属製の十字架が鈍く光っている。

 オフィス街に佇む教会の中は、外界の喧噪とは隔離されたかのように静まり返っていた。

 ただし、教会と言う場から想像させられる神々しい静けさではなく、真夜中の墓場に迷い込んでしまったかのような禍々しい静けさであった。

 場違いな雰囲気の中心となっているのは教会の中央で立ち尽くす一人の若い女性だった。

 本来ならば美しい容姿の女性なのだろうが、頬はこけ眼下は落ち込み、虚ろな目に殺意を宿し、だらりとたらした手は震え、見るからに異様な気を放っていた。

 30歳前後の黒衣の男性が女性と対峙している。

 短く刈った金色の髪、青い瞳、手に持った十字架と聖書から外国人の神父だと言う事が解る。

「よく相談しに来て下さいました」

 神父は丁重な日本語を放つ。

「あなたの思う通り、あたなは悪魔に憑かれています」

 とても静かながら教会中に響きわたるような声だった。

「なら、さっさと祓ってよぉ!! あんたなら、それが出来ると聞いてここに来たんだからぁ!! さっさと私を助けなさいよぉ!!! こんなに苦しくて辛くて嫌な気持ちばかり抱くのはもう沢山なんだからぁ!!!」

 怒りをぶつけるように女性は捲し立てる。

「確かに私はあなたに憑いた悪魔を祓う事が出来ます」

 神父の声は澄み切った水面に産まれた波紋のように女性の心に波を打ち、彼女を取り巻く負の感情が四散し落ち着きを取り戻していく。

「悪魔とは悪い気の澱みです。

 心や体の弱い部分を核とし、そこに惹き付けられるように、哀れな霊や気の澱みが蓄積し、やがて病へと至ります」

 神父は女性の肩に手を置く。

 その心と体から溢れる暖かさが肩から女性の体全体、心の隅々までに伝わって行き、凝り固まっていた何かが流れ出すように自然と涙が溢れる。

「今、私があなたに憑いた悪魔を祓う事は簡単です。

 ですが、あなたが自分自身の弱さを受け入れ、自分自身を悔い改めない限り、また同じ事の繰り返しとなってしまいます。

 弱い事は恥ずかしい事ではありません。

 懺悔なさい」

 神父が言うと女性は堰を切ったように自分自身の事を話だした。

 神父は静かに女性の言葉を聞くと、静かだが強い口調で言う。

「自分自身を改めるには、まずは生活を改める事です。

 しっかりと朝起き、朝食を取り、存分に働き、夕食を取り、また寝る。

 規則正しい生活の中にこそ、正しい気が流れます。

 そして、生活の中で主や周囲に助けられている事に感謝するのです。

 人は一人で生きているのではありません。

 皆、誰かに助けられながら生きています。

 その事に心から感謝出来るようになった時、あなたは簡単には悪魔には魅入られず、また悪魔に憑かれたとしても、自分の力で立ち直る事が出来るようになるでしょう。

 人は苦しみを乗り越える度、何かを学び強くなる事が出来ます」

「ありがとうございます」

 女性が頭を下げながら言うと神父は笑う。

 いつの間にかに立ち込めていた暗雲が晴れ、ステンドグラスから優しい光が差し込んで神父の体を包み込み、まるで後光がさしているかのように見えた。

「その言葉からあなたは変わりました。

 もう、あなたの中に悪魔はいませんよ。

 私は何時でもあなたの味方です。

 また、私の味方は私だけではありません。

 感謝を忘れずに生きれば、あなたはより輝く事が出来ます」

「はい!」

 そう凛として答える女性の顔は生気に満ち溢れとても美しく見えた。

 そして、女性は改めて一礼すると手を合わせ祈り、教会から去って行った。

 先ほどまでの禍々しい空気が嘘のように、教会の中は神々しい空気で満ちていた。


召集

 神父は上司にあたる主任司祭に呼び出され、都内にあるオフィスビルの一室にやって来た。

 普通の事務所のようだが、窓ガラスはスモークフィルムに覆われ、広い室内にパイプイスが乱雑に置かれているだけである。

 室内には主任司祭と、黒スーツとサングラスの見慣れぬ男、そして赤い袴を着付けた長い黒髪の若い女性の姿があった。

 涼しい顔の女性は神父と同様、強い霊能力を持っているのを感じる。

 日本の神に仕える巫女と言うものだろうと神父は思った。

「すわりたまえ」

 主任司祭に言われると神父はパイプイスの一つに腰を下ろす。

「君たちにはこれからある任務についてもらう」

 黒服の男が言う。

 霊能力を持つ神父であってもその感情を読み取る事は出来ない。

 男から拭いきれぬ死の匂いを感じる事から、おそらく何らかの諜報員であり、感情を消す特殊な訓練を受けて、数々の作戦をこなしてきた者だと思われる。

「君たちと言うのは、私とこの巫女と言う事ですか?」

「そうよ・・・」

 巫女は言う。

 その言葉は冷たく無機質で、強い意志によって心を閉ざしているのが解る。

 霊能力を持つ自分とこの巫女が呼ばれたと言う事は、何らかの霊的現象における対応が求められているのだろう。

 しかも、二人も要すると言う事は、歴史に名を残すような強大な悪魔や妖怪の類いが相手だと考えられる。

 神父はかつて対峙した数々の魔物を思い返す。

 自分一人の手に負えない相手との戦いも数々あったが、異教徒と組むと言うのは初めての事だった。

「君の気持ちも解る。

 だが、これは我々の教会だけの問題ではなく、人類全体の問題なのだ。

 この任務に失敗すれば、宗教を問わず人々が信じるもの、全ての威厳が失われる。

 是非、協力して当たって欲しい」

 困ったような表情で主任司祭が言う。

「解りました」

 神父はうなずいた。

「ではこれを持っていくが良い」

 神父が主任司祭から渡されたものは、ずっしりとした重みのある長細い包みで、神父が臆するような力の奔流を感じる。

 恐らく神の奇跡を宿す強力な祭具の一種だろうと思われる。

「必要になったら使うと良い」

 主任司祭はそれ以上言う事は無かった。

「では君たちにはある場所に向かってもらう」

 黒服の男が言う。


伏魔殿

 神父と巫女が黒塗りの車で連れられた先は東京都H市のT山の麓であった。

 新興住宅街から一本山沿いに入った道は、古寺や集合墓地がある以外にこれと言った建物もなく異様に静まり返っていた。

 一帯は不発弾処理という名目で在日A国軍により封鎖され、場に似つかわしくない戦車が配置され、架設テントに武装した兵士が多数待機していた。

 促されるまま古寺の裏に向かうと、崖の岩肌に真っ黒な入り口がぽっかりと開いていた。

 その周囲を緊張した面持ちの兵士が警戒態勢を敷いている。

 日当りの悪い谷沿いと言う事もあるが、それだけではない冷たく重い空気が漂っている。

「ここは旧日本軍の本部基地の移転や、倉庫、戦闘機の工場等にする事を目的に掘削された地下壕です」

 隊長らしき男性が握手を求めたので、神父は反射的に手を差し出す。

 こういう立場の者にありがちな欲に塗れた心を感じた。

「あなた達はここに潜って頂き、その先であるモノと交渉して戴きます」

 黒服の男の言葉の裏側・・・地下壕の奥地に並々ならぬ力を感じる神父。

「これ以上は私の口から言う事は出来ません。

 目的地までの道筋はあなた達の感覚ならば解る事でしょう」

 色々と疑問はあったが、納得出来る答えを得られそうもないと思い、神父は電気カンテラに灯を点すと意を決して洞窟へと身を投げた。

「健闘を祈ります」

 兵隊達が敬礼に見送られ、しばらく先に進むと神父が口を開く。

「何故ここに軍隊がいるのだ?」

「後始末の為よ・・・。

 作戦終了時の証拠隠滅・・・。

 あるいはわたし達が失敗した時に、一帯を焼き尽くす為のね・・・」

 巫女は感情を込めずに淡々と言う。

「そんな事をしたら罪も無き人々が犠牲になるではないか!」

 温厚な神父でさえ戦慄を覚えた。

「だから、わたし達には失敗は許されない・・・」

「くっ!」

「文句を言っている暇は無いわ・・・」

 ゴツゴツとしたむき出しの岩肌の壕内は無数の魂の残滓が彷徨っていた。

 それはこの地下壕を掘る為の犠牲になった人々の成れの果てだった。

 先の見えない戦争や一部の権力者に振り回され、罪の無い人々が無理な労働をさせられた挙げ句に命を落とした。

 彼らは自分が死んだと言う事にも気付かず、自らの思いを聞いてくれる相手を探して彷徨っている。

 優れた感覚を持つ神父達はその絶好の相手で、あえて意識を閉じない限りはその悲しみや苦しみが痛い程伝わってくる。

 神父は臍の下の丹田に力を込め光を強くイメージすると、神父を取り囲む者達が光の中へと溶け込んでいく。

「さすがね・・・」

 升目のような複雑な地下壕を迷いもせずに進む巫女。

 様々な気配の漂う地下壕の中でもひときわ大きな気配を放っている場所が有る。

 何処をどう行けば其処にたどり着けるか直感的に解る為、迷いようが無かった。

「何故、わたし達がこんな力を持っているか考えた事はある・・・?」

 神父は思い返す。

 神父は子供の頃から一般的な人々の感覚から逸脱していた。

 肉体という器は一般的な人々とそう変わりがない。

 だが、そこに収まる精神が肉体の属する物質的世界から、霊的世界へとはみ出している為、常人の持ち得ない力や感覚を持っていた。

 自分の生きている物質世界に違和感を覚えながら育ってきたが、神父にとっての神・・・真理と呼べるものと出会い、力を人々の為に使う事で自らの存在意義を見つけられた。

「神から人々を救うために与えられたものだ」

「わたしは代々神官の家に生まれ、代々あたり前のように力を持ち、代々人々の為に使ってきたわ・・・。

 神が人々の為に与えた力・・・。

 その考えに相違はないわ・・・。

 でも、わたしはこうも思うの・・・。

 わたしたちの血の中に眠っている何かがもたらしている力なのではないかと・・・」

 そして、二人は地下壕内で広くなっている空間に出る。

 空間上に巨大な螺旋模様を描くように摩訶不思議な機械が建造されている。

 そして、中央には陶器のような滑らかな艶を持つ、無機質とも有機質とも異なる材質で作られた円盤が収まっていた。

 そこには近寄れば魂の原型も残さぬ程に消し飛んでしまいそうなぐらい、強大な力が集まっていた。

 どうやら螺旋状の機械が大地の気を集めては加速させ、中央の物体へと注ぎ込んでいるかのようだった。

 それは物質でありながら、自分達と同じように霊的次元に本質を持っている為、容積以上の力を有する事が出来るらしい。

 神父はかつてこれほどの力を有するものを他に見た事が無かった。

 まるで地球の力の化身であるかのように威厳を放っていた。

 ちっぽけな自分等がどうにか出来る次元を超えていると神父は圧倒されていた。

「交渉しにきたわ・・・」

 巫女がその物体に向かって言葉を放つ。

 それは肉声であっても精神に直接訴えかける言霊のようなもので、言葉の壁を超えてのコミュニケーションを可能にするものだった。


遭遇

 音もなく円盤の正面が開口し、中から柔らかい光が差し込んでいる。

 まるでパソコンのウィンドウを拡大する時のアニメーションのような動きだと神父は思った。

 どうやら、入れという事らしい。

 巫女は臆する事なく光の中へと向かっていくと、まるで重力が消失したかのように開口部へと吸い込まれていく。

「神よっ・・・!!」

 神父も続いて一歩踏み込むと、浮いているという感覚もないまま視界がホワイトアウトし、次の瞬間には構造物の中にいた。

 構造物の中も外部と同様の白いセラミックのような質感で、従来の建造物と全く異なる点は照明であった。

 通常照明というものは光源から照射されるものだが、この内部にはその光源と呼べるものはなく、構造物全体が光を放っているような感覚だった。

 太陽光化よりも自然な光であり、一切の目への負担を感じなかった。

 やはり螺旋を描くような細い廊下を暫く歩く。

 途中に部屋や扉のような類いは無く、必要とあれば先ほどの出入り口のように開いて、室内に入れるのかもしれない。

 そして、行き着く先にはひときわ大きな開口部があった。

 一気に視界が開け何も無い大きな空間が現れる。

 そこには三人の人の形をした何かがいた。

 肉眼で見る限りTV等で見かける未確認知的生命体そのままの姿なのだが、霊能力を持つ神父には霊的次元に属する彼らの本当の姿を感じる事が出来た。

 男性や女性等の性別を超越した神々しい美しさを備えた人物達であった。

 神父はその姿に教会に伝わる天使画を想像した。

 まさしく、神父が長い間追い求めて来た存在そのもののような気がした。

 全く感情は読み取れないが、隣にいる巫女もその神々しさを感じているに違いない。

「座って下さい」

 それは耳に聞き取れない音だったが、精神に直接訴えかける言霊のようなものだった。

 中央の人物が言うと何も無い空間に二つの椅子が現れる。

 二人は腰を下ろす。

 次元こそ全く違うが、何となく始めに召集された部屋を思わせた。

 あの部屋は彼らと接触した人々が、彼らを模倣しているものなのかも知れない。

「先ずは我々の言葉を聞いて戴きたい」

 神父はその壮大な声に信仰心を感じざるを得なかった。

「君達はこの施設の事を知っているかい?」

 神父は軍の隊長の言っていた言葉、それからここに来るまでに遭遇した残像達の記憶の断片を思い返す。

 神父の考えている事は即座に彼らに伝わったようだ。

「君たちが産まれる少し前、この星中の人々が争っていた時代の事だ。

 この国の首脳達は負けが見えていたのにも関わらず、権威に凝り固まり勝利と言う幻想を抱く事で、民を犠牲にしてまでこの施設を作らせようとした。

 無理な労働によって犠牲となったのは戦力にならない子供達や、人権を剥奪された植民地の人々だった。

 そんな歴史があるのにも関わらず、今この施設は人々から忘れ去られようとしている。

 歴史はより良い社会を築き上げる為の礎となるべきなのに、人々は都合の悪い歴史を覆い隠し、都合の良い歴史を美化し、本当の事を伝えていかない為、同じ過ちを繰り返してしまう」

 その言葉はそれが自分自身の罪であるかのように神父の胸に深く突き刺さる。

「また、この土地は不死の山から東の都へと流れる、強大な高次元エネルギー・・・この土地の言葉で言う龍脈の中継点であり、東の都はこのエネルギーに守られた安定した暮らしを営んでいる。

 だが、一部の人間が利益を求めた余剰な公共事業によって、この龍脈の通り道に風穴を開けようとしている」

 それは神父も知らない事だった。

「歴史から何も学ばずに互いに殺し合う。

 大地に生かされている感謝を忘れ、万物の長であるかのように振る舞っては、尊い自然を破壊する。

 愚かな人間達の向かう先は間違いなく破滅だ」

 人々に苦しみを乗り越えて学ぶ事を、生きる事の感謝を説いている神父にとって、自分自身も愚かな人間であると言う事を身につまされる思いであった。

「我々はここに流れる高次元エネルギーを蓄え、多くの仲間達を呼び寄せる力とし大船団となって人々の前に姿を表す事で、人間達に警鐘をならす事を目的としている」

 彼らの意思力は強いものだった。

 普通の精神力を持つ者ならば彼らの言葉に洗脳されてしまっていたかもしれない。

 強い精神力を持つ神父はそうならないものの、シンパシーを感じざるを得なかった。

 「残念だがあなた達の要求を飲む事は出来ない・・・」

 巫女は感情を沈めて淡々と言い、それが言霊となって伝わる。

 その言霊は巫女の本心を隠した偽りのものである事が神父から見ても解った。

「あなた達の存在は未熟な地球人からすると脅威でしかない・・・。

 より高次元なあなた達の存在が明るみになれば、宗教や軍事力や社会など人々が信じ、人々を守るものが如何に脆弱であるかを知り、不安に駆られて秩序はいとも簡単に崩壊してしまう・・・。

 この神父はともかく、わたしや多くの人々はそれを良しとしない・・・」

 神父は自分の思いが見透かされている事にぎょっとするが、それ以上に巫女が本心では自分と同じ思いでいる事が解り胸が痛かった。

「もし、あなた方が人々の前に姿を現すならば、人間の軍隊がこの周囲を破壊し尽くします・・・。

 そうわたし達や、周囲に済む住民ごとね・・・。

 あなた方が高次元の生命体であろうとも、そうなれば一巻の終わり・・・。

 無駄な犠牲を出したくないし、わたしも死にたくない・・・。

 あなた方も死にたくないでしょう・・・?

 だから、ここは退いて欲しい・・・」

 神父は無茶苦茶な脅迫だと思いながらも、巫女が心を痛めている事が解っていたので、何も言う事が出来なかった。

「残念だ・・・。

 それは出来ない・・・。

 君たちとは解り合えていると言うのに、人としての柵に囚われている故に、刃を交えるしかないなんて・・・」

 彼らのその言霊はまるで泣いているかのようだった。

「こちらも残念ね・・・」

 巫女は立ち上がると手にした包みの中から片刃の剣を取り出し、その刹那、目の前に居た生命体の首をはねる。

 そして、そのまま光るサーベルを持って襲いかかるもう一人の生命体の攻撃を受け止める。

「この剣はかつて須佐之男命が八岐大蛇を退治したとされる天羽々斬剣(あめのはばきりのつるぎ・・・)。

 霊的な次元から物質を切り刻み、また霊的な次元の攻撃をも受け止める退魔の剣よ・・・」

 まるで他人事のようにその様子を眺めていた神父はハッと我に返り、迫って来る生命体の光の剣を、手にした包みで凪ぐ。

 包みが焼き払われ、中から両刃の剣が現れるた。

「これはアスカロン・・・! 聖ジョージがドラゴン退治をしたとされる魔法の剣ではないか!!」

「そう、わたしたちが交渉役として選ばれたのは、霊能力による言霊による対話が可能な事・・・。

 そして、霊能力者であり聖職者であるが故に、宗教に伝わる退魔兵器を持って、霊的次元に属する彼らを滅する事が出来るからよっ・・・!!」

 巫女はサーベルを受け流すと、そのまま胴を凪ぎ生命体を一刀両断した。

 最後に残った生命体は負けを悟り、船へと思念を飛ばす。

「こうなれば一隻だけだとしても、この船を人々の前に晒すとしよう」

 甲高い金属音と共に船に力が満ちて行くのを感じる。

「くっ、止めなければっ・・・!!」

 巫女は超感覚を使用し、船の残留思念から操作方法を読み取ろうとする。

 自分の知識の容量を遥かに超える情報量に、巫女の頭脳は悲鳴を上げて鼻血が垂れる。

 その間にも残った生命体は神父への攻撃を緩めなかった。

 霊的存在に近い彼らと比べれば、肉体的な力や運動神経は神父の方が上なので、なんとか攻撃を避け続ける事が出来たが、闘争心を持たず防戦一方の末に体力は限界に達しつつあった。

「くそぉっ!!」

 力任せに相手のサーベルを払うと、紫色の血を吹き出しながら生命体の腕が飛ぶ。

 生命体は転がりながら残った片手でサーベルを拾う。

 神父は無意識のうちに地を這う生命体の喉元に剣を突きつけていた。

「船を止める方法がわかったわ・・・!!

 それはこの船の主の消失した瞬間に、制御系を乗っ取り停止命令を流す事よ・・・!!

 それ以外のタイミングではこのまま船が動作するか、自爆プログラムが発動してしまう・・・!!」

 神父の心臓は早鐘を打つ。

「発進まであと10秒・・・」

 船からの警告が頭に直接流れる。

「やりなさいっ・・・!!

 あなたがやらなければ、多くの人の命が奪われる事になるのよっ・・・!!」

 そして、暫くの沈黙。

 5・・・。

 4・・・。

 3・・・。

 2・・・。

 1・・・。

 カタンと言う音と共にその生命体の首が、セラミック質の床に転がった。

 その最後の表情は微笑んでいるかのようで、神父の脳裏に焼き付いて離れなかった。



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