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【作者より読者の皆さんへ】

  私は平成生まれです。
http://yuuki-ran.cocolog-nifty.com/blog/
http://homepage3.nifty.com/yuukirinrin/
で、日々ブログを書いている。かけだしの作家です。
 私の世代は一度として好景気を聞いた事がありません。それで成人式を越えたので。一生好景気はこないと思っていたら。更に2011年3月11日に千年ぶりの大地震がやってきて更に落ち込むばかりです。主人公の小呉千鶴は、そんな世代を代表して何処からおかしくなっていったのかを考えていきます。
 今日たった高層ビルがあったとしたら、それは7年くらい前から話が始まって7年かけてビルが出来上がったと考えて下さい。つまり今日という結果は7年前の政治の結果です。政治は、今日明日、良くなるものではありませんが、マスメディアは、そこに着目していない気がします。現在は過去にありこそが主題です。

 


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【プロローグ】

 その日、小暮千鶴は鼻歌交じりで父の書斎の本箱の整理をしていた。千鶴の父、小暮欣也は哲学者であった。そして、その日、父は公園に出かけて家には千鶴だけであった。これといって家財はないが本だけはあった。良くドラマなどでは整然と本が並んでいたりするものだが、欣也が仕事をすればするほど本箱の本は凸凹状態となり、平積みされ全く乱雑であった。それは、父・欣也が仕事をした証なのだと千鶴は捉え、時に掃除してやるのであった。激動の時代、アメリカの政治学者のサミュエル・ハンチントンは米ソの冷戦後は文明の衝突が起きていて世界秩序の再創造が必要と解く。具体的には中華文明。儒教文明とも呼ぶ。中国を中核として朝鮮、ベトナム、シンガポール、台湾。ヒンズー文明 でインド、アジア大陸において発生したヒンズー教を基盤としている。イスラム文明とはイスラム教を基礎とする文明圏であり石油資源の影響がある。日本文明、中華文明の影響を受けて成立した文明圏であり、日本だけで成立する孤立文明。東方正教会文明はビザンティン文明を母体として発生し、東方正教に立脚した文明圏である。 西欧文明とはキリスト教に依拠した文明圏で世界の中心的な文明であったがが、今後、中華、イスラム圏に対して守勢に立たされるだろうと予測している。ラテンアメリカ文明、西欧文明と土着の文化が融合した文明、主にカトリックに根ざしている文明圏である。アフリカ文明。モンゴル、チベット、タイ、ミャンマーなどは仏教文明として括られているとみており、これらの文明が衝突しあっているのだと解いていた。父の書斎を清掃していたが、気が付くと本を読んでいて、中々進まない。
 あぁ、早く片付けないと、と思っているとき、地震が起きた。直ぐに納まるだろうと思っていたのだが、思いの外、長い! 整理したばかりの本が乱雑になってきた。

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もしかして関東大震災! ……もう駄目かも知れない。家が潰れる。千鶴は窓を開けドアを開け放った。地震で家が傾くとドアーや窓が開かなくなり家に閉じこめられて脱出出来ない事を思いだしたからであった。キッチンへ行き、火の元を念のため、もう一度確認して、それからサンダルを履き玄関から庭に出た。隣近所から声が聞こえてきたが地震の揺れが大きくなり家財が揺れ出し人々の会話が、その音にかき消された。それにしても納まらない。庭に立つ千鶴の足に地面の揺れが感じられる。こんな体験は初めてであった。あぁ、これ以上続くと……。そう思った時に地震が収まりだしたので千鶴は家の中に入った。テレビを付けてと思っていたら再び揺れ始めた。納まったと思ってからの揺れであったから精神的に疲れた。そう、そんな思いで再び庭に出た。この家も見納めなのか……。
 2011年3月11日金曜、午後2時46分、マグニチュード9の大地震。当初、東北地方太平洋沖地震とテレビは報道していたが、政府は4月1日、閣議で東日本大震災と名称を定めた。後に都知事が天罰発言をした。時代の変わり目にあるのに、日本はグルメとお笑いと温泉だけである。これでいいのかと警鐘を鳴らしていたが。誰も真剣に耳を傾けない。そんな思いが都知事をして天罰と言わしめた。後に不適切であったと謝罪会見をしたが、父親の小暮欣也も、人心の乱れは天変地異を呼ぶといっていたから、千鶴は感慨深げに捉えてはいた。明治天皇の父の孝明天皇は、天変地異があると自らの食事を減らして自分を戒めたとよく幼少の千鶴に小暮は言って聞かせた。科学的には立証できないが、確かに、中国の古書を尋ねると、天変地異が起きると、朕(ちん)の不徳の致すところといって帝は国の名前を変えたり、元号を変えたりしたという話が出てくる。その不徳は、いったいどこから生じてきたのか、そんな事を考えるのが千鶴の癖になっていった。

 


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 その日、父の小暮欣也は落ち着きがなくなりソワソワとしだしていた。今日は旧友の竹山平蔵がやって来る日だ。もう、お互いに初老に差し掛かかっている。年々見知った顔が減っていく中、高校時代からの友の訪問が待ち遠しい。まるで恋人を待つかのように落ち着きがなくなり小暮はリビングをウロウロしながら娘の千鶴に
「おい、スルメは大丈夫だよな」と念を押した。千鶴は思わず
「スルメは大丈夫」と言ってから苦笑した。他人が聞いたらスルメの何が大丈夫なのかと突っ込まれそうだと思ったからだ。竹山は、いつも一升瓶を担いでやって来る。酒の肴はスルメを醤油とミリンに漬けたもので、冬なら熱燗、暑くなると冷やと決まっていた。それは千鶴が物心着いた時からの光景で、2人は庭を見ながら縁側でタッパーからミリン漬けのスルメを出して七輪の上に網を乗せて焙って食べる。それが酒の肴だった。
「おっ、テーマソングが聞こえてきたぞ」小暮の言う通り、通りの向こうから少し調子はずれの鼻歌が聞こえてきた。それは吉田拓郎の『我が良き友よ』であった。

♪下駄をならして 奴が来る
 腰に手ぬぐい ぶら下げてー
 学生服に染みこんだ 男の匂いが やって 来る 
 ああ、夢よ、良き友よ、お前、今頃どの空の下で
 俺とおんなじ、あの星見つめて 何思う♪
 竹山は2人を見ると微笑して、いきなり庭から入って来て、肩に担いだ一升瓶を千鶴の側に置き
「鶴ちゃん、又、一段と綺麗になったなぁ」とからかっているのか本気なのか分からない台詞を言った。


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千鶴は微笑して竹山から上着を受け取り、用意したサンダルに履き替えるように促し、エプロンでは風情がないのでタオルを2人に渡した。これは以前、竹山が酔っ払ってズボンにマヨネーズを付けた事があってから、そうする事にしている。父と竹山は高校時代の同級生で、今では父が帝都大学で哲学を、竹山は早慶大学で経済を教えている。小暮は「俺も経済をやっていれば良かった。そうすれば経済番組に呼ばれて、それなりの収入になった」とよく言っていた。竹山は童顔で小柄なので若々しく見えた。今泉内閣以前に二代、今泉を入れて三代、経済のブレーンを担当した。特に今泉内閣では今泉が全て竹山に丸投げした事もあって実質、竹山政治と揶揄され続けた。その後、景気が良くなれば人の噂も七10五日となるところだったが、自生党政治が不況を脱却できず年金問題で大きく躓き民政党へ政権が代わったので竹山批判は高まってしまった。
「小父さん、ネクタイも」
「あぁ、そうだな」竹山はネクタイを取って千鶴に渡すと千鶴は代わりに、氷で冷やしてあったおしぼりを差し出した。
「悪いね、いつも」竹山は顔におしぼりを当てると  
「ああ、気持ちがいい。今日は少し汗ばむから尚更だ」と言って両手をおしぼりで拭きだした。
「おお、相変わらず綺麗に咲いているな」と竹山は庭の紫陽花を指さすと
「ああ、これだけが我が家のちょっとした自慢さ。今日は冷やにしよう」小暮は竹山のコップに酒を入れ、2人は七輪でスルメを炙り出した。香ばしい醤油の匂いが漂ってくる。千鶴の友人は「よく、おじさんの話に付き合っていられるね」と言うが、千鶴は若い男のつまらない話より人生経験を積んだ男の話は含蓄があり勉強になるので苦ではなかった。

 

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