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ストーリー4

 ヒロムはついにフック船長の隠れ家を発見した。先日、営業回りの途中でヒロムと肩がぶつかり、嫌そうな顔を向けた男がいた。その男がフック船長だったのだ。顔を見合わせた瞬間ヒロムの記憶の断片とも言うべき感性がそう告げた、彼こそフック船長だと。

 フック船長はちいさなマンションの一室に隠れ家を持っていた。昼間は背広を着込みサラリーマンを装い会社に通い、その恐ろしい正体を隠しているらしかった。・・・彼がフック船長に違いないわ・・・ヒロムを着け回していた妖精さんもそう告げていた。

 フック船長は若い女と小学生であろう少年少女を、人質として隠れ家に住まわせているらしかった。人質達は部屋の出入りを自由に許されているらしいが、不思議な事に必ずその一室へと戻って来た。・・・きっと薬付けにでもされているのよ・・・薬欲しさに戻ってくるのよ・・・、妖精さんはそうヒロムにナイスアドバイスをした。

 ヒロムはそんな不道徳な行ないに対してアメリカマンとしての正義の心が何か感極まり、その悪巣へ突入することを突然に決心した。今日行くしかない・・・そうするべきだ。

 ヒロムはそう決心した夜、フック船長の隠れ家を急襲した。
「あけろやボケー!」ヒロムはそのドアを何度も蹴り付け。チャイムを連打した。

 チェーンの掛かったドアがカヂャっと開きフック船長が顔を出した。
「な、なんなんですか、あなた。警察を呼びますよ」

 ヒロムはカチンときた。
「警察呼びますよだー!お決まりの台詞をはきやがっって!おれの魂取れるもんなら取ってみー!家に女と子供がいるだろ!どうなるか分かってんだろうな!人質のつもりか!アメリカはテロには屈っしねーらしいぜー!どうなんだ、お前はテロには屈するのか!どうなんだ!大切な人がテロリストに捕まったときお前はどうする?アメリカは屈しないがお前はどうする!銃を向けられたらお前はどうする!相手はお前が資本主義の犬だと言ってきて気にいらねーと言ってきて死ぬかわりにお前を殺すと言ってきてんだ!どーすんだ!子供がオンラインゲームで敵にやられそうになっていたらお前はどうする!回線つないで助けに行くのか!お前の大切な人のホームページで掲示板がアラシにあってたらおまえはどうする!屈するのか!回線つないでやり返すのか!報復は報復を生むんだよ!ボケ!救ってみろお前の大きな愛で全てを救済してみろ!」

 ヒロムは涙を流しながら怒った。家の中からは子供の泣き声と、子供をなだめる女の声がする。
 女、子供を泣かせる奴は許せない。ヒロムはアメリカマンとしての力を解放し始めた。変身していないため力は五万分の一程度しか出ないだろうが、この男相手になら問題は無いだろう。

 ヒロムは手の平をフック船長に向けた。
「んーー!ん!ん!ふーーーん!!はーーーん!!!」
 ヒロムは奇声をあげて力を解放した。手のひらから波動が発せられた。
 フック船長は音もなく崩れ落ちた。
「たのむから、もう勘弁してくれ。もう帰ってくれ」
 ヒロムはもう大丈夫だろうと思った。これでフック船長も悪さをしないだろう。一件落着だ、そう納得した。

「今日のことは誰にも言うなよ。言えば奥の女や子供達の命が困った事になるぞ」
 そう、人質がアメリカマンである自分がした善行に関わったが為に、悪漢に命を狙われるなどといったことは避けたかった。粋な計らいだ、ヒロムはそう思いつつ素早くその場所を離れていった。

 ヒロムは最寄の駅に向かいなが河原沿いの道を歩いていた。
「ティンカーベル、君とももうお別れだね」
 ヒロムはそうつぶやいた。妖精は嬉しいような悲しいような複雑な表情を見せた。

 ・・・ピーターパン・・・やっと思い出してくれたのね・・・・・・けど・・・もうお別れのようね・・・・・・・ピーターパン・・・・・・さようなら・・・・・・・愛してるわ・・・・・・・・・さようなら・・・・・・。

 ティンカーベルは柔らかな光に包まれ、その光が弱まっていくとその姿も淡くなり消えていった。その弱々しい光が消えたとき、そこに姿はなかった。

「僕も愛しているよ。さようなら・・・。」

 数日後、ヒロムは公園のベンチで日向ぼっこをしていた。「暖かいなー」気持ちは晴れ晴れしていた。

 フック船長の隠れ家には誰も住んでおらず既に売りに出されていた。きっとネバーランドへと帰って行ったのだろう。そう、やっと平和が訪れたのだ。

 ヒロムの耳には今でも時折あの可愛らしい妖精さんの声が聞こえてくる。
 ・・・ピーターパン・・・あなたの命は狙われているの・・・私が守ってあげるわ・・・

ストーリー5

 ヒロムは、東横線の各駅列車に乗ってウトウトとしていた。
 営業の外回りで、今日は横浜から渋谷へと向かっていたのだがヒロムは激しい眠気に襲われていた。
 
 おかしい。深夜、柿ピーを片手にビールを飲みつつ、録りためたワイドショーの健康情報を見ながら、ヒーローたる自分のヘルスチェックを夜な夜な実施してきたにも関わらず、不健康な眠気に苛まれる事などあるものだろうか。ありえない事だ。そう、あってはいけないことだ。

 さっきの食堂のおばちゃんに眠り薬を盛られたのか? どうも、俺の顔をじろじろ見ていると思ったが。眠い。眠すぎる・・・。あのおばちゃん、秘密結社のスパイか・・・。

 ヒロムは気が付くと列車の中にポツンと横たわっていた。車外はすっかり暗くなっている。ここはどこだ。周りには余り人がいない。車内を見回すと人数も疎らになっていた。昼間乗った電車だが外はすっかり闇に包まれていた。さっきの眠気はどこか不自然であった。なにか超常現象が起こったに違いない。

 そう! これは「幽霊電車」だ ! 俺は幽霊電車に乗ってしまったのだ! 時空を超えて、世界の境界線を飛び超え、いまや世界の果てへと向かう闇の空間を突き進んでいるのだ! この列車は幽霊電車なのだ! 恐ろしすぎる! 恐ろしすぎるぞ、アメリカマンたる俺の因果な引力!

 辺りを見渡すと、お揃いの青カバンを背負い、眼鏡をかけた少年たちの一団がいる。眼鏡の妖精だろうか、ヒロムは優しく話しかけずにはいられなかった。
「こんにちは、君たち少年。君たちはどこに行かれるのかな?  眼鏡の国かい? はたまた、レンズの国かい?  おじさん、この列車は初めてなんだ。どこにいくかワクワクね。だけど、どうせなら楽しいところに行きたいよね。ネバーランドには行ったことがあるかい。おじさんはね、そこに知り合いがいっぱいいるんだよ。どうせならネバーランドがいいかなー。子供に戻っちゃうぞ、なんちゃってね。あはははは。ネバーギブアップ! らららー ♪らららー ♪らららー♪ 」

 優しく話しかけるヒロムを余所に、突然、子供たちは無表情に語りだした。
「僕達は、おじさんのような大人がいない社会を形成するべく養成されたエリートなんです。世の中のくずは全て海洋に打ち立てた夢の島で大々的に処理をする、そんな夢列島を打ち立てるんです。そして、僕達は労働階級を馬車馬のように働かせエリート公務員宿舎を各地に建造する事で夢のゴールドラッシュ大フィーバ順風円満を味わいつくそうと、そう考えているんです。おじさんは、まさに人柱って感じだよね。あはははは。」

 ヒロムは恐ろしくなった。恐ろしい巨大組織が幽霊列車に乗って極秘密裏にプロジェクトを推進していたのだ。夢の島、ゴールドラッシュの為に大勢の人達が犠牲になるのだ。ひとまず、この車両を離れなければ、このままでは夢列島で食肉にされてしまう。準備を整えてこの国を守らなければ。

 ヒロムは大慌てで窓から飛び降りようとした。誰かが足首を掴んでくる。ヒロムはもがいて、その手を振りほどいて列車から飛び降りた。ばたむ!

 ・・・うっ。ヒロムは気が付くと線路沿いの草むらで倒れていた。幽霊列車からは脱出したのだろうか・・・。すっかり日は明るくなっていた。全ては夢だったのかもしれないな・・・ハハハッ、今日は仕事は休もう、ヒロムは笑顔で自宅へと歩き始める。<つづく>

この本の内容は以上です。


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