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サクラ・2分の1

幹の半分を失った桜の木が立っていた。去年の、とある嵐の夜。桜は雷の直撃をうけたのだ。タロットカードの塔さらながらに。まさに運命。嵐が過ぎた翌朝、公園の管理者は縦に裂けた桜を見た。彼は業者を呼び、この桜をどうするか相談した。彼らは丈夫な丸太を組み、添え木をする道を選んだ。縦に2分の1になった桜が今度は横に2分の1、ポキリと折れれてしまわないように。いまも桜は松葉杖をついた人のようだけど、春にはいっぱい花を咲かせた

  

シリアルという名のキッチン用品店

母は、もちろん優しい。けれど。キッチン用品店に行ったときの母は、なぜか妙に恐ろしかった。肉たたきを手にとり、手ひらをポンポンと叩いてみる母。圧力鍋を持ち上げ、その重量を確かめる母。先の尖ったピーラーも、銀色に輝くチーズおろしも、すべて不気味に見えたが。私が一番、怖いと思ったのはドイツ製の製麺機である。

  

霧中に泳ぐ

扉を開き屋上に出て、恐る恐る私は歩いた。濃い霧だ。突き出した自分の手さえかすんで見える。ひたすらに白く息苦しいほど。縁にたどりつき靴を脱いだ。両手を広げ ……ジャンプ!…… 思ったとおり、うまくバランスをとれば、落下は緩やかなものだった。あとは地上に落ちるまで細く息を保ち、カエル泳ぎすればいい。


ひとりごと

自信のない人ほど、ひとりごとを云いがちだそうだ。本でそう読んで以来なんとなく、ひとりごとだけは口にすまい、と心に決めていた。けれど今夜、顔を洗って鏡を見ると疲れた顔があって、少しイヤになった。心のなかで……    ……とつぶやいた。すると目の前の口がゆっくりと動き……シ・ネ・バ?……と聞こえた。やはり疲れていると思い、すぐに電気を消して横になったけど。鏡の前には、まだ誰か立っている気がした。

     

もらった種

姉からもらった、ひと粒の種は4月、ぶじに芽をだした。6月の雨をすい、7月の日差しに生い茂り、……いま、牙をむいている。

 



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