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霧中に泳ぐ

扉を開き屋上に出て、恐る恐る私は歩いた。濃い霧だ。突き出した自分の手さえかすんで見える。ひたすらに白く息苦しいほど。縁にたどりつき靴を脱いだ。両手を広げ ……ジャンプ!…… 思ったとおり、うまくバランスをとれば、落下は緩やかなものだった。あとは地上に落ちるまで細く息を保ち、カエル泳ぎすればいい。


ひとりごと

自信のない人ほど、ひとりごとを云いがちだそうだ。本でそう読んで以来なんとなく、ひとりごとだけは口にすまい、と心に決めていた。けれど今夜、顔を洗って鏡を見ると疲れた顔があって、少しイヤになった。心のなかで……    ……とつぶやいた。すると目の前の口がゆっくりと動き……シ・ネ・バ?……と聞こえた。やはり疲れていると思い、すぐに電気を消して横になったけど。鏡の前には、まだ誰か立っている気がした。

     

もらった種

姉からもらった、ひと粒の種は4月、ぶじに芽をだした。6月の雨をすい、7月の日差しに生い茂り、……いま、牙をむいている。

 


すべてを台無しにする呪文

「すべてを台無しにする呪文を考えたわ。聞きたい?」……と彼女は言った。ぼくとしては相手にしない。魔法なんて信じないし。すると彼女はこう言った。……「これが最後通告よ、聞きたい?」……なんだか分からないけど、とても恐ろしくなり。ぼくは全力で謝った。

  

水を蹴るネコ

美術館で1枚の絵を見た。1匹のネコが水しぶきをたて、溺れている絵だ。絵は水中と空の部分に7対3くらいで分割されていて、ネコが蹴る水の奥では魚がのんびり泳いでいる。なぜネコは水に落ちたのだろう。分からない。……でも水面の奥の方にはボートが浮かんでいて、釣り人が糸を垂れているから。……もうすぐ気づいてもらえるかも……て思った。

 

 



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