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ひとりごと

自信のない人ほど、ひとりごとを云いがちだそうだ。本でそう読んで以来なんとなく、ひとりごとだけは口にすまい、と心に決めていた。けれど今夜、顔を洗って鏡を見ると疲れた顔があって、少しイヤになった。心のなかで……    ……とつぶやいた。すると目の前の口がゆっくりと動き……シ・ネ・バ?……と聞こえた。やはり疲れていると思い、すぐに電気を消して横になったけど。鏡の前には、まだ誰か立っている気がした。

     

もらった種

姉からもらった、ひと粒の種は4月、ぶじに芽をだした。6月の雨をすい、7月の日差しに生い茂り、……いま、牙をむいている。

 


すべてを台無しにする呪文

「すべてを台無しにする呪文を考えたわ。聞きたい?」……と彼女は言った。ぼくとしては相手にしない。魔法なんて信じないし。すると彼女はこう言った。……「これが最後通告よ、聞きたい?」……なんだか分からないけど、とても恐ろしくなり。ぼくは全力で謝った。

  

水を蹴るネコ

美術館で1枚の絵を見た。1匹のネコが水しぶきをたて、溺れている絵だ。絵は水中と空の部分に7対3くらいで分割されていて、ネコが蹴る水の奥では魚がのんびり泳いでいる。なぜネコは水に落ちたのだろう。分からない。……でも水面の奥の方にはボートが浮かんでいて、釣り人が糸を垂れているから。……もうすぐ気づいてもらえるかも……て思った。

 

 


金魚鉢

公園で。隣に座った男の頭は金魚鉢だった。鉢には流木が沈められており水草が揺れていた。目をみはり私は言った。……「綺麗な水ですね。透明だ」……男は驚いたようだった。不躾だとは思いつつ、私はさらに尋ねた。……「そのう。金魚は飼わないのですか?」……水面に波紋が広がった。

……「金魚鉢。そうかもしれませんね。すべては金魚鉢と言えないこともない。人は金魚鉢に住まい、たとえ金魚鉢を出ても。また金魚鉢。無限の金魚鉢の重なり。それが人生」……そう言って金魚鉢男が立ち上がると、逆光に鉢が輝いて見えた。……「いってみただけです。お気になさらないで」

 



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