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いわずもがなのなにかしら

夜。いわずもがなのなにかしらが訪れた。いわずもがなのなにかしらは古い友人のような顔をしてお茶を飲む。勝手に!ひどく腹立たしいが。私は、いわずもがなのなにかしら対して完全に無力だ。後ろから忍びより、エイヤッと包丁で斬りつけても無駄なこと。断ち切れない、というのがいわずもがなのなにかしらの性質なのだ。はもう諦めた。一緒にお茶を飲むしかない。
 

恋文

母の趣味は恋文ラブレターを書くことだ。中学の頃に書きだして、卒業式に渡しそびれたらしい。まだ完成ではない、というのが母の考えで。以来ずっと手元に置き、ときどき手を入れては温め続けている。いったん書き始めたからには、人はより良く書かずにはいられない……そうだ。
  

三人

わたしは彼が好きで、彼は彼が好きで、わたしはそれが気に入らない。彼女はわたしの親友だが、わたしは彼女を消すことにした。……改めて、「きみが好き」とわたしは彼に言い、彼だってわたしが嫌いってわけじゃないけど。また別の彼女がきて。わたしと彼女は親友になるのだった。
 

なまえ

静かな朝。私は尋ねた。……「私は君を愛してるけど、君は?」……彼は答えた。……「あまり、愛してない」……私は窓を開き冷たい空気を吸い込んだ。「じゃ、私も。愛してるのやめる」
こうして恋人と別れた私は子犬を飼うことにした。戯れに彼と同じ名をつけた。悪意は否定すまい。だが、われわれは仲良く暮らした。犬の成長は速い。老いるのも速い。平均的な寿命のときが訪れ、別れを告げた。彼の名前にも。長い長い魔法がとけて、今は少し虚しい。
 


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