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とりあえず言っておく。

心霊写真なんて、ナンセンスの極みだ。

 

●オーブ

 最近よく見かけるタイプの心霊写真だ。

 写真のあちらこちらに、球形の、あるいはドーナツ状の白い光が写っている。

 これが、霊体なんだそうだ。

 馬鹿が。

 笑わせるな。

 いいか、よく聞け。

 オーブが写っている写真は、まず間違いなく夜間、あるいは暗い場所で、フラッシュを使って撮影されている。

 撮影場所は廃屋などが多い。

 ということは、かなりほこりっぽい場所ということだ。

 そういう場所で、フラッシュ撮影をしたらどうなるか。

 フラッシュの光がほこりに反射して、まさしくオーブのような丸い発光体が写るのだ。

 わかったか。

 

●手や足が写っていない

 わりと以前からあるタイプの写真だ。「心霊写真」というより、「不思議な写真」というカテゴリーで分類されているようだ。

 写真を撮影する場合、できあがった写真を見てみると、目をつぶっている状態で写っている物が少なくない。

 シャッターを押すときに目を閉じているのに気づけば、その時に注意するはずだ。なのに目を閉じてしまっているというのは、その瞬間、撮影者も気づいていないのだ。

 つまり、それほど一瞬のことなのだ。

 撮影の瞬間、被写体がどういう動きをしたかなど、なかなかわかるものではない。

 さて、ここで少々専門的な話になる。

 あたりが薄暗い状態で、フラッシュを使わないで写そうとすると、オートタイプのカメラ、まあ要するに、ほとんどのカメラだ──は、被写体を明るく撮影するために、シャッタースピードを遅くする。

 するとどうなるか。

 動きの速い物は、ブレる。または、ぼんやりとしか写らなくなる。

 つまり、シャッタースピードが遅い状態で、シャッターが作動する瞬間に手や足を素早く動かすと、手足の先だけがぼやけた状態になってしまうのだ。

 嘘だと思うのなら、やってみろ。

 もう一つの例として、「全く写っていない」というものがある。

 これらの中には、実際に、手や足がないとしか思えないものもある。

 それは認めよう。

 だが、手、足、首などが写っていないという写真で、単に身体の陰になっているというものもまた、少なくない。

 腕を身体の後ろで組んでいるとか、足を交差させているとか、たまたま後ろにのけぞっている状態だった、とかな。

 最後の例は「首が写っていない」という写真の真実なのだが、こういうばかばかしいこともあるのだ。

 

●後ろに何かが……

 これも、前例と同じ原理だ。

 シャッタースピードが遅い状態で、シャッターが作動する瞬間に、誰かが後ろを通ったらどうなるか。

 考えるまでもないだろう。

 薄ぼんやりとした、人間のようなわけのわからない影が映る。

 撮影の瞬間は、後ろを誰かが通ったなどというのは、なかなか気づかないものなのだ。ましてタイマー撮影だったら、なおのこと。

 

●蛇の霊

 おそらくテレビだったと思うのだが、霊能力者による心霊写真の鑑定という特集が組まれていた。

 投稿された写真のひとつに、友人数人と撮った写真に、自分たちにかぶさるように細長い何かが写っている、というものがあった。

霊能力者は、その写真に写っている細長いものの模様に着目し、

 

「ここに写っているのは、蛇の霊体です。ほら、この模様。これは蛇のウロコです」

 

 と、のたまった。

 アホか。

 写っているのは、カメラのストラップで、ウロコ状の模様になっているのは、ストラップが組紐だからだ。

 一眼レフタイプのカメラを除き、撮影するためのレンズとファインダーからのぞくレンズが別になっているタイプのカメラの場合、撮影するためのレンズの前に何か障害物があっても、撮影者はなかなか気づかない。

 この場合、撮影レンズの前にカメラの組紐ストラップがかかり、撮影者が気づかないまま撮影されてしまったのだ。

 おそらく、その霊能力者はカメラの知識がなかったのだろう。


●幽霊が写る 

 とまあ、理解しようともしないおまえたちにくだくだしく説明しても、詮のないことだ。

 結局は、実例を示すのが一番だろう。

 外に出よう。もちろん夜だ。

 そうだな。0時前後あたりがいいか。もう少し遅くてもいい。

 場末の、繁華街に出かけよう。

 新宿歌舞伎町なんかはだめだぞ。あそこはにぎやかすぎる。

 鶯谷あたりはいいかもしれない。ラブホテルばかりだしな。

 飲み屋が閉店してしまえば、あたりをうろつくのは、安淫売と、それ目当ての男だけだ。

 さっそく、声をかけてきた女がいる。

 声の感じからして、中国系かタイあたりか。

 好都合だ。どうせ不法滞在だろう。

 手近なホテルに入り、部屋をチョイスする。

 扉を開け、女に部屋へ入るようにうながす。レディファーストだ。

 続いて部屋に入り、扉をロックして、背中を向けている女の後頭部に、ブラックジャックを見舞った。

 女は「あぐっ」とか言って、床にくずおれた。

 一撃では仕留められなかったが、かろうじて意識がある程度で、大声を上げることはできないようだ。

 返り血で服が汚れないよう、下着まですべて脱ぎ捨てて全裸になった。

 テーブルの上にあった、重いガラス製灰皿を手に取る。

 びくんびくんとけいれんする女の身体をひっくり返し、あおむけにする。

 その顔面に向け、灰皿を振り下ろした。

 いいかげん腕が疲れてきた頃には、女の顔は、残骸としか呼べない物になっていた。

 シャワーを浴び、服を着て、チェックアウトする。

 自宅に戻ってから、デジカメで、自分自身の写真を撮影してみた。

 あの女に怨念があるのなら、写真に写ってもいいだろう。

 10枚ほど撮影してパソコンのモニターで確認したが、自分以外は写っていなかった。

 わかったか。

 現実はそういうものだ。

 

 ところで、この手の事件は迷宮入りになることが多いと思っていたが、警察もなかなか馬鹿にはできないようだ。

 あっさりと捕まってしまった。

 お約束の写真撮影の後、取り調べとなった。

 

「……ったくよお。オカルトマニアかホラーオタクか知らねえが、脳みそ膿んでやがるな。なんだよ、これは」

 

 取り調べの中年刑事は、そう言って写真を何枚か俺の前に投げ出した。

 どうやら、俺が自分で自分を写した画像をプリントアウトした物のようだ。

 

「ガイシャと並んで記念撮影しているように合成したのかよ。趣味が悪いにもほどがあるぜ」

 

 この馬鹿は何を言っているのだ。

 俺は写真に目をやった。

 写真の中央に俺がいて、その後ろに、寄り添うように、あの淫売女が立っている。

 肩から上には、不細工なハンバーグのような物が載っているだけだ。

 なるほど。警察も手の込んだことをするものだ。

 こういう合成写真を作って、自白を誘う狙いなのだろう。

 俺はせせら笑ってやった。

 そのとき、別の刑事が取調室に飛び込んできた。

 今、俺を取り調べている刑事よりはずいぶんと若い。たぶん部下なのだろう。

 何やら、えらくあわてている様子だった。

 

「か、課長。さっき撮影したホシの写真なんですが、ちょっとその、これ、あの」

 

 若い刑事は、そう言って写真らしき紙を中年刑事に差し出した。

 

「ああ? 何をわけわからんこと言ってんだ」

 

 取り調べを中断された中年刑事は不機嫌な顔で、それを受け取った。

 受け取って、目をやると同時に顔色が変わった。

 

「……おい。なんだこりゃ」

 

 写真を持つ手が震えていた。

 机に、放り投げる。  自然と、俺の眼に入った。

 壁を背にして立つ俺の後ろに、あの淫売が、ぐしゃぐしゃの頭で立っていた。

 若い刑事と中年刑事は、気味悪い物を見るような目で、俺を見た。

 まったく、度し難いアホどもだな。

 いいか。

 これは多重露光と言って、一度撮影してからフィルムを一コマ分巻き戻して撮影するテクニックで、トリックとしては初歩的な……


この本の内容は以上です。


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