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記憶のイタヅラ

 

「 おう!おぃ、起きろぉ、おぃ・・ おぃ・・ おおう!」

睡眠の中に聞こえた声を現実だと認識した"小鳥"は、

「 はい?」

目をこすりながら身を起こした。

すると、ようやくピントの合った視界には真っ赤な顔で眉間にしわを寄せて睨みつける"イタチ"がいた。
 
( 何事だろうか?)

突然起こされた状況を理解出来ぬまま、取り合えずベッドに正座をする。

「 おまんに聞くけんどぉ、今日帰って来たらなぁ、俺の枕の上にゴミが置かれてたんだよなぁ・・ 誰かは知らんがまったく舐めた事してくれるじゃんなぁ?」

「 えっ、"イタチ"さんの枕にゴミ?」

「 おぉ、会社の誰かが嫌がらせしたんじゃねぇかとも思ったんだがおまん知らんか?」

「・・・」

目線を外して今日を振り返るが、睡眠から抜けたばかりの思考は鈍く、ろくな記憶も浮かんで来ない。

「 まさか、おまんじゃねえらなぁ 」

"イタチ"が強い口調で疑念を向ける。

「 いえ、自分は違います!」

咄嗟にこう答えたのは、"イタチ"に対して嫌がらせをする覚えが無かったからである。

「 ほぉかぁ!俺はなぁ・・ あんまり悔しくてそのゴミをとってあるだぁ、明日になったら他の小僧共をつかまえて端から聞いてやろうと思ってなぁ!」

「 あのぉ、そのゴミを見せてもらってもいいですか?」

"小鳥"の心中は、

( 自分では無いけど・・)

現物を見れば何か事件のヒントが見つかるかもしれないと捜査協力に構えた。

「 おぉ、ちっと待ってろ~」

"イタチ"が引き戸を勢い良く開けて飛び出す。

"小鳥"はベットから降りて"イタチ"のベッドとの間に置かれたちゃぶ台に正座をして待った。

すぐに戻った"イタチ"が、握りこぶし程のビニール袋をちゃぶ台の上に転がす。

「 あっ・・」

"小鳥"の口からこんな声が漏れる。

( なんであの時、思い出せなかったんだ・・)

乳白色の袋を透かして見えたものは、"小鳥"が昨夜食べたお菓子のパッケージだったのである。

それがスイッチだったかの様に、実に鮮明に今日の出来事が蘇る。

今朝、ベッドから起き出した時、夕べ寝ながら食べたお菓子のゴミを右手に掴んで引き戸へと向かった。そして引き戸の右横に下げられている鏡でいつもの様に寝起きの顔と髪の毛を確認した。今日に限っては寝癖がひどく、それを直すのに大分手こずってから外へと出た。

そして、

( ん?)

その手に持っていたはずのゴミを捨てた記憶だけはいっこうに浮かび上がって来ない。

鏡の前に立てば右手の先はちょうど"イタチ"の枕元になる。

( 無意識のうちに離してしまったゴミが偶然にも"イタチ"さんの枕の上に?)

これこそが"小鳥"の気の緩みの現れだった。

冷え切った空気の中で、"小鳥"の全身に熱い何かが駆け巡る。

( 「 たった今思い出しました!」 なんて台詞が通るか?)

この記憶のイタヅラを説明した所で真実と受け止めてもらえるとは思えない。

( 普通思い出すだろ・・)

今更ながら自分を責める。

「 おまん、このゴミが誰のかわかるだなぁ?」

"イタチ"はその表情の変化を見逃さなかった。
 
 

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ケジメ

 

「 あのぉ、それは僕のゴミです・・」

「 ああ?やっぱりおまんかぁ~」

端から"小鳥"を疑っていたに違いない言い方。

「 おい"小鳥"~ おまんさっきは違うと言ったじゃねえかぁ?どういうこんだぁ~」

「 いや、実はさっきは・・」

"小鳥"があるがままを説明するも、

「 おまん男ズラ~?男だったらケジメはつけろぉ!」

鎮まる様子を見せない。

「 ケジメですか?」

「 おぉ、あたりめぇズラァ~!ヒトの枕にゴミを置いてなぁ、小馬鹿にするじゃねえぞぉ!俺はなぁ、まだ おまんぐらいの頃不良とケンカになって相手をボコボコに負かしちまった事があるだけんどなぁ、相手は本職だわぁ・・ 素人に負けましたじゃ飯は食えねえ訳だ、わかるかぁ?」

「 はい 」

「 それっから幾日か経って俺がアパートで寝てる時だわ・・ 突然夜中に何人かが部屋に入って来てなぁ、ボコボコにされて便所に顔を突っ込まれて言われたもんだぁ・・ 「 悪いが兄さん、ワビを入れてくれるかい?」 ってなぁ・・ 顔こそ見えなんだが相手が誰かはすぐにわかってなぁ・・ テメエが悪いとはちっとも思わなんだが便所の水に顔を押しつけられながら気付いたわ! どっちが良い悪いじゃねぇ、こいつらの面子を潰す訳にはいかねえんだ・・ ってな!」

「 はい・・」

「 てめえも男なら筋は通さなきゃいけねえわなぁ~」

( ケジメ ?、スジ? 何をすれば良いのだろうか・・)

"イタチ"の話からすれば、自分が悪くなくとも相手の面子を潰したらワビを入れろという事になる。

( 預かりの自分に舐めたマネをされたとなれば"イタチ"さんの立場が無くなるって事か?)

片身の狭い境遇で文句も言わず寡黙に徹している"イタチ"を知っていればこそ、この豹変に大いなる怒りを見た"小鳥"は、今度はちゃぶ台の足先よりも低くなる程に頭を突き、

「 "イタチ"さん、すみませんでした!」

土下座をした。

「 "小鳥"~、おまんのケジメを見せてくれや 」

「 え?」

( 謝罪じゃねぇのか?それとも謝罪の仕方が悪いのか?)

完全に戸惑う"小鳥"。

「 いいかぁ!」

「 はい 」
 
 

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疲弊の選択

 

「 男だったら指の一本でも詰めろや~」

「・・・」

( 指を詰める?)

握り締めたコブシを太ももに押し当ててうつむく"小鳥"に、

「 おい!」

と"イタチ"が据わった目を鋭く向ける。

「 おまんがひとりで詰めれんじゃぁ、若い衆を呼んで手伝わせてやるわ~」

「 "イタチ"さん、勘弁してください 」

「 ふざけるじゃねえ!日本刀で叩ッ切るぞぉ!」

"イタチ"が吠える。

( 何?日本刀まであんの?)

と驚く"小鳥"。

「 "赤鬼(社長)"や"大蛇(専務)"が昔どれ程だったか知らねえけどなぁ、俺は兄弟の中じゃぁ一番荒っぽいだぁ・・ アイツらより甘かぁねえぞぉ!」

「 はい・・」

最早手の打ちようが無い。
 
全身の力は奪われ、蛇に睨まれた蛙よりも絶望してうつむいてしまう。

( 小指の一本くらい良いかぁ・・ 殺される訳じゃないしな・・)

疲弊した心理の選択とは不思議なもので、普段とは価値観を別にするものである。

「 わかりました・・ 指詰めます 」

"小鳥"がとにかく欲していたのはこの状況からの解放だった。

「・・・」

しばらくの沈黙が流れる。
 
そして、

「 わかったわ、寝ろ 」

「 は?はい 」

"イタチ"が事の終わりを告げる様に部屋の灯りを消す。

しびれた足を引きずりながら静かにベッドへと戻るも、目をつむったら殺されかねないという恐怖心から小刻みに震える"小鳥"の体。決して睡眠など出来る状態では無い。
 
しかし、張り詰めた極度の緊張からの開放は気絶にも似た形で"小鳥"をすぐに睡眠へと引き込んでいた。

翌朝。
 
目を覚まして真っ先に確認したのは自分の両指。
 
「 ある・・」
 
そして、すでに出かけた後の"イタチ"のベッドに近付き、

( 無い・・)

枕の辺りを念入りに確認する。

夕べの出来事を誰にも告げずに作業場で一日を過ごしても、

( これじゃこの先、指が何本あっても足りねえだろうなぁ・・)

胸の内に抱える大きな不安。
 
"小鳥"は、就寝前のベッドで考えた。
 
( もしも再びあんな事になったら・・)
 
しかし、豹変した"イタチ"から逃れる術は、これと言って浮かばない。
 
「 もしもし、俺だけど・・」
 
思わず掛けていた母親への電話。
 

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奥付


 
  著者 : k.kaminari
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