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てきすとぽい杯について
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各夜のお題
第17回 募集要項
第17回 審査結果
入賞作品紹介
《大賞》
『百鬼夜行の客商売』 みお
《入賞》 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『ヘッセ』 犬子蓮木
『高速道路』 粟田柚香
『集合住宅』 粟田柚香
『シーサイド・ヒル』 大沢愛
『ルーインズ』 大沢愛
『スタティック』 大沢愛
『クリスタル・ムーン』 大沢愛
〈候補作品〉 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『The Friendly Ghost』 碧
『The Not-Friendly City』 碧
『創造主の箱庭』 kenrow
『生々しさ』 フィンディル
『幽霊アカウント』 muomuo
『男死病』 muomuo
『名無しの少年』 muomuo
『絆』 muomuo
『そうやって大人になっていく―丁稚安吉の場合』 志菜
『せやせや』 せせせ
『曲り角奇譚』 茶屋
『幽霊屋敷に住むものは』 永坂暖日
『便利な家』 ◆BNSK.80yf2
『助手席の彼女』 永坂暖日
『できごころ』 しゃん@にゃん革
『幽霊屋敷の浴室』 山田佳江
『桜屋敷』 茶屋
『幽霊の生業』 豆ヒヨコ
『幽霊船』 小伏史央
『幽霊屋敷の記憶』 三和すい
『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう
『館長さん』 晴海まどか
『怪談は幽霊屋敷で』 松浦徹郎
『幽霊空き家』 永坂暖日
『九朗右衛門事件帳』 茶屋
『幽霊屋敷の一件』 碓氷穣
『歌声』 茶屋
『ぼくがいまよみたいしょうせつてきすとぽいばーじょん』 ひやとい
『歴史の勉強』 しゃん@にゃん革
『新幹線の中で』 ひこ・ひこたろう
『ぼくとお屋敷』 犬子蓮木
『紅白歌合戦の舞台に俺は立ったのだが』 ひこ・ひこたろう
『幽霊屋敷から出て来たのは古切手』 ひこ・ひこたろう
『大学祭』 ひやとい
『薔薇の香り』 げん@姐さん
『Haunted Horizon』 木野目理兵衛
〈集計外作品〉 ※投稿順
『柿のお供え』 高田@小説垢
『僕がオトコノコを止めた理由』 文才無い魔女
『変な旅』 鳥居三三
〈関連作品〉
関連作品のご紹介
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『The Friendly Ghost』 碧

連作/第三夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.05 23:42
最終更新 : 2014.05.05 23:44
総文字数 : 2016字

獲得☆3.700
 タケルの一家が、この辺じゃ「お化け屋敷」なんて呼ばれたりもしてた、ずっと空き家だった古い洋館に引っ越してきたときのことをよく覚えている。アメリカ帰りなんだって大人たちが噂してそわそわしてたから。今思うと、興味半分、羨望半分って感じのテンションだったんだと思う。私は最初アメリカがどんな場所か知らなかったんだけど、タケルが全然流行の歌とかアニメのことを知らなかったから、どうもずいぶんと遠いところから来たらしいってことだけはわかった。
 タケルは日本のアニメは知らなかったけど、アメリカから持ち帰ったものを少し持ってた。日本ではまだ手に入りにくいディズニーのグッズとか、ローラースケートとか、アメリカで放送されてるアニメのビデオとかだ。タケルは小学校3年の4月の、丁度クラス替えのタイミングで転校してきたんだけど、どうもその海外帰りだっていう立場の微妙さがあったのか、友達作りの波に出遅れて、いつも独りぼっちだった。だから、私は気を使って毎日遊んであげてた。
 今思うとその子供向け映画は別に彼のお気に入りでもなかったのかもしれないけど、一度興味本位で「見せて」と言って見せてもらってから、私はすっかり好きになってしまったのだった。
 筋書きはこうだ。
 幽霊屋敷と呼ばれているある空き家がある。そこに、大金が眠っているという噂を聞きつけてやってきた強欲な男女と、幽霊研究家の親子がやってくる。屋敷にはいたずらっ子の幽霊が3人と、心優しい幽霊が1人いて、いたずらっ子3人はその招かれざる客を4人とも追い出そうとするのだけれども、心優しい幽霊は研究家の娘が好きになってしまって、色々とトラブルはあるけれど、最終的にオトモダチになる。ラストのシーンで、一時的に心優しい幽霊が人間の姿を借りて、ホームパーティーで女の子と一緒に踊るのだ。そのシーンが、ロマンティックで大好きだったのだ。
 アメリカのビデオだから字幕がついていなくて、大まかなストーリーはタケルに解説してもらって理解した。
「ねえねえ、あの映画みたい、つけてよ」
 高校から帰ってきたばかりのタケルにそう言うと、あからさまにうんざりとした顔をされた。
「またかよ、お前ほんと飽きないな」
「だってあれ好きなんだもん。最近はやってるちゃらい日本のドラマより面白いもん」
「どうだか」
 そう言いながらビデオだけ再生してくれたけど、タケルは私と一緒に見てはくれなかった。イヤホンをして別の音楽を聴きながら、宿題をしている。帰ってきてすぐ宿題なんて、なんて優等生!
 邪魔をしないように静かに映画を見た。
 幽霊研究家の娘は、幽霊屋敷に引っ越してきたから転校生だ。友達がなかなかできなくて、ホームパーティーでも独りぼっち。そこに、颯爽と人間になった幽霊くんが現れて、会場の視線をかっさらう。幽霊くんは後姿しか映らないのだけど、周りの反応から、彼が恐らくハンサムでびっくりされているのだというのがわかるのだ。
「ねえ、このシーン、いいよね、私、大好き。どうしてタケルはこの映画そんなに好きじゃないの」
 宿題と明日の予習が一段落ついたらしいタケルに、私は聞いた。タケルはヘッドフォンを外してこちらに向き直ると、何も言わずにじっと見つめてくる。むくんだにきび面に、眉間に皺、垢抜けない感じの制服の着こなし。友達が相変わらずいないのは知ってる。彼女なんて夢のまた夢だろう。映画の女の子を演じてた子役の娘は可愛かったけど、それ以外の点で、タケルと彼女の立場はよく似ている。
「見てて嫌にならない?」
 真面目な顔で、タケルは聞いてきた。意味がわからなくて、私は首を傾げる。タケルは少し考えるそぶりを見せた後、言った。
「キャットはいつか大きくなって大人になるけど、キャスパーはずっと子供の幽霊のままなんだよ」
「それが?」
「俺たちみたいじゃん」
 私は黙って、しばらくタケルが言った言葉の意味を考えてみた。
「タケルがキャットで、私がキャスパーなの?」
 タケルが頷いた。
「でも私、仮に人間の姿になる力を手に入れても、合コンでぼっちになってるタケルを助けにはいかないよ?」
「それは別に良いんだけど……」
 タケルは、小さくため息をついた。
「いつか別れなきゃいけないと思ったら、一緒にいるのが辛くならないか?」
 私は困った顔で首を振った。この土地に住んでどれだけの時間が経ったのだろう。幾千の出会いと別れがあったし、それは私の宿命なので、特に悲しいとか辛いとか思ったことはなかった。タケルの気持ちがよくわからなかった。でも、私と一緒にいるのは気分がよくないことなのだろうか。
「ごめん、なんかよくわかんないけど、私、タケルの目の前にもう現れないほうがいいのかな?」
「それは――……」
 哀しげに目を伏せたタケルを見て、そうか、そうなのかって思った。
「ごめんね、私、人間の気持ち、わかんないからさ。もう、タケルの前には姿見せないね」
 それだけ言うと、私はふっとその場を後にした。


第四夜エントリー 『The Not-Friendly City』 に続く

『The Not-Friendly City』 碧

連作/第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:22
最終更新 : 2014.05.06 23:43
総文字数 : 2102字

獲得☆4.000


《碧一色賞》
第三夜エントリー 『The Friendly Ghost』 続編
The Not-Friendly City



 御堂筋線とかいう地下鉄に乗りたかったのだが、御堂筋と書いてある看板に従って高架下を歩いていたら何故かJRの切符売り場にたどり着いた。JR大阪駅の御堂筋口というところだった。まったくもって梅田駅という場所は恐ろしい。やはり僕は都会というのには向いていないのだ。
 身近にあるのはいつだって辛気臭い田舎の光景だった。垢抜けない町並み、噂好きの近所のおばさんたち、圧倒的物資とイベントの不足。アメリカに住んでたときだって、郊外に住んでいて流行のおもちゃが手に入らなくて不満ばかりだったけど、8歳で日本に帰国した後も、首都圏から遠くはなれた場所に住んでいたから、セーラームーンの放送は2クール遅れだったし、仮面ライダーにいたってはTVで見ることが不可能だった。僕は田舎が嫌いだ。両親がそうではないものだから余計に不満だった。赤毛のアンの実写映画とか、あんなのの何に情緒を感じればいいというのだ。ただ田舎で田舎っぽい娘がはしゃいでるだけの映画だ。両親はあの手合いの、田舎が舞台の辛気臭いビデオを小さい頃からよく僕に買い与えた。その中に、キャスパーという子供向けの映画も含まれていた。
 道に迷いながらもう2時間はあてもなく歩いている。こういう時ってなんて言うんだっけ、足が……スティックみたいになる……、ええと、ああ、そうだ、足が棒だ。帰国してから10年も経つというのに、未だに僕は時々日本語の単語がするっと出てこなくて英単語を口にしてしまうことがある。そういうのが昔から同級生に嫌がられている自覚はあったのだが、どうしようもなかった。別に英語ができることを鼻にかけてるわけではなかったのに、どうして悪意を持って解釈されてしまうのだろう。笑い飛ばしてくれたのは、あの子だけだった。
 見える、のは、小さい頃からの悩みだった。害を加えるやつばかりではないけど、誰にでも見えるものじゃないのが見えるのは、やっぱり薄気味悪かったから。そんな僕のコンプレックスを払拭してくれたのもあの子だった。8歳の、帰国したばかりの頃、出会った、あの子。学校で友達ができず、めそめそしてた僕を、気遣ってくれた。毎日僕の部屋に来て、遊んでくれた。そんなあの子は、僕がアメリカから持ってきたものに色々興味を示していたけど、中でもキャスパーの映画が何故かずっとお気に入りだった。
 見たことのない読者諸氏のために簡単にあらすじを説明しよう。幽霊屋敷と呼ばれているある空き家がある。そこに、大金が眠っているという噂を聞きつけてやってきた強欲な男女と、幽霊研究家の親子がやってくる。屋敷にはいたずらっ子の幽霊が3人と、心優しい幽霊・キャスパーが憑いていて、いたずらっ子3人はその招かれざる客を4人とも追い出そうとするのだけれども、キャスパーはキャットという名前の研究科の娘が好きになってしまって、色々とトラブルはあるけれど、最終的にオトモダチになる。娘は学校に友達がいなくて、ホームパーティーでぼっちになるのだが、そこへ、一時的に人間の姿になれたキャスパーがエスコートしに登場するのだ。
 三浦、と名乗った子猫の幽霊は、この映画が何故か大好きで、何度も何度も僕にこのビデオを再生しろ、と要求した。高校生の頃、僕は思わず言ってしまった。「確かに映画の中では二人は仲良くなってハッピーエンドだけどさ。幽霊は死なないし歳を取らないけど、人間はいつか大人になるし家を出て行くし死んじゃうから、別れなきゃいけないんだぜ。哀しいだろ。俺とお前の関係だってそうだ――」って。それは確かに本音だったのだけど、別に、三浦を傷つけるつもりじゃなかった。
 三浦は困ったような顔をして、言った。「私が一緒にいたら、タケルは哀しいの? 私は、タケルと一緒にいないほうがいい?」
 御堂筋線を探すより、誰かと触れ合うことの方がずっと難しくて苦しい。高校生の時の自分は、どうしてもっと、自分の気持ちをちゃんと伝えられなかったんだろう。
 三浦がいてくれたから、学校で一人でも寂しくなかった。自分は決して孤独じゃないんだって思えてた。でもそれじゃあ、ダメなんだっていう風にも、思っていた。三浦だけじゃなくて、ちゃんとした現実の人間の友達も作らなきゃ、これから先、僕は生きてはいけないんじゃないかって、ちょっと焦ってただけだったんだ。もしかしたら、そんな弱音を口にしていたら、三浦はまた、僕に勇気をくれて、背中を押してくれたかもしれない。でも、現実はそうはならなかった。僕の言葉足らずのせいで、三浦は、僕の前から姿を消してしまった。あれから2年、ずっと三浦の姿を見ていない。
 御堂筋線だって、これから泊まりたいホテルの場所だって、明日下見に行きたい大学の場所だって、多分、勇気を出してその辺を歩いているヒトに聞けば、きっと親切に場所を教えてくれる。でも、一度傷つけて自分の前から姿を消してしまった子猫の幽霊とのよりの戻し方なんて、誰に聞いたって教えてはくれないだろう。僕は取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
 未練がましく未来を見られない未熟な男のため息が人ごみの中に吐き出され都会の空気と混じり消えていった。

『創造主の箱庭』 kenrow

第二夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.04 23:31
総文字数 : 1710字

獲得☆3.889


《私たちにも出撃チャンスを賞》
創造主の箱庭
kenrow


 現世で「お題」が発表されたことを知って、『嘆きの城のハンナ(仮題)』の主人公エミリアは狂喜の声をあげた。
「ついにわたしたちの出番が来たのね!」
 ぎょろりとした目で満月を見上げたかと思うと、彼女は朽ち果てた屋敷を飛び出した。森を一直線に抜けて、今にも崩れ落ちそうなレンガ造りの古城へとたどり着く。
「ハンナ! ねえ起きて、ハンナ!」
「何よ、うるさいわねぇ……」と、寝ぼけ眼の城の主ハンナがてっぺんの窓から顔を出す。
「まだ夜の10時じゃない……もう少し寝かせて。あとハンナじゃなくて王女と呼びなさいと何度言えば」
「この森はいつだって10時じゃない! それともあなた、一生寝ているつもりなの?」
「そのつもりだけど何か?」開き直ったようにハンナが胸を反らせた。
「いいじゃない。どうせわたしの人生は永久に行き止まりなんだから」
「それがね、風向きが変わったみたいなの」
 エミリアは幽霊の特権で宙をふわふわと浮かび、ハンナの部屋の窓へとたどり着く。ハンナの部屋はいつ見てもきらびやかだなと、エミリアは羨ましがっていた。当初のプロットでは物語の序盤でハンナが壮絶な死を遂げて、この部屋も血に染まる予定だった。しかし物語が序盤にも達せず頓挫したおかげで、ハンナは生身の女王として生き続ける羽目になってしまったのだ。
 ハンナ所有の最新型PCで、ツイッターのタイムラインをチェックする。あるアカウントがつぶやいた〈今回のお題:「幽霊屋敷」〉という文字列を目にして、ハンナは人間の身体のままで、エミリアに負けないくらい高く跳びあがった。
「夢みたい! やっとわたしたちの物語がはじまるのね!」
「そうよ! 3年前にどこかの誰かさんがプロットだけ組み立てて放り出した私たちの物語。それがようやく動きはじめるのよ!」
 エミリアはハンナの背後へと回りこみ、そっと肩を抱き寄せた。
「ハンナ、あなたにもきっと素敵なパートナーが現れるに違いないわ」
「うれしい! エミリア、わたしずっとあなたのことが――」
 ガシャァァン!!
 目の前を浮遊する少女にハンナが駆け寄ろうとした瞬間、窓を割って人影が飛び込んできた。
「ちょっと待ったァ!!」
「え、なに、誰なのあなた……?」
 二人の視線の先で、ボクサーパンツ一丁の男が仁王立ちしていた。
「俺は『ネイキッド・ベースボール(仮題)』の主人公、名称未定だ! 今回のお題、この俺がもらったァ!」
「どういうことよ! あなた幽霊でも何でもないじゃない。引っこんでなさい!」
「俺はお前らよりも長い5年もの時を耐え抜いてきた。物語を語らないキャラクターなど死んでいるも同然。つまりなァ、俺だって幽霊同然ってことだよ!」
「『屋敷』要素はどこにあるのよ……」
「学園が舞台だからなァ! いわば学園が屋敷だ!!」
「無茶苦茶なこと言わないで! それと服を着なさいこの変態!」
 エミリアがそう叫んだ瞬間、「「「ちょっと待った!」」」と、さらに別の声が3つ聞こえてきた。
 二人と乱入者一人が割れた窓の外を見ると、城の前に3つの人影が立っていた。
「僕は『水中庭園(仮題)』の主人公、ウラシマ(仮)だ。名称未定くんの言うとおり、僕たちは幽霊みたいなものだ。お題は満たしていると確信する」
「わわ、わたしは『タイトル未定(学園ミステリ)』の主人公、名称未定子(中二♀)ですっ! わたしもその、幽霊って設定で、もう4年半も放置されているんですっ。だから、その」
「フフフ、そして拙者は――」
「あーっ、もうっ! わかった! わかったから!」
 エミリアがたまらず声をあげる。
「あなたたちの言い分はわかったわ。こうなったら最終手段。公平な手段で決めましょう」
 ハンナの部屋に全員を集め、エミリアは幽霊にでも話しかけるかのように、虚空を睨みつけながら言った。
「さあ、どれでもいいから今日こそはじめてちょうだい。わたしたちの物語は、あなたにしか創れないのだから」

 幽霊が詰まったフォルダから目を背け、再びツイッターのタイムラインをチェックする。
「追加お題は『大金』かぁ、残念。今日こそは書けそうだと思ったのに」
 私はフォルダをそっと閉じて、艦隊の育成へと戻ることにした。
 彼女たちの物語が、いつか日の目を見ることを夢見て――。

『生々しさ』 フィンディル

第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:42
総文字数 : 2034字

獲得☆3.875
 二人に一人は「は?」と聞き返す。私の勤め先は幽霊屋敷である。
 しかし詳しく説明すればすぐに納得される。何のことはない、テーマパークのお化け屋敷のお化け役である。接客業と言えるのかどうか分からないが、実際の業務内容は地味である。開園から閉園までの間、来る人来る人を驚かして怖がらせる。ただそれだけ。数日もやってみると他の仕事と大して変わらないことに気付く。このお化けの仕事を続けていて大金持ちになることはまぁないだろうが、私は何だかんだでこのお化けライフを楽しんでいる。
 最近悩みがある。先日、お化け仲間にこう言われた。「貴女のパフォーマンスには生々しさが足りない」と。ばぁー! と驚かすだけの行為を「パフォーマンス」と名付けるお化け仲間のプロ意識も印象深かったが、私は迷った。生々しさだと? 言わんとすることは分かる。わざとらしいホラー映画はあまり面白くない。逆にリアリティのあるホラー映画はしばらくトイレに行けなくなる。お化けの仕事をしていて恥ずかしいことではあるが。悩んでいるのは、どうすればこの生々しさが出せるのか、ということである。お化け屋敷でお化けが出来ることなんて高が知れている。暗闇で姿をきちんと見せられない上に、私の姿を見た人はすぐに走って逃げてしまうのである。そんな制限の中でいかにして「生々しさ」を表現すれば良いのだろうか。表情なのか? いやでも暗闇だ、大して見えやしない。手の動きか? 生々しい手の動きって何だ。格好か? いやこのお化けの衣装は支給されている。カツラではなくて地毛を伸ばせば良いのか? 邪魔になるから嫌だ。私は迷った。
 だが駄目出しをされたにも関わらず何も研鑽しないというわけにはいかないのだ。私も私の仕事にそれなりに誇りを持っている。お化けとして生きていくことを親に誓ったあの日。親にはすごく微妙な顔をされた。微妙過ぎて反対もされなかった。
 そのようなことを考えつつ私は家路につく。夕暮れ、辺りは薄暗い。細い路地を歩き、見上げる。私の家はボロアパートだ。お化け役で大金持ちにはなれないのである。このアパートは幽霊屋敷とは言えないが、幽霊屋敷に近い。と言うのも、「出る」という噂があるのだ。どうやら昔男の子が誤って二階から落下して死んだとかどうとかで。しかし私は今まで見たことがない。恐らくただの噂だろう。そう思ってアパートの外階段を上がり、通路を歩き、自分の部屋のドアを開け、
 居た。部屋の奥のカーテン、そこが少し膨らんでいる。私は全身の血管が凍って沸騰するのを感じた。窓を開けていないのにカーテンが揺らめく。全身から汗が噴き出る。カーテンの下の隙間から青白い足が少しだけ見える。震えが止まらない。背丈は子供の身長程。間違いない、件の男の子だ。私の脳はその答えを弾き出すのを最後にシャットダウンする。どうしようという問いにも答えない。逃げないと、という要望を脚に届けない。異常な量の腋汗が胴を伝って下へと落ちていく。カーテンの膨らみは動かない。絶対に動かないで。でもこのままは地獄。
 と、瞳が水を求めて瞬きをせがむ。もう一分は目を開けたままなのではなかろうか。でも瞬きをした後に男の子が目の前まで迫ってきたらと考えると怖過ぎて出来ない。カーテンの膨らみはそのままだ。下から覗く青白い足も動かない。ああ瞬きしたい。瞳が駄々をこねる。もう少し我慢して! あの男の子が居なくなって! ああ瞬きしたい! 駄目駄目瞬きしちゃいます絶対に動かないでねボクー!
 瞬きをした私の先、カーテンの膨らみは消えていた。足もない。ああ、私の願いを聞き入れて消えてくれたのかありがとうとまで思った私ははたと気付く。このパターンってもしかして、私の真後ろに立っているのではないか。私は叫ぶ用意をしてゆっくりと振り向く。しかしそこにも、居なかった。そのままの勢いで私は天井、床、部屋の隅々まで確かめるがあの男の子はどこかへと消え去っていた。その場に崩れ落ちる。渇きの限界で私の頬を流れる大粒の涙、弁が決壊したのかべちゃべちゃの腋。吐き出した溜息が臭かった。
 こういう時に転がり込めるアテのない私は、その日一睡もすることが出来なかった。出てきてくれたら大声で叫んで逃げ出すことも出来る。しかし、あれから男の子は現れない。現れないせいで、部屋を飛び出すに飛び出せない。恐怖と緊張に心臓を締めつけられたまま朝を迎える。間違いなく人生で一番の恐怖体験だ。そして朝日の差し込む中、私は知る。これが「生々しさ」なのだと。
 お化け役の私はお化けに遭遇し、一日休暇を取った。そして出勤日。私は自信に満ち溢れていた。当然だろう、私は本物のお化けに「生々しさ」をレクチャーしてもらったのだ。これ以上のパフォーマンスはない。恐怖に苛まれたあの日は私を成長させてくれた。本当の「生々しさ」とは何なのか、見せ付けてやろうではないか。そうして私は衣装に身を包んだ。
 一週間後、私はクビになった。その理由は「職務怠慢」だった。

『幽霊アカウント』 muomuo

連作/第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:43
総文字数 : 1415字

獲得☆3.667
「では、こちらのアカウントを抹消いたします。よろしいですね?」
「ああ、いいから早くやってくれ」
「では……」
 生来、お役所仕事ってやつは俺の肌には全く合わねぇんだが、これで最後だと思えば気も楽だった。
 世界的な人口爆発とともに、すべての市民に固有のアカウントが割り当てられるようになって二十数年。非合法に位置情報を収集されたり、買い物の履歴を盗み見られたりといったプライバシー侵害型の犯罪に巻き込まれたときや、逆によからぬ輩が悪事を企んだりするときに注目されるようになったのが、アカウントの抹消による一時的な市民権の放棄だった。
 アカウントを抹消されると法律上は死人と同じ扱いになり、法的な義務だけでなく保護も失われるため、すべてを自分で解決していかなければならなくなる。犯罪の温床として警戒もされるから、表だって手を差し伸べてくれるようなやつはいない。アカウントを削除した時点で、犯罪者になったように白い目が迎えられるだけなのだ。
 そういう、生きながら死者のようになったアウトローな人間たちは、だいたいが追跡困難になり、アングラに潜って生活することになる。一生、もしくは何らかの方法で新しいアカウントが得られるまでの間、通称「幽霊屋敷」と呼ばれるアカウント抹消者たちの巣窟に集うこととなるのが関の山ってわけだ。
「ご愁傷様です。よい来世を」
 感情のない声だ。こいつらは俺たちが別のアカウントを手に入れるまで人間として扱う義務がないもんだから、それこそ幽霊のように精気も真心もない態度で送り出す。――来世? 俺たちが再び人間扱いされる日なんて、あるかどうかも分からない「来世」と同じってことだろう。

 俺は、いくつか当たりをつけていた「幽霊屋敷」への仲介者に早速連絡をとった。市民を勤め上げた年数に応じて“退職金”が出るもんだから、それに群がりビジネスに勤しむ市民様も多いのだ。
「……おう、さっき死んできたからよ。例の件、頼むぜ。ああ、じゃ……」
 プチッ……と切った携帯電話も、やっこさんから前もって渡されていたものだ。自分名義のものは、もうこの世には何ひとつない。俺は、束の間の開放感をとっくに忘れ去り、これから去来する未知の生活への茫漠たる不安と必死に戦い始めていた。
 そもそも俺は、これから向かう「幽霊屋敷」ってやつの正体も知らされちゃいない。一説によるとただのマグロ漁船じゃないかって噂まであるくらいだが、この、情報がすべてを支配するご時世に正体が知れないってのが只事じゃないもんだから、実際に厄介になるまでは触れないでおこうと普通の人間なら敬遠するのが当然だったんだ。……だが、ついに逃げられない状況になっちまった。やはり地下施設かどこかに、文字通り潜ることになるのだと思う。俺は正に、この世を名残惜しむ死出への旅人のような心持ちで、役所の外を見渡した。
 ス……とその時、見慣れた前籠をつけた自転車が通り過ぎて行った。子どもを乗せているようにも見えたのは錯覚に違いない。反射的に顔を逸らしてしまっていたから、本当のところは分からないが……。
「麗華……」
 俺は、おそらくこれが今生の別れになるであろう女の名前を呟いた。……やはり、隣町程度ではダメだった。この手続きを決行するのなら見知らぬ土地のほうがもっと思い切りよく旅立てた。仲介人の言っていたとおりということか。
「お待たせしました」
 振り向くと、今度は過剰なまでの笑顔が俺を待ち構えていた。


第二夜エントリー 『男死病』 に続く


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